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固い音が、森に響き渡る。
二人のイェルフ族の青年が、木刀で激しく打ちあっている。
太陽が、暑い陽射しを地表に振り撒く。彼らの闘争本能を刺激するが如く。
打ちあう二人……アコイとジイロは、剥きだしの眼光を交える。
一合一合、気勢を込めて木刀を振り下ろす。まともに食らえば、骨が砕けてもおかしくないだろう。
気合い一閃、ジイロのひと振りが、アコイの木刀を弾き飛ばした。
木刀が宙を舞い、草上に落ちた。
「参った」
先に口を開いたのはアコイだった。
息があがっている。
ジイロは、呼吸を整えながら、アコイを睨みつけた。
「どっか調子でも悪いんじゃねえか?」
「そんなことないさ」
アコイは木刀を拾うと、里に戻る道を歩きだした。ジイロも並んでついてくる。
「やっぱり、昨日の疲れがまだ残ってんだろ」
咎めるような口調に、アコイは苦笑して、左手に持った木刀を少し上げてみせた。
「だったら、ちょっとは手加減してくれよ」
「そんなことしたら、俺がやられちまうだろ」
アコイはまた苦笑した。ジイロを相手に、ここまで粘れる者さえ、里にはほとんどいないのだ。
その里一番の豪の者は、唯一の好敵手を横目で盗み見た。
アコイの性格は熟知しているつもりだ。ちょっと前まで、同じ屋根の下で、兄弟同然に育った仲なのだ。
彼は誠実を絵に描いたような男だが、それ故に迷いが生じると、何事にも集中力を欠くという悪い癖がある。
その癖を、ジイロは敏感に感じ取っていた。しかし、だからといって、良き助言を思いつく訳でもない。
結局、それ以上何も言えないのだった。
柵の正門から里に入ると、水を求めて、井戸のある広場に向かう。
「騒がしくねえか?」
広場に人だかりができている。
胸騒ぎがして、二人は駆けだした。
「あっ!」
広場では、一人のイェルフが血まみれになって倒れていた。
オッティーという名の、腕のいい猟師だった。
すでに事切れている。
「何があった!?」
アコイは語気を荒めた。
背中に、真新しい刀傷がある。
血の匂いが、集まったイェルフたちの鼻をついた。
「野伏だ。狩りをしてたら、運悪く山に入ってきた連中に見付かったんだ」
オッティーの最期を見取った者が、彼の言葉を伝える。
「里の位置を知られないため、山のなかを逃げまわって奴らを撹乱してたらしい。すぐに手当てすれば、助かったかもしれないのに……」
女たちの間から嗚咽が漏れた。
他のイェルフたちも、騒ぎを聞いて集まってきている。
「あいつら……許さねえ!」
ジイロが不意に立ち上がり、駆けだした。
「待て!」
アコイの制止も届かない。疾風のように駆けていく。
擦れ違うイェルフたちが、彼の表情を見て、一様に怯えた表情を浮かべていた。