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イェルフと心臓  作者: チゲン
第一部 イェルフと心臓
11/61

11頁

 遠くで響いていた剣戟の音が、徐々に近付いてくる。

「まずいわね」

 ここにいては、敵に見付かるかもしれないし、流れ矢に当たる可能性もある。ウタイは杖を突き、ふらふらと立ち上がった。

 そのとき、茂みを掻き分けて、血まみれの野伏が姿を現した。

「!」

 ウタイの全身が総毛立った。ポロノシューに斬られたうちの一人だったが、まだかろうじて息があったのだ。

 野伏は意識が朦朧もうろうとしているのか、ゆらりゆらりと、こちらに向かって歩いてくる。

 うつろな目にウタイの姿を捕らえると、引きつった笑みを浮かべた。そして、ゆっくりと太刀を振り上げた。

 逃げないと。

 体が竦んで動けない。

 太刀が振り下ろされる。

「あ」

 空気が抜けるような声をあげて、野伏が崩れ落ちた。

 その向こう側に、返り血で真っ赤に染まったポロノシューが立っていた。

「ああ……」

 膝の力が抜けそうになる。

 礼を言おうとしたが、彼の肩に矢が刺さっているのを見て、思わず天を仰いだ。

 もっとも当の本人はウタイの指摘でそれに気付くと、まるでとげを抜くように簡単に引き抜く始末だ。

「移動するぞ」

 そう言うや否や、ポロノシューは返事も待たず、彼女の体を片手に抱き抱えた。

「ちょ…ちょっと」

 ウタイは狼狽ろうばいした。みるみる顔が赤くなる。

「暴れるな」

 ポロノシューは駆けだした。

 背後から野伏たちの怒号が聞こえる。

 ポロノシューの呼吸が少し荒い気がして、ウタイはおとなしく身を任せた。これ以上暴れても、文字通り重荷になるだけだ。

 しばらく走ると、大きな老木のうろがあった。ポロノシューは、そのなかにウタイの身を押し込めた。

「待って」

 再び戦いにおもむこうとする男を、ウタイは呼び止めた。

「あのね……」

 そこまで言って、ウタイは一瞬、言いよどんだ。

 ポロノシューは珍しく待っていた。彼女の顔を、じっと見つめながら。

「……戻ってきてね」

 つい柄にもないことを口走ってしまった。

「判った」

「えっ?」

 まさか、返事を貰えるなんて。

「それまで、ここでおとなしくしていろ」

「あ……」

 半ば呆然とするウタイに背を向け、ポロノシューは駆けていった。

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