プロローグ
恋ってまっすぐ突き進むだけじゃうまくいかないときもあります。何度も寄り道したり、迷ったりしながらも捜し求めれば本当の恋というものが見つかるのではないでしょうか。そんな気持ちを胸にこの小説を書きました。どうぞごらん下さい。
黒く焦げ付いた記憶。
昔の俺はとても純粋だった。
手を握れば体が硬直するくらい緊張した。
好きだと言われれば頬を紅く染めた。
あの時は自分でもバカだと思えるくらい真っ直ぐで、
世界がとても暖かく感じられた。
そうそれはもう昔の話。
今はもう蝕まれた穴だらけの葉っぱ同然である。
俺がもし変わったと言うなら、それはあの町のせいであろう。
潮風があまりにも心地よかったあの町。
そしてあれから三年、俺は高校生になり、もう一度あの町に戻ろうとしている。
心の奥に刻まれた深い傷跡をほじくりかえすような気分だ。
転勤する親父の事情とはいえ、とても不愉快このうえない。
必要以上に揺れているバスの揺れで体を揺すられながら、俺の目線は過ぎていく町並みを追っていく。
どれもこれも変わっていない。
視界の隅を白い影がよぎる。
アクセントに黒い長髪が風でなびいていた。
あの影、嫉妬したくなるような白と黒の忌々しい調和。
通り過ぎる一瞬、『それ』と俺は目が合う。
その瞬間がまるで走馬灯のように脳裏に焼きつく。
覚えているに決まっている。
全ての終わりと始まりはあの少女によるものなのだから。
俺はもう一度、忘れないように、バスに同乗している乗客に聞こえないくらいに小さい声で、一語一語を確認するために呟いた。
白、凪、玲、奈。
長い一年になりそうだ。
春を迎える温かい風が首筋を通り過ぎる。
あの暗い記憶の底でのさばっている町に降りたつまであと数分。
自分自身を言い聞かせるように俺は心の中で今まで一年間ずっと胸においてきた言葉を呟く。
信じるな、それは幻だから。
疑え、それが真実だ。
俺の心には未だに痛みと絶望が混じった黒い感情が満ちている。
憤怒、嫉妬、悲愴、殺意―――――――、
自分でも吐き気がするくらい最低の感情。
でも俺にはそれしかなかった。
『あいつ』に心の全てを捧げ、そして全て否定されたのだから。
俺には恨むことしかできなかった。
ただもう一度俺があの頃の純粋な気持ちを少しでも取り戻せたなら、
また俺はあの暖かくて心地よかった居場所を求めよう。
そしてまた新しい恋をしよう。
ご意見ご感想待ってます。




