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「文奈さん」
星男が呼びかけた。
フラつき今にも倒れそうな星男を文奈が両手で支える。
「勝負は辞めないです」
「でも」
文奈の瞳が涙で潤み、とうとう頬にこぼれ落ちた。
「泣かないで、文奈さん」
星男が指でそっと文奈の涙を拭う。
「そうだ、文奈さん!!」
星男が何かを思いついたように笑顔になった。
「あ!!」
文奈も星男の顔を見て閃いた。
「本ね!!」
文奈の言葉に星男が頷く。
文奈に横から支えられた状態で星男が両手を前に突き出す。
何もない空間が突然、歪んだ。
2人の後ろで見ている豪雷が「おお!!」と驚く。
歪みの向こうに図書室が現れた。
「待っててね、銀河くん!!」
文奈が図書室へ飛び込んだ。
部屋の中央まで進んだ、その足が止まる。
文奈の周りには「神の空間」の影響で時間停止したマネキンのようになった生徒たちが数人居た。
(ケンカ…ケンカの本は無いよね…)
文奈は考えた。
(ちょっと待って…豪雷くんは『番長』なんだよね…それなら伝説の『番長』の本が!!)
文奈は再び走りだし、1冊の本を手に取った。
「伝説の番長 雑賀誠 その愛」
雑賀は400対1のケンカに勝利したという、とんでもない武勇伝を持つ伝説の番長である。
後年、本人が語ったところによると「前の列の何人かをぶっ倒したら他の奴らは怯えて逃げだした」というのが真相らしい。
とにかく、そのケンカの強さと弱きを助け横暴な強者を挫く生き方は、ただの乱暴者ではない真の番長精神の象徴となったのだった。
裏話としては栃乙女愛なるイチゴの大好きな美女学生との波乱万丈なラブロマンスもあったとかなかったとか。
(この人は間違いなくすごいはず)
文奈は本を手に「神の空間」に駆け込んだ。
「はい、銀河くん!!」
星男が超スピードで文奈の渡した本を読む。
星男の両眼がカッと光り輝く。
それも束の間。
星男がゆっくりと豪雷の前に立った。
「嫁よ」
星男の首だけが文奈へ振り返る。
その顔はめちゃくちゃワイルドな男前になっていた。
「危ないから退がってろ」
「え…う、うん」
いつもと違う男らしい星男に文奈は思わず頬を赤らめた。
(何だかドキドキする…)
文奈が退がると星男は豪雷に顔を向けた。




