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たったひと晩で、里は灰燼に帰した。
ここは、山の道を十日ほど分け入ったところにある山中。人間の手など及びもしないような奥地だった。
野伏の襲来から命からがら逃げおおせたものの、行軍の途中で事故に遭ったり、傷が悪化して命を落とす者も続出した。
この場所に着いたときには、二百以上いた同胞も、八十にまで減っていた。
幸い、最長老トスカは無事だった。右足に重傷を負いながらも、自ら先頭に立って皆を率いた。彼がいたからこそ、つらい行軍にも耐えられた。
この場所を、トスカは新たな里と定めた。
出入りのままならない、険しい山奥。
土は固く、作物もろくに育ちそうにない。
人間の目が届かない代わりに、生きていくために必要な物は何もないに等しい。
だがイェルフたちは働いた。
土地を均し、畑を起こし、井戸を掘り、小屋を建て、曲がりなりにも集落の形を作り上げた。
奇跡と呼ぶには、あまりに多くの代償を払い、血を流した。
アコイもジイロも、脇目も振らずに働いた。
トリンも寝る間さえ惜しんで働いた。
日が昇り、沈み、一年が過ぎた。