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イェルフと心臓  作者: チゲン
第二部 イェルフの子供たち
15/61

1頁

 男の背中に矢が突き立った。

 山肌を転がり落ち、動かぬむくろとなる。

「くそ!」

 連れの男は、慌てて走る速度を上げた。

 深い山の、木々が生い茂る急な斜面。足元にも気を配っていないと、木の根につまずいて転んでしまいそうだ。

 そんななかを、男は必死で駆け下りていた。

 薄手の革鎧を着た野伏のぶせりである。

 十人いた仲間も、今しがた九人目が殺られた。相手は予想以上に手練てだれだった。

「誰だ、イェルフがビビリの集まりだっつったのは……」

 野伏は見知らぬ誰かに毒づいた。その認識が誤りだったと学ぶには、あまりに高い代償を支払わなくてはならなかった。

 矢はすでに尽きた。走りながらそのことに気付いた野伏は、苛立ちまぎれに弓とえびらを投げ捨てた。

 斜面の下に人影。

 まだ若い青年のようだ。がっしりした体躯たいくの野伏と比べると、幾分痩せぎすに見える。

 鮮やかな銀髪が輝いていた。

 短いが、美しい。

 その銀色の髪の青年が、弓を引き絞った。

「当たる訳ねえだろ!」

 木々が乱雑に生えているため、二人の間の射線はほんの僅か、針の穴ほどしかない。

 このまま木を盾にしつつ、接近戦に持ち込めば勝機がある。野伏は、にやりと唇の端を吊り上げた。

 青年が矢を放つ。風を切る鋭い音が耳朶じだを打つ。

「へっ、素人が」

 野伏は走りながら太刀の柄に手を掛けた。

 矢が木の幹を掠めながら、針の穴ほどの隙間を抜け……野伏の胸を貫いた。

「がッ……!」

 野伏の体が跳ね、山肌を転がり落ちた。

 木に激突して止まる。

 青年が歩み寄り、うつぶせになっていた野伏の体を、足で蹴り上げて裏返した。

「…………」

 目を見開いたまま野伏は絶命していた。

「へっ、雑魚ざこが」

 青年は、野伏の太刀をもぎ取った。

 茂みが揺れ、彼と同じく銀色の髪をした青年たちが姿を現した。皆、弓や曲刀を手にしている。

 彼らは一様に、蔑むような目つきで、物言わぬ野伏の骸を見下ろす。やがて誰からともなく手を伸ばすと、その哀れな肉隗を引きって運びだした。

 青年はそこには加わらず、野伏の足跡を逆に辿った。そして、捨てられた弓と箙を拾い上げると、満足そうに頷いた。

 青年の耳は、先端がやや尖っていた。

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