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起田総一郎の名はこの地に住む者として、名を含めもちろん知っている。
特に宝蔵院の父は起田の熱心な信奉者であった。
父を思うと宝蔵院の心は陰鬱な闇に閉ざされる。
剣道場をもつ父は、おそろしく前時代的な男であった。
幼い頃より、宝蔵院は男子でないことをあからさまに残念がられた。
何度も何度も。
二言目には父はそれを引き合いに出す。
「お前が男ならな」
父は男子でなければ道場を継がせられないと嘆く。
宝蔵院はそれに納得がいかなかった。
父が宝蔵院にも剣道を教えだすと必死に稽古した。
宝蔵院には才能があった。
同学年の男子はおろか、もっと年上の男子たちよりもずっと強かった。
これで父も自分を認めるに違いない。
そう思った。
父はこう言った。
「お前が男ならな」
宝蔵院は激怒した。
死にもの狂いで稽古し、あらゆる相手を倒し全ての大会で結果を残した。
父は言った。
「お前が男ならな」
宝蔵院の心は闇に包まれた。
こうなったら最強の剣士となって、女であるという1点のみをもって自分を認めない父に現実を分からせる必要がある。
全てはそこからだ。
それまでは一歩も先へ進めない。
そんなとき。
あの声が聞こえた。
「お前の望みを叶える力をやろう」
神の声だった。
宝蔵院は、すぐにその申し出を受けた。
父を屈服させるためなら悪魔とさえ取引しただろう。
宝蔵院はさらなる力を得た。
これから無敵の覇道を突き進むのだ。
それこそが己の剣の道。
しかし。
宇宙人が「神の力」を奪いに現れた。
絶対に許せない。
諦めさせ、宇宙に追い返さなければ。
相変わらずの自然体で立っている星男をにらみつけた。
初撃から全力でいく。
冗談抜きで殺す気でかからなければ倒されるのは自分になる。
全身が総毛立ち肌が焼けつくようにヒリヒリする。
こんなことは初めてだ。
死地の向こうにしか勝利はない。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
仕掛ける。
そう。
今、前に出る。
「ヤァーーーーーーッ!!」
宝蔵院が気合いを発した瞬間。
星男がたわみ、放たれた。
星男の右手に握られた木刀の先端は超速の光線となり、空気に風穴を空けた。
辺りを巻き込んで渦巻き、真空に吸い出される空気の如く、木刀の切っ先は宝蔵院の喉に突き込まれた。
宝蔵院は1㎜も動いていない。
木刀は喉を容易く破壊し、宝蔵院の身体を後方へと吹っ飛ばした。
すさまじい距離を飛び、地面に落ちる。
宝蔵院は死んだ。




