8頁
寄合には、あいかわらず重苦しい雰囲気が立ちこめていた。
トスカの額にも、皺が寄っている。
「これが嫌なんだよな……」
ジイロは、ここに来たことを早くも後悔していた。
「アコイの奴……なんで俺まで」
成り行きとはいえ、彼に巧く乗せられてしまったような気がして、腹が立つやら情けないやら。
「決心はついたようだな」
トスカの問いに、アコイは無言で頷いた。トスカの顔に、初めて、満足げな表情が浮かんだ。
「では今より、アコイを自警団の長とする」
「えっ!?」
驚きの一声をあげたのは、ジイロ一人だった。長老衆は一様に頷きあっている。すでに話はできていたのだろう。
「まあでも、当然っちゃあ当然か」
アコイの実績や人望を鑑みれば、むしろ遅いくらいだ。
その新しい団長が、最長老に向かって提案した。
「副団長に、ジイロを付けさせて下さい」
「おれぇ!?」
思わぬ展開になった。青天の霹靂だ。
「おいアコイ、そんなの聞いてないぞ」
「言ってないからな」
アコイが自分を連れてきた理由が、ようやく判った。
「よかろう」
これもあっさりと最長老に承諾された。
「……いいのかよ」
「おまえじゃないと駄目なんだ」
面と向かって言われると、何だか面映い。それにアコイの補佐ができるなら、断る理由はなかった。
ぎすぎすしていた寄合の雰囲気が、少し和んだかに見えた。
だがアコイの提案は、それだけでは終わらなかった。
「自警団の何人かで、人間たちに夜襲をかけようと思います」
「なんと!」
これには、さすがのトスカも驚愕した。長老衆からも、どよめきが起こる。
「おまえ……」
ジイロでさえ、言葉を失っていた。
「こちらから攻めるというのか!?」
「危険すぎる!」
たちまち長老衆から反対の声が上がった。
奇しくも、先程アコイがジイロに対して言った言葉そのものだった。
だがアコイに動じた様子はない。居並ぶ長老衆に向かって、きっぱりと言い放った。
「我々からも攻めるべきです。でないと、人間たちは図に乗って、見境無くこの山に押し寄せてきます」
長老衆がなおも反対の声をあげるが、トスカがそれを制した。
「それが良いと、おまえは考えたのだな」
「はい」
「ジイロもそう思うか」
「え……」
いきなり水を向けられて焦るジイロだったが、アコイの顔を見て、力強く頷いた。
「判った」
最長老のまさかの決定に、座から悲鳴にも似た声があがった。
「全ての責任は私が取る」
まさに最長老の鶴のひと言である。長老たちも口を閉ざすしかなかった。
「任せるぞ、アコイ」
「はい」
アコイは表情を引き締めた。