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「何のことか分からないが…お前が勝ったら好きにすればいい」
「ちょっ、ちょっと…」
何やら分からないうちに男子2人の勝負が決定され、文奈は困惑した。
「始めるぞっ!!」
流星が叫んだ。
その身体が突如、輝きだす。
「キャッ!」
あまりの眩しさに文奈が一瞬、眼をつぶる。
しばらくして、眼を開けると。
文奈と星男、流星の3人は巨大なスタジアムのピッチャーマウンドに立っていた。
いつの間にか流星はユニフォーム姿でグローブをつけている。
巻き起こる満員の観客の大歓声。
その観客たちの顔はツルンとしたのっぺらぼうで、まるでマネキンのようだった。
「何!? これは何!?」
パニックになる文奈に流星が振り向いた。
「『神』がオレにくれた力だ。女子は勝負の邪魔だ!! 嫁でもベンチに下がれ!!」
「嫁じゃありません!!」
流星の眼力に文奈はしぶしぶベンチに向かった。
(もしかして私、夢を見てるのかな? まだ家のベッドで寝てるのかしら?)
文奈は首を傾げた。
ほっぺたをつねるが普通に痛い。
「転校生! バッターボックスに入れ! お前がアウトになればオレの勝ち! ヒットを打てばお前の勝ちだ!!」
流星が言った。
すでに各ポジションには顔の無い選手たちが守備についている。
星男はバッターボックスに入り、ヘルメットとバットを顔の無い審判から受け取った。
ヘルメットを被り、バットを構える。
あり得ないほどセンスのない奇妙な構え。
「いくぞ、転校生!!」
流星が叫ぶ。
豪快なピッチングフォームから白球を投げた。
すさまじい轟音と共に流星の手を離れたボールは、瞬時にキャッチャーミットの中に収まった。
ミットからバカでかい音が響く。
衝撃波で星男が、尻もちをついた。
スタジアムの電光掲示板に映し出された投球スピードは300㎞/h。
「うそっ!!」
これにはスポーツに疎い文奈も驚きの声を上げた。
雰囲気から見るに普通の高校球児の投球も打てそうにない星男にプロ野球選手よりも速い、デタラメなスピードの球が打てるわけがない。
「ストライク!」
顔の無い審判が言った。
キャッチャーが流星にボールを返す。
立ち上がった星男が再びバットを構える。