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2人の自転車の横には同じ様に連なった2台の自転車。
こちらは小柄な双子、1年B組、宮村瞬と優。
4人はロードレース用のスーツとヘルメットに身を包んでいる。
昼休みの星男と文奈を双子が「神の空間」へと引きずり込んだ。
大観衆が見守るスタート地点。
観客にはもちろん、顔が無い。
そして「鍵」を賭けたロードレースが始まったのである。
今回もド素人の不利を声高に訴える文奈の主張が通り、レースの前に図書室から本を持ってくるのが認められた。
文奈が選んだ本は「甘神流希也 超特急ロード」
甘神流希也は世界で活躍する自転車競技選手である。
海外レースで表彰台に立ったことも1度や2度ではない。
どんな状況でも諦めないメンタルと無尽蔵のスタミナ、すさまじいスパートの能力から「超特急」の異名で呼ばれている。
彼女と甘噛みし合うのが好きらしい。
本を読み、キリッとした星男が文奈の肩に手を置いた。
「嫁にも手伝ってもらいます」と星男。
「ええ!? また!?」
驚く文奈。
「私、自転車レースなんてしたことないよ!!」
甘神選手の本の影響から、首筋を甘噛みしようとしてくる星男を何とかあしらいながら文奈が叫んだ。
「大丈夫」
星男が断言する。
「ボクからパワーを文奈さんに送ります。2対2にしないとレース出来ないから」
今度は耳を噛もうと迫る星男の顔を文奈が掴んで押し戻す。
「本当に大丈夫かなー?」
文奈は困り顔になった。
スポーツにはひと欠片の自信も無い超文科系なのだ。
「今から送るね」
「え!? ちょっと、ちょっと!! 全然、気持ちの準備が」
慌てる文奈の両肩を掴む星男の両手から不思議な感覚が流れ込んできた。
温かいエネルギーの塊のようなもの。
それは優しく波打って文奈の全身、頭のてっぺんから足の先まで染み渡った。
「これで大丈夫」
星男がニコッと笑う。
「そ、そうなの?」
不安げな文奈をよそに宮村兄弟を含めた4人の服装がロードレースのスーツとヘルメット姿に瞬時に変わり、4台の自転車が出現した。
スタートの先の道路両脇から大歓声を送るのっぺらぼうたちのボルテージが最高潮へと到達する。
4人は自転車に乗り、スタートラインに並んだ。




