18頁
それから、ポロノシューは塞ぎ込む日々が続いた。
あまり家から出ようとせず、患者が少ないときは、昼間から酒を飲んでいることもあった。
そのせいで、ただでさえ陰りのあった顔つきが、更に陰気なものになりつつある。
「ほんとに……どうしようもないくらいバカね、あんたって」
たまに様子を見にきても、シュイは溜め息を吐くことが多かった。
キローネ一家がいなくなってから、彼女も徐々に足が遠のき始めていた。父の監視の目が厳しくなってきたせいもあるが。
「せっかく来ても、落ち込んでるあんたを見るだけじゃ、面白くも何ともないわ」
「だったら、無理して来なくてもいいだろう」
「それは……」
シュイは言葉に詰まる。
別れ際、キローネに彼のことを頼むと言い含められていた。
断るにも断りきれず、曖昧に頷いてみせたが……別に義理立てする必要はないのだ。
「キローネったら、あたしにだけ難題を押しつけちゃってさ」
それでもシュイは、ポロノシューの元を何度か訪れた。
料理を作ればちゃんと食べるし、声を掛ければ返事はする。ただ、ふとした一瞬に、物寂しげな表情を浮かべることが多くなっていた。
「キローネに会えなくて、そんなに寂しいの?」
シュイは思い切って尋ねた。
きっと、彼らしい憎まれ口を叩いてくれる。そう期待していた。
ところがポロノシューは、彼女の方を向いて、微かに笑みさえ浮かべて見せた。
寂しげで、心細い笑みだった。
「……なによそれ」
その輪郭が、不意にぼやけた。
視界がぼやけているのは、彼女が涙を流しているからだった。だから彼の笑みは、目の錯覚だったのかもしれない。
「なんで……」
込み上げてくる感情に、シュイは戸惑った。
「なんで……」
涙が頬を伝い、落ちる。
ポロノシューの手が伸びて、シュイの頬に触れた。
「触らないでよ!」
気が付くと、シュイは彼の家を飛びだしていた。
走っている間も、涙はとめどなく流れた。




