表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イェルフと心臓  作者: チゲン
第三部 人間とイェルフ
57/61

18頁

 それから、ポロノシューはふさぎ込む日々が続いた。

 あまり家から出ようとせず、患者が少ないときは、昼間から酒を飲んでいることもあった。

 そのせいで、ただでさえ陰りのあった顔つきが、更に陰気なものになりつつある。

「ほんとに……どうしようもないくらいバカね、あんたって」

 たまに様子を見にきても、シュイは溜め息を吐くことが多かった。

 キローネ一家がいなくなってから、彼女も徐々に足が遠のき始めていた。父の監視の目が厳しくなってきたせいもあるが。

「せっかく来ても、落ち込んでるあんたを見るだけじゃ、面白くも何ともないわ」

「だったら、無理して来なくてもいいだろう」

「それは……」

 シュイは言葉に詰まる。

 別れ際、キローネに彼のことを頼むと言い含められていた。

 断るにも断りきれず、曖昧に頷いてみせたが……別に義理立てする必要はないのだ。

「キローネったら、あたしにだけ難題を押しつけちゃってさ」

 それでもシュイは、ポロノシューの元を何度か訪れた。

 料理を作ればちゃんと食べるし、声を掛ければ返事はする。ただ、ふとした一瞬に、物寂しげな表情を浮かべることが多くなっていた。

「キローネに会えなくて、そんなに寂しいの?」

 シュイは思い切って尋ねた。

 きっと、彼らしい憎まれ口を叩いてくれる。そう期待していた。

 ところがポロノシューは、彼女の方を向いて、微かに笑みさえ浮かべて見せた。

 寂しげで、心細い笑みだった。

「……なによそれ」

 その輪郭りんかくが、不意にぼやけた。

 視界がぼやけているのは、彼女が涙を流しているからだった。だから彼の笑みは、目の錯覚さっかくだったのかもしれない。

「なんで……」

 込み上げてくる感情に、シュイは戸惑った。

「なんで……」

 涙が頬を伝い、落ちる。

 ポロノシューの手が伸びて、シュイの頬に触れた。

「触らないでよ!」

 気が付くと、シュイは彼の家を飛びだしていた。

 走っている間も、涙はとめどなく流れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ