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イェルフと心臓  作者: チゲン
第三部 人間とイェルフ
59/61

20頁

 空腹を覚えた。

 そういえば、昨日から何も口にしていない。

 厨房に食べ物はない。作ってくれる娘は、もういない。

 水を飲んだ。腹は減っているが、料理をする気にはなれなかった。

 杯を伝い、水滴が指先を濡らした。

 あの日と同じように。

 シュイの涙。

 走り去る細い背中。

 手を伸ばしたまま、ポロノシューは動かない。

 動けない。

 指先から、あのときの涙のしずくが落ちる。

 言葉を掛けなければならなかった。それなのに、何も言えなかった。

 判らない。俺はどうすればいい。

「その人がいなくなって、やっとどれだけ大事だったか判るのね」

 キローネの言葉を思いだす。

 そのとき彼女は、夫のテモンが出稼ぎに行ってしまい、息子と二人で寂しい毎日を過ごしていた。

「俺がいる」

 喉まで出掛かった言葉を、あのときポロノシューは飲み込んだ。

 昔のことだ。

「…………」

 あのとき、いっしょに飲み込んだ言葉は、今も消化できていなかった。

 違う。消化できていないのは、あのときの言葉じゃない。

 厨房に立ち尽くしたまま、ポロノシューはしばらく指先を見つめた。

 そのうち水が乾いて、そこには何も残らなくなった。

 冷たい指を包み込むように、ポロノシューは拳を握りしめた。

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