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「帰ろう、銀河くん。こんな不公平な勝負する必要ないから」
「それは出来ませんよ、銀河くんの奥さん」
文奈の背後からエレナが声をかける。
「奥さん」の部分で一瞬、顔を赤らめた文奈がサッと振り返った。
「私が条件を提示し、銀河さんはそれを承諾した。もうこの勝負を途中で投げ出すことは許されない。辞めるイコール敗北したと判定されます」
「そんな…」
文奈が唇を噛む。
「それほど深刻ですか? 昨日来たばかりの転校生が1人居なくなる。しかも、宇宙人なのですから誰も悲しまないでしょう?」
「そんなことない!!」
文奈の眼が吊り上がった。
「銀河くんは…」
「何ですか?」とエレナ。
「あなたにとって、この宇宙人が何だというのです? まさか本当に嫁だとでも?」
「銀河くんは…」
文奈はほんの少し言葉に詰まったが。
「友達…」
「?」
「そう、私の友達だもん!!」
文奈が言い切った。
「銀河くん、ちょっとこっちに来て!」
文奈が銀河を引っ張り、エレナからやや離れた。
「あの人は将棋がめちゃくちゃに強いんだよ。もう一度やっても絶対に勝てない。負けたら宇宙へ帰らないといけなくなるよ。それでもいいの?」
「ボクは勝ちたい。勝って任務を果たす。そして文奈さんを…」
星男の顔がキリッとなった。
「嫁として連れ帰って、ずっとキスしまくる!!」
「ちょっと、やだ!!」
文奈が真っ赤になった。
「そ、それは置いておいて…どうするの?」
「ボクは将棋に詳しくないから…」
「そか!!」
文奈がポンと手を打った。
「この前の野球のときみたいに図書室から本を持ってくれば…あ!」
文奈が何かを閃いた。
「そういえば…これじゃダメなのかな?」
文奈がポケットからスマホを取り出した。
「これで検索して銀河くんがそれを読めば、わざわざ本を取りに行かなくてもいいんじゃない?」
自らの案に興奮ぎみに文奈がスマホを覗くが。
「ええ!? 何も映らない!! どうして!?」
電源は入っているのに画面は真っ暗で使えない。
これは「神の空間」の影響か?
「それじゃあ、どこか違う場所に2人で出て、私のスマホで検索した情報を銀河くんに読んでもらうのはどう?」
「やってみます」
星男が虚空に両手を突き出し、流星兵馬との戦いのときと同じく「扉」を造りだした。
向こう側はまたも図書室である。
「じゃあ、いっしょに出よう」
文奈が星男の手を取って図書室に入ろうとすると。
「この空間から銀河さんが1歩でも出たら、その時点で負けとなりますよ!!」
エレナが語気荒く言った。
文奈が顔をしかめる。
「私だけが図書室に出てスマホを銀河くんに見せるね」
文奈が1人で図書室に入った。
その場でスマホ画面を見る。
「ダメだ!!」
スマホの画面には、やはり何も映らない。
「名案だと思ったのに…」
文奈がガクッと肩を落とす。
「何をしてるのか知りませんが」
エレナが将棋盤の前で正座したまま2人に言った。
「いい加減にしてもらえないかしら。時間の無駄…まあ、この『神の空間』内では時間は止まってるけど」
エレナがクスリと笑った。
「『神の空間』から外の世界に行き来するなんて初めて見たわ。でも空間の影響でスマホは使えないようね」
エレナが図書室に居る文奈の背後を指した。
「ご覧なさい。『神の空間』と繋がっているそちらの時間も動いてないみたいよ」
文奈が振り返ると図書室の壁にかけられた時計の針が止まっている。
そして。
文奈の隣、入口側にある貸出と返却の受付に立つ女性教員が、まるで人形のように停止していた。




