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紳士とロリのGランクダンジョン  作者: 三角 スミス
第一章 Gランクダンジョン開店
2/2

堕天(ドレイ)

いやー楽しくなっちゃってやっちまいました。

気づいたら9kくらいのボリュームに。

暇つぶしのお供程度に気楽に見て頂けたら幸いです。


 知らない天井だ。

 ふとそんなことを呟いてみた。そもそも暗くて天井みえないんだけどね!!


 暗いというかもはや暗黒の域。周りが何にも見えないんだけど、とりあえず寝そべっていることはわかる。

 なんで俺寝てるんだっけか……。

 

 ふと、脳裏に白いレースがちらつく。

 ふむ。


 とりあえず拝んでおいた。


 …………


 そうだった俺は、あの美少女のパンツを見て顔面マワシゲリを食らったのだ。そしてきっと失神した。

 ん? マワシゲリを食らってパンツみたんだっけ? パンツをみてマワシゲリくらったんだっけ?

 もーどっちだっていいや。俺は細かい事にはこだわらない主義なのだよ。


 俺はそこで背中に当たる感触が妙に柔らかいことに気づく。

 

 これは明らかにベッドか布団か……とりあえずさっきまで立っていた石畳ではない。

 ということはあの美少女が運んでくれたのか。なんだかんだ言っても大事に扱ってくれるのね。

 あれは照れ隠しだったか。こりゃあ間違いないな。惚れた男に急にあんなことされたらそりゃあ取り乱すさ。うん、しょうがない事さ。次あったら極めて優しく接しよう。紳士的に。

 そんな俺の幸せ妄想空間をぶち壊したのはロボット音声だった。


 「メガサメラレマシタカ?」

 「うヴぉおああおああ〇▽◇※γαΔ」


 心臓が止まるかと思った。人間びっくりしすぎると本当に意味わかんない音が口から漏れるよね。自分でもびっくりだよ。ってか声キッモ。ロボット声っていうかホラー映画のお面被ったやつが出す声みたいなやつだ。変声器通した声みたいな。ってことは……これから始まるのは。間違いない。

 

 コ・ロ・サ・レ・ル!!

 

 映画の主人公だとなんとかなるけど無理だよ。俺だよ? 将来河童だよ? 勘弁してよー。


 俺は壁に背中を押し付けながら必死に声の方を睨んで最後の抵抗。弱者の最終奥義『にらみつける』。

 相手の防御が一段階下がった。

 

 だ・か・ら・ど・う・し・た!!


 俺はパニックになりながら、ゴメンナサイを連呼した。神様お願いします。助けてください。

 ほんと何でもします。こうなっては仕方がない。後ろもどうぞお使いください。

 生きてる方が幸せ。心に深い傷を負っても生きていたい。お願いします。

 童貞より処女卒業の方が先とかもうよくわかんねえな。何言ってんだ俺。アホなのか? アホなんだな。アホだったわ。

 最終精神防御魔法『もうどうにでもなーれ』発動寸前で急に視界が開けた。


 そこにいたのはバケツだった。

 何を言ってるかわからんだろうが、それはどう見てもバケツだった。

 

 バケツから伸びた手にランタンみたいなの持って俺の前に立っていた。

 終了。

 俺の第二の人生これにて終了。

 あきらかにこのバケツ二メートルはある。死んだわ。バケツに殺されるのかよ。マジかよ。

 美少女がいい。どうせ死ぬなら最後は美少女の手で死にたい。

 

 この願い聞き届けられるだろうか。神様。お願いします。

 俺は無の心で正座し首を垂れた。

 

 「こっ。殺すなら美少女の手で首を絞めてください」

 

 俺は額を石畳に擦り付ける。

 

 ガシャン――ガシャン――ガシャン――

 

 無理だった!! 俺の望み聞き届けてくれないようだ。バケツの足音止まんねえ。

 何がいけなかった。美少女の手で首を絞めてくださいの部分か? 言い過ぎたか? 


 「ごめんなさい。さっきは言いすぎましたごめんなさい。ランスでいいです。さっき僕を殺したランスでいいんでそれでお願いします」


 俺はかなり譲歩した。この望みが叶えられないならば、もうこの世に神はいない。ゴッドイズデッド。


 …………。


 …………。


 止まった。バケツの足音が止まった。

 

 「ゴシュジンサマ。カオヲオアゲクダサイ」

 

 バケツがしゃべったあああああああああああああ。

 ってさっきも喋ってたやんけ!! 全力で自分にツッコミを入れつつ。バケツの機嫌を損ねないようにガバッと顔をあげた。

 

 「ひぃっ」

 

 何度見てもバケツだった。喉から変な音が漏れるのをどこか他人事のような気分で受け入れるくらいバケツ。そりゃそうもなるさ。頭はバケツをひっくり返した感じで、さらにバケツ二つをくっつけて体を表現している。そこから四本のホースが伸びて各々その先に小バケツ。合計7バケツ!!

 バケツ、バケツ、バケツフィーバー。

 たぶん右手の小バケツの先に物理法則を無視してくっついてるランタン。

 お前はドラ〇も〇かて!!

 

 顔をあげて見つめあう俺とバケツ。顔上げたけどどうするのん? これ踏まれたら俺死ぬんじゃね?

 なーむー。とか思ってたら、バケツキモボイス発動。


 「メガサメテヨカッタデス。ナンナリトオモウシツケクダサイ」


 あっけにとられる俺。

 

 片膝を折って首を垂れる。いや膝っぽいところね。見た感じコイツに関節ねーから。たぶん膝。


 …………。



 どうやらコイツ俺に服従したらしい。そういやさっき主人とか言ってたな……。


 「くるしゅうない。表をあげい」

 

 自分が有利なポジションになったとたんに強気の姿勢を見せる俺。

 

 ……。

 

 バケツが顔を上げる。

 無言かよ!! そこはハハーだろうがよ。わかってねーなこのポンコツ。ご主人様が分解すっぞ。

 まあ、今日は初回だ見逃してやろう。


 「お前さ、名前あんの?」

 「ワタシノ、ナマエハ、〇▽×◇デス」


 聞き取れねえ。たぶん文字に起こすとミミズが這った後みたいな感じ。勝手な想像だけど!!


 「あー。わかんねーわ。お前今日からバケットを名乗れ」

 「カシコマリマシタ。ワタシハ、バケットデス。バケット……デス」

 「よろしい」


 聞き取れなかったから名前つけたった。バケツ→ミラバ〇ッソ→バケット。ミ〇バケッソってそもそも何? なんとなく聞き覚えのある言葉から最終的にパンになりました。なんか薄っすら喜んでいるような気がするようなしないような。まあめでたしめでたし。


 「あと一つお願いがあるんだがいいか?」

 「ナンナリト」

 「声キモイから変えてくれ。出来れば女のAIみたいなやつがいい」

 「カシコマリマシタ」


 かしこまりましたといいつつ。バケツから哀愁が漂う。やめろ!! バケツのくせに感情を強く表に出すんじゃない。ちょっと悪いことしたかなって思うじゃねーか。でもキモイのは間違いないし、聞いてるこっちが発狂するわ!!


 「これでよろしいでしょうか? ご主人様」

 「で、出来るじゃねーか」


 びっくりするほど流暢な言葉喋りだしたよコイツ。初めからそうしとけよ。作った奴アホだろ。技術力云々の前に初期設定雑すぎんだろうがよ。明らかにこれば美人。イケボならぬ美人ボ。バケツからびっくりするほどの美声。違和感ありすぎるが、目を閉じれば幸せになれる。


 そこから俺はベッドに腰かけて(どうやらベッドだったようだ)美声バケツことバケットと話をした。


 ☆☆☆


 

 どうやらここは、とある地下ダンジョンらしい。そしてバケットはここの管理人補佐ロボットとのことだ。世界管理局とやらで製造されて俺のために派遣されたそうだ。

 ダンジョン管理人ってのは俺という事になっているらしい。もはや決定事項らしいよ。聞いてねえよ。どうも人材不足で管理できる人間がいなかったらしい。そこで天使に友好的な感情を持っている二十二世界の住人の死んだ魂をここに転生させたらしいのだ。それが俺!!

 俺はどうやら管理人適性値がずば抜けて高いそうだ。たぶん褒められてる。たぶん……。

 あの美少女はメリアという名前で、バケットの間接的な上司にあたるらしい。どうやらメリアは天使なのだそうだ。ちなみに年齢は百三十歳。ロリババアキター。っていっても天使の中ではひよっこ中のひよっこで見た目と精神年齢は然程かわらないのだという。複雑合法ロリなのであった。

 所属はバケットと同じの世界管理局だそうで、俺のいた二十二世界とこの三十八世界を管理するグループの一員なのだという。


 とここまで話したところでドアが開き。聖天使メリアちゃんが降臨なされた。


 「あ、起きたんだ変態」

 「変態ゆーな。口縫い付けてミッ〇ィーちゃんにすんぞ」

 

 俺はバケットを味方につけて尊大な態度でメリアに接する。大事なのは大人の威厳。それが虎の威だろうがなんだろうが関係あるまい。


 「なにおー。お前やんのか?」

 「そんなこと言ってもいいのかな~? こっちにはバケットさんがいるんだぞ」

 

 俺はニヤリとしながらバケットのお腹を叩く。


 「このダンジョンの主人に歯向かうやつは、このバケットさんが相手だ」

 「んぐ~~」


 勝った。圧勝だ。どうやらメリアとバケットならバケットの方が強いらしい。

 簡単には手を出せないようだ。フフフ。笑いがこらえきれぬわ。


 「フハハハハハ。メリアよ。我が軍門に下るがよい」

 「帰る」


 めちゃくちゃ白けた顔でメリアが部屋から出て行った。嘘やん。おふざけじゃないか。ちょっとからかいたかっただけじゃないか。

 俺はメリアの足にまとわりついて足止め作戦を決行する。


 「はーなーせー。気持ち悪い」

 

 メリアは俺の顔面目掛けてゲシゲシと足を振り下ろす。俺は冷静に足と足の間の布に集中する。

 滑らかそうな生地とフリルが俺の頭を沸騰させる。パンティで興奮できるんだから逆に童貞でよかったのかもしれない。だってそれより先の物を生で見たことが無いのだから。俺の中ではパンツがトップオブトップ。最強の存在。メリアのつま先が鼻をへし折り、血が噴出するがそんなものは気にしない。俺は必死の形相で目に焼き付ける。白き草原の奇跡を。


 そして再び意識を刈り取られた。



 ★★★



 

 知らない天井だ。

 俺はひび割れのない石の空を見上げて呟いた。心には雲一つない、晴れやかな気持ちだった。


 

 

 んなわけあるかー。

 

 俺は何回意識飛ばされればいいんだよ。さっきので三回目だよ? 何日経ってるのかわからんけど。体感一日のうちに三回だよ!! 新たな嗜好に目覚めちゃうよ?

 

 俺はベッドからガバッと跳ね起きてバケットに向き直った。

 

 「目が覚められましたか?」

 「ああ。悪いな。また世話かけちまったみたいだな。あれ痛くねえな。顔面ボコボコにされたとおもったんだけど?」

 「修復しました」

 「あらそう?」

 

 バケットはさも当然と言わんばかりに俺の体を修復してくれていたらしい。ってか修復ってなんだよ魔法か? 魔法なのか?

 そのバケットはというと直立不動の姿勢で俺のそばに立っていた。こえーよでけーよ。でもまあ、なんというか……悪くないな。起きた時に側に誰かが居てくれるってのは。安心する。たとえそれがバケツロボであってもな。

だから、たまたまなんだ。心が緩んでしまったんだ。気が付いた時には俺の口から愚痴がこぼれていた。


 「俺さあ……そんなに悪い事したかな。殺されにゃならん程の罪を犯したかな……」


 俺は愚痴なんて滅多に口にしない。意識してそう生きてきた。考えはするんだけどな。

 だって考えてみてくれよ。俺の見た目は酷いもんだった。サーカスのピエロですら驚愕で白目向いて泡をふくレベルだよ。だから努めてポジティブだった。暗いハゲとか手に負えない。暗いデブと合わせて二大悪だと考えていたんだ。それに自虐ネタを駆使して明るく接することで、友人には困らなかった。これが俺の人生の唯一ともいえる収穫なのかもしれない。所謂処世術ってやつだ。

 だから、自分でも驚いた。こんなにネガティブな事を言うなんて……。


 ただ、この一言が俺の第二の人生を大きく変えることになった。


 

 「その言葉の意味は、メリア嬢がご主人さまを殺害した。その後この世界に魂を移動させたということで間違いないでしょうか?」


 バケットが饒舌に話し始めた。話すスピードも先程よりも早くなっている。え? もしかして怒ってる? 俺はバケットの圧に押されるように同意した。


 「それは重罪です。私に名をくれたご主人様に対する不敬です。万死に値します」

 

 バケット氏激おこプンプン丸カムチャッカファイヤークロスオーバーモンスーンヘルフレイムだった。

 感情の無い声質なのに明らかにキレてる。こえーよ。

 あっ名前つけたの喜んでくれてたんね。ってかそんなに慕ってくれてるならさっき助けてくれよ。いや助けられても微妙だな。あれは俺が折檻されるまでが様式美ってもんだ。気絶させるのはやりすぎだとは思うがね。とりあえず俺はバケットをなだめることにした。実は俺はそこまで怒ってはいないのだ。なんとなく口から出ただけで。俺のためにバケットが怒ってくれてるのもあるのかもしれん。割と冷静になれた。

 

 「まあまあ落ち着いて。何もそこまで怒らなくていいよ。ありがとなバケット。ちな……」

 「失礼致します」

 「うヴぉあっ」


 心臓が口から出て一周回って帰ってきた。恐らくG難度に匹敵する妙技。きっと俺が最初に成功させたのは間違いないな。これを紳士スペシャルと命名する。

 そんなこと言っとる場合かっ!!


 なんと目の前に美しい女性が立っていた。俺は驚いて何もできずただオロオロとする事しかできなかった。こういうところだよね。ここでビシッとしてられたら童貞捨てられるのに……。


 「私は世界管理局第十二課所属天使長のメルトリアと申します」

 「あ、ご丁寧にどうも。僕は――――です。ん? 僕は――――です。んんんんん?」


 俺は前世界で培った社畜スキル『咄嗟に自己紹介』を発動するも不発に終わる。なんだ? なんなんだ? ってか俺は誰? グルグルと思考を巡らせる。俺は……。


 「恐らく。記憶が欠如しているのでしょう。〇▽×◇から事情は伺いました」

 「バケットです」

 「ああ。ゴメンナサイね。今はバケットという素敵な名前を付けてもらっていたわね」

 

 メルトリア女史が俺に向かって話し始めたが、途中でバケットに訂正を入れられていた。バケットさんどんだけ俺のつけた名前気に入ってるんや。お前まさかチョロインか? チョロインなのか? ってか君ヒロイン属性あるの? それ結構修羅の道だぞ? 流石に俺でも無機物萌の感性は持ち合わせていない。

 すまんバケット。君の来世に期待!!


 「コホン」

 「すみません」

 

 俺の意識が関係のないところを彷徨っているのを見抜いて仕切り直しを図るメルトリア女史。流石に天使長とかいう肩書はちげえな!! 詳しくわかんねえけど!!


 「あなたは私の愚妹であるメリアに肉体を破壊された時に、魂を破損したのだと推察されます。したがって所々に記憶が抜け落ちている可能性があります。申し訳ありませんが、その記憶を復元することは不可能です。重ね重ね申し訳ありません」


 そう言って、頭を深く下げるメルトリア女史。こんなに綺麗な女性に頭を深々と下げられるとか……。なにこれ凄い興奮する!!

 それはおいといて。名前無くなっちまったのか俺。


 …………。


 …………。


 じゃあ名前つければよくね? 何がいいかなー。名は体を表すっていうしな。かっけーやつにしよう。

変なところで超ポジティブな俺がいた。


 「じゃあ、俺はこれからシンシを名乗ることにします」

 「あっ……はあ」


 顔を上げたメルトリア女史は不思議な物を見る目で俺を見ていた。まあ確かにあなたの記憶は戻りませんって言われた直後に、嬉々として自分の名前を考えるやつなんざそうはいないかな。でもねえ。メルトリア女史よ。君はわかっていない。俺の前人生において無くなって困る記憶はない!! 


 「ゴホン。では改めまして報告させていただきます。世界管理局第十二課所属天使メリアを世界管理法第三条四項に従い破壊処分とします。また、第三条五項に従いその被害にあわれたシンシ殿にギフトを送ることとします」


 「え?」


 爆弾発言過ぎて、変な声出た。え? 破壊? あのロリ美少女を? 

 

 「それは流石にやり過ぎじゃないですか? メルトリアさん」

 「いえ。これは正当な手続きにより執行されます。そもそも私共天使は強力な戒めの基、世界を管理させて戴いております。それはメリアも重々承知しております。それを理解して尚この様な蛮行に及んだわけですから当然の報いです。なお破壊後は魂を九点牢獄へと繋ぎ五千年の懲役となります」


 もう俺の思考は完全に追いついていない。ただ、分かる事はえげつない懲罰が与えられるという事だ。

 そんな俺を無視してメルトリア女史は話を続ける。


 「さて、被害者のシンシ殿に置かれましては、この世界において何でも願いを一つ叶えます。なんなりと仰ってください」

 「え?」

 「なんなりと」


 これは……。待ちにも待ったアレではなかろうか。

 そう。チート授与式。

 この世界最強の力も、富も名誉も思いのままなんではないだろうか!!

 と、そんな思いが俺の脳裏を過ったが気づいたら口が勝手に動いていた。


 「メリアを許してやってもらう事はできないだろうか?」

 「はい?」

 「許してやる事が無理なら、ここに呼び戻して俺と一緒に労働とかどうだろうか? 俺この世界の事とかよくわかんないし案内役というか指南役? みたいな人物も必要だと思うんだ。それにそもそも俺とバケットだけとか寂しいしな。そうだよ。そうしよう。きっと楽しい生活になるぞ~。メリアの罰っていうなら世界管理局に戻れなくしてしまってさ、俺みたいにこっちの人間にしてしまえば実質俺と同じ境遇になる訳じゃないですか? それでおあいこってことでいかがでしょうか? それなら労働力も増えて一石二鳥ですよね? 困らないですよね? これでお願いします。俺の願いはこれで……」


 メルトリア女史は理解に苦しむ顔をしていた。

 そりゃそうだろう。俺もわかんねえ。気づいたらアホ程喋ってた。ダムの水が放たれるように。


 メルトリア女史は少しの間は戸惑っていたようだが、なんか合点がいったように頷いた。

 そして絶対零度より低い極寒の目で俺を見下した。


 what's?


 「え? なんですか?」


 めっちゃ戸惑う俺。 


 「……。わかりました。クズ。正直ドン引きです。ですがこれもメリアが撒いた種です。そしてそれがあなたの望みならば叶えましょう」


 なんかすげー冷ややかなんですけど。正直なんか新しいのに目覚めそうなんですけどー。あなたを新世界の神として崇めそうなんですけどー?


 「では執行いたします」

 「あ……あの」

 「すみません。話しかけないでください。穢れます。神への冒涜です」


 メルトリア女史は一切取り付く島もなく、淡々と作業をこなす。


 「完了致しました」

 

 そう言ってこちらを一瞥する。いや一見下して、すぐ目を逸らした。

 取り残された俺は部屋の端っこに目をやる。

 そこには女の子座りで両手を石畳について絶望しているメリアがいた。

 メリアはうわ言のように何かを呟いていた。もはや状況がわからん。


 俺は割と良い事していたんじゃないの? チート能力をほっぽってメリアを救ったんだと思うんだけど?

 世界管理局とこっちじゃ生活水準が大幅に違うとか? あーわかるわ。確かに俺も前の世界でネット環境を取り上げられたら結構心にくるものがあったもんな。わかるわかる。

 ん? そもそも破壊されたらネットとか関係なくね? もしかして九点牢獄とやらではネット使えたりするんか? マジか。そりゃあ悪い事したかもな。そもそも世界管理局にネットとか言う概念あるのん?


 パニックだった。


 「世界管理法第四十五条九項に従い、堕天した世界管理局第十二課所属天使メリアの力を接収いたします。ならびに、このゴミクズ……コホン。シンシ殿との奴隷契約としてここに宣言いたします」


 そのメルトリア女史の言葉を聞いたとたんに視界の端でメリアがビクンと跳ねるのが見えた。

 奴隷? 奴隷ってなに? どういう事? ねえ説明してよ。


 「これで一通り完了です。メリアはもう天使ではありませんので先程までのように行使していた力はございません。見たまんまの童女という事になります。お役に立てる事といえばあなたが望んだように肉奴隷としての働きだけでしょうか。本当に嘆かわしい。しかし、これはメリアが撒いた種です。それは自分で刈り取らねばならぬ罪であり罰です。彼女がどのように扱われようが私共は一切口出し致しません。では私はこれで。さようなら」


 メルトリア女史はびっくりするほど早口でまくし立てて消えていった。最後の営業スマイルがすげえ悲しい。


 反論くらいさせてくれてもよかったのでは……。

 やっと彼女の冷たい目の意味が理解できた。どうやらメリアを俺が自分で嬲るためにこの世に呼び戻させたのだと勘違いしたらしい。本当に勘違いだよ!! そんな下心一切なかったよ。


 今冷静になってみれば、メリアには結構感謝していたりするんだ。

 正直俺の前人生なんて詰んでたと言っても過言じゃない。彼女もいない。別に給料が高いわけでもないただのサラリーマン。人生の折り返しも過ぎてただただ惰性で過ごす日々。このまま老後を一人で過ごして孤独死。簡単に想像できる。そんな腐ったレールをただ進むだけの人生。そりゃあ楽しいこともあったかもしれない。だがそれ以上に辛い事の方が多かったんだろうなと想像できる。その程度の。

 

 やり方は間違ったのかもしれないが奇跡的な確率で俺を救ってくれた天使。

 メリアは間違いなく俺の天使だった。あと異常に可愛いしね。


 とりあえず俺はメリアの誤解を解くところから始める。

 バケットはそんな俺をみていまいち納得していなさそうな素振りをしていたが無視する。

 なんで俺こいつの感情がわかんだろう……ただのバケツなのにな……。


 ――コツリ――コツリ――コツリ――


 俺はメリアにゆっくり近づいていく。それを察したメリアが顔を上げて俺を見る。

 恐怖に目を見開いて全身が震えていた。目元に溜った涙がボロボロと流れていく。


 「いやっ……いやっ……ゴメンナサイ……いやっいやいや」


 顔を左右にふりながら必死に壁を求めて下がっていくメリア。

 恐怖に塗りつぶされた顔も可愛いよメリア。


 「やだぁ。やだやだぁ。ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」


 メリアはうわ言のようにゴメンナサイを繰り返しながら這いずるように逃げる。そしてそれにはいつか終わりが来る。メリアの背中が壁にぶつかった。


 「ひぃっ」

 

 それと同時にメリアの下半身から液体が漏れ出ているのが見えた。あーあ。掃除しなきゃななんて思いながら距離をさらに詰める俺。懺悔しよう。正直楽しかった。好きに罵るがいい!! 


 歩みを止めない俺をみてメリアの顔が完全に絶望に染まる。顔面がヒクついているのがわかった。そして諦めたように小さく呟いた。

 

 「初めてなの……優しく……して……下さい」


 俺はメリアの粗相の上に膝立ちをして彼女を優しく抱き寄せた。

 小さな嗚咽を何度も漏らしながら。おずおずと手を回してくるメリアが可愛くて仕方がなかった。

 俺はメリアの頭を軽く撫でながら思案する。


 どうしようこれ……。


 俺は小さい赤ん坊を抱くように背中を何度もトントンしながらメリアを抱きしめ続けることしかできなかった。



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