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イェルフと心臓  作者: チゲン
第二部 イェルフの子供たち
19/61

5頁

 固い音が、森に響き渡る。

 二人のイェルフ族の青年が、木刀で激しく打ちあっている。

 太陽が、暑い陽射しを地表に振りく。彼らの闘争本能を刺激するが如く。

 打ちあう二人……アコイとジイロは、きだしの眼光を交える。

 一合一合、気勢を込めて木刀を振り下ろす。まともに食らえば、骨が砕けてもおかしくないだろう。

 気合い一閃、ジイロのひと振りが、アコイの木刀を弾き飛ばした。

 木刀が宙を舞い、草上に落ちた。

「参った」

 先に口を開いたのはアコイだった。

 息があがっている。

 ジイロは、呼吸を整えながら、アコイを睨みつけた。

「どっか調子でも悪いんじゃねえか?」

「そんなことないさ」

 アコイは木刀を拾うと、里に戻る道を歩きだした。ジイロも並んでついてくる。

「やっぱり、昨日の疲れがまだ残ってんだろ」

 とがめるような口調に、アコイは苦笑して、左手に持った木刀を少し上げてみせた。

「だったら、ちょっとは手加減してくれよ」

「そんなことしたら、俺がやられちまうだろ」

 アコイはまた苦笑した。ジイロを相手に、ここまで粘れる者さえ、里にはほとんどいないのだ。

 その里一番の豪の者は、唯一の好敵手を横目で盗み見た。

 アコイの性格は熟知しているつもりだ。ちょっと前まで、同じ屋根の下で、兄弟同然に育った仲なのだ。

 彼は誠実を絵に描いたような男だが、それ故に迷いが生じると、何事にも集中力を欠くという悪い癖がある。

 その癖を、ジイロは敏感に感じ取っていた。しかし、だからといって、良き助言を思いつく訳でもない。

 結局、それ以上何も言えないのだった。

 柵の正門から里に入ると、水を求めて、井戸のある広場に向かう。

「騒がしくねえか?」

 広場に人だかりができている。

 胸騒ぎがして、二人は駆けだした。

「あっ!」

 広場では、一人のイェルフが血まみれになって倒れていた。

 オッティーという名の、腕のいい猟師だった。

 すでに事切れている。

「何があった!?」

 アコイは語気を荒めた。

 背中に、真新しい刀傷がある。

 血の匂いが、集まったイェルフたちの鼻をついた。

「野伏だ。狩りをしてたら、運悪く山に入ってきた連中に見付かったんだ」

 オッティーの最期を見取った者が、彼の言葉を伝える。

「里の位置を知られないため、山のなかを逃げまわって奴らを撹乱かくらんしてたらしい。すぐに手当てすれば、助かったかもしれないのに……」

 女たちの間から嗚咽おえつが漏れた。

 他のイェルフたちも、騒ぎを聞いて集まってきている。

「あいつら……許さねえ!」

 ジイロが不意に立ち上がり、駆けだした。

「待て!」

 アコイの制止も届かない。疾風のように駆けていく。

 擦れ違うイェルフたちが、彼の表情を見て、一様に怯えた表情を浮かべていた。

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