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イェルフと心臓  作者: チゲン
第一部 イェルフと心臓
12/61

12頁

 行く手に野伏が一人。

 仲間と、はぐれてしまったらしい。ポロノシューの姿を目にするや、慌てて矢をつがえるが、ひと太刀で胴を二分された。

 イェルフの曲刀には、刃こぼれひとつない。何人斬っても、斬れなくなることはない。

 プツリ。

 ポロノシューの腹を矢が射抜いた。

「!」

 風を裂く音とともに、矢が四方から飛んできた。

 一本。

 二本。

 三本。

 四本。

 ポロノシューの腕、足、胸、腹に次々と矢が突き立った。

 五本。

 六本。

 七本。

 腹、背、腹。

 矢が突き立つたび、ポロノシューの体が揺れる。

 八本。

 九本。

 十本。

 足、胸、また足。

 そこで射撃はやんだ。

 五人の野伏は、太刀を抜くと、慎重にポロノシューとの間合いを詰めていった。

 体じゅうに矢を浴び、彼はその場で硬直していた。

「おいおい、針ねずみだぜ」

 誰かが言った。誰かが唾を飲んだ。

「こりゃ、さすがにくたばってるよな」

 怖々近付いていく。

 そのときだった。

 ポロノシューが旋風せんぷうのように舞った。前にいた三人の野伏が、一斉に血煙をあげて仰け反った。

「化け物かよ!?」

 二人の野伏は、うわずった悲鳴をあげて逃走した。

 その一人の背後に迫ると、ポロノシューは自分の体に刺さった矢を一本抜き、無防備な背中に突き立てた。

 野伏は、くぐもった悲鳴をあげて突っ伏した。

「くそ!」

 とうとう最後の一人になった野伏は、半ば自棄やけになってポロノシューに突っ込んだ。

 グッ。

 その軟らかい腹に、野伏の太刀が深々と突き刺さった。

 野伏は引きつった笑みを浮かべた。確かな手応えを感じた。

 血が刃から柄を伝って、野伏の手を赤く染め上げる。太刀はポロノシューの腹を貫き、背中まで突きでている。

 ポロノシューの目が眼窩がんかの奥で光った。それが、勝利を確信した野伏の、人生で最後に見た光景だった。

 高々と首が舞った。

「……終わりか……」

 辺りに動くものがなくなった。

 ポロノシューは長い息を吐いた。

 不意に、よろける。

 曲刀を土に突き刺して、体を支えた。

 腹に刺さった太刀の柄を握ると、一気に引き抜いた。傷口から血が物凄い勢いで噴きだしたが、すぐに止まった。

 次いで、体じゅうに刺さった矢を、一本一本抜き取っていった。

 全ての矢を抜き終えると、ポロノシューは歩きだそうとした。

 しかし、またよろけた。

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