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「は、はい!!」
川中島がバネ仕掛けのように立ち上がる。
ピシッと直立不動になった。
熱血教師が川中島の肩に左手を置く。
「お前が教師に何の未練もないなら俺は止めん。理想の教師になれないのが嫌だと言うならな。だが、お前を良い教師と呼ぶ生徒が居る限りは」
熱血教師が文奈を指し、川中島を見つめる。
「お前はまぎれもなく教師なんだ!!」
「はい!!」
川中島が大声で返事した。
「少しずつでいい。現実の厳しさに打ちのめされたとしても。お前らしく進むために努力すれば。その気持ちは必ず誰かに伝わる。俺はそう信じている」
「はい!!」
川中島が号泣する。
また文奈がもらい泣きしていた。
川中島の胸が美しい緑色の光を放つ。
緑色の光球が川中島の身体を離れ、熱血教師の胸へと飛び込んだ。
まばゆい光と共に熱血教師が星男に姿を変える。
「『鍵』をもらいました」
「あ!」
文奈が声を上げた。
「銀河くんが元に戻った!!」
再び星男に駆け寄って両手で顔を挟む。
文奈の両手に潰されて「むぎゅう」となる星男。
ピンクの霧は晴れ、いつの間にか3人は職員室の中に居た。
川中島が涙を拭う。
そして、こう言った。
「銀河、紫、済まなかったな」
川中島が笑顔を見せる。
「俺の用は終わった。気をつけて帰るんだぞ」
巨大なスケートリンク。
超満員の顔の無い観客。
星雲学園2年E組、松岡舞はワナワナと震えた。
氷上では涼やかな表情の銀河星男が6回転ジャンプを完璧に成功したところだ。
星男は次のステップシークエンスを優雅に滑りだす。
4回転のダブルジャンプの後で超高速のスピンに入る。
顔の無い観客たちが大揺れに揺れて割れんばかりの歓声を上げる。
リンクサイドに立つ紫文奈も「銀河くん、キャー!!」と叫んでいた。
めちゃくちゃハイテンションだ。
松岡は唇を噛んだ。
冷や汗が全身から吹き出す。
(こんな…こんなはずは…私が負けるなんて…あり得ませんわ)
すらりとした長身。
まとめ上げた黒髪。
美しく整った顔。
しかし今、浮かぶのは激しい苦悶の表情だ。
幼い頃から始めたフィギュアスケートでメキメキと頭角を現した。
ジュニアの大会で何度も上位に入賞。
いつしか夢はオリンピック出場になっていた。
周りの期待もドンドン膨らみ重圧にはなったが、それを跳ね返し自分の力に変える自信はあった。
だが。
高校生になった松岡に異変が起こった。
身体の成長で体格や体重が大きく変わった。
バランスの違いに戸惑い、ジャンプが上手く跳べなくなった。
途端に勝てなくなり、成績は落ちた。
松岡は出口の見えない迷路に迷い込んだ。




