64
否。
意識が引き戻される。
現実には星男の木刀は宝蔵院の喉に数㎜のところでピタリと停止していた。
その後の、まるで本当に打たれたような感覚は星男と起田総一郎の剣気によるものか。
「神の力」を頼ってもこれほどの開きがあるとは。
宝蔵院は両ひざを地に着き、ガクリと項垂れた。
「ま、参り…ました…」
宝蔵院がうめいた。
「『鍵』をもらいます」
星男が告げた。
辺りがピンク色の霧に包まれる。
文奈が星男の側にやって来た。
星男が猛烈に輝きだす。
光が収まると、そこには武士の姿があった。
剣豪、起田総一郎。
思いの外、小柄で痩せている。
「私は…女だから…」
宝蔵院が両手で顔を覆って泣きだした。
「負けた」
「ずいぶん、気にしてるようだね」
起田が言った。
その口調は軽いが優しさに溢れている。
「僕も見た目が女みたいだから、いろいろ言われたよ」
起田が木刀を宝蔵院に見せる。
「そういう奴らは実力で黙らせた」
「でも…」
宝蔵院が涙でぐしゃぐしゃの顔で起田を見上げた。
「私の父は認めてくれない」
「あれ?」
起田が笑った。
「君は親父さんのために剣術をやってるのかい? 僕は単純に戦わなけりゃならないのもあるが、本当に心底、剣術が好きで好きでたまらないからやってるんだ。君は剣術は好きか?」
宝蔵院はハッと胸を押さえた。
「誰に何て言われたって関係ない。例えば自分より強い人に『剣術を辞めろ』って言われたって、僕は絶対に辞めない。こんな身体だけど」
起田が自分の胸を左手親指で差す。
「僕は剣術を諦めない。君は誰かのために剣術をやってるの?」
起田の飄々(ひょうひょう)とした物言いに、徐々に宝蔵院の表情が和んでいく。
「違います」
宝蔵院が首を横に振る。
「私は剣術が好きです! 自分のためにやっています!」
「君はとても筋が良い。これからが楽しみだよ」
起田が笑顔で言った。
「ありがとうございます」
宝蔵院も笑った。
起田が宝蔵院に左手を差し出す。
その手を握った宝蔵院を起田が引っ張って立たせた。
宝蔵院の胸元から緑色の光が発し、球体になる。
球体は起田の胸に吸い込まれた。
起田の身体が光り、星男に戻る。
いつの間にかピンクの霧が晴れ、3人は星雲学園の校門前に立っていた。
宝蔵院が星男と文奈に微笑みかける。
「2人ともありがとう。迷惑かけてしまって、ごめんなさい」
「いえいえ」
キョトンとしている星男に代わり、文奈が答える。
宝蔵院が校舎へと颯爽と歩いていく。
「終わったの?」と文奈が星男に訊いた。
「はい」
星男が頷く。




