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「わ!! ビックリした!! どうした、ママ!?」


 ズレた眼鏡を直す父。


「パパ!!」


 母が父にゴニョゴニョと耳打ちする。


 最初は困惑ぎみだった父の顔が徐々に険しくなっていく。


 文奈の父、46歳。


 七三分けの眼鏡。


 商社勤務。


 役職、部長。


 真面目を絵に描いたような人生を歩んできた古いタイプの男。


「な、な、何だってーーーっ!!」


 父が絶叫した。


「う、嘘だ…ママは嘘をついている!!」


 母が笑った。


「やだ、パパ。こんな嘘つくわけないでしょ」


「文奈にボーイフレンドが…しかも家に連れてきただと…」


「中で待ってるから早く来て!」


「ぬぐぐ」


 苦虫を噛み潰したような顔で鞄を母に預け、(いざな)われる父。


 オープンキッチンの前にある四人がけテーブルの前には、すでに文奈と星男が並んで座っていた。


 母に背中を押され父は渋々、2人の前の席に座った。


(こ、こいつが文奈を…)


 まるで親の仇のように星男をにらみつける父。


 そんな空気は全く読めず、真っ直ぐに父を見つめる星男。


 その隣では文奈が星男と父を心配そうに窺っている。


(こんな奴が私の愛する文奈を…)


 父の脳裏を思い出が駆け抜けた。


 意識が過去へと遡る。


(そもそもは…あれは私が会社に入って3年経ったときだった…)


 父、良男(よしお)25歳。


 仕事にも慣れ、やりがいも出てきだした頃。


「紫君、こちらは今日から我々の部署に配属になった新入社員の清宮君だ」


 当時の上司の言葉に振り返ると。


「おお…」


 良男の口から思わず声が出た。


 そう、良男のどストライクの可憐かつ美しいルックスを持つ新入女子社員、清宮静(きよみやしずか)の姿がそこにあった。


「紫君…紫君!!」


「は…はい!!」


 上司の声に慌てて頷く良男。


「今日から君が清宮君の指導係だ。よろしく頼むよ」


「よろしくお願いします」


 鈴の音を鳴らすような静の声に良男の鼓動は早鐘の如く高鳴った。


「あ…よ、よろしく清宮さん」


 良男の顔が真っ赤になる。





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