呪いの……帰り道
登場人物
椎名 匠 二組 成績底辺
和木合 藍 二組 転校生。大人しい性格
岡村 沙苗 二組 成績底辺。ソフトテニス部
夏川 奈緒 二組 ソフトテニス部
藤林 隆 一組 成績底辺
坂本 由美 一組 大人しい性格
仲井 健一 三組 成績底辺
武内百合子 三組 大人しい性格
上野 義孝 三組 野球部エース
川中 幹彦 三組 野球部。同じ小学校
近野 美佳 三組 川中の彼女??
瑞香と由紀子と純菜。バレー部。同じ小学校
一組担任 加藤 玲子先生 新人
二組担任 原田 幹雄先生 柔道部顧問
最終バスの時刻はとっくに過ぎていた。
仕方なく山沿いの国道を一人で歩いて帰る。一時間くらい歩けば家に着くはずだ。
何度か歩いて家まで帰ったことはあるが、いつも明るい時間だった。もう九時を過ぎている。ビュンビュンスピードを上げて走る車が、歩道のない夜の道を一層危険にする。
月が雲に隠れた……。
不意に……藍から聞いていた話を思い出した。
藍に「王子様」を教えてくれたのは、……隣の家の一つ年上の女子だったらしい。その子は交通事故のせいで、車椅子生活を余儀なくされていたそうだ。
学校が終わると、いつも藍はその子の家で遊んでいた。そしてその時に教えてもらった遊びが……「王子様」だった。何でも知りたいことが分かってしまう魔法のような遊びに惹かれていったのだが、王子様を藍に教えた理由が……。
元気に学校に行って楽しそうな藍を、呪いたかった……。
藍が別の友達と「王子様」をした時に、そう指し示したそうだ……。それから車椅子の友達とはだんだん遊ばなくなり、その子は次第に学校に来なくなった……。藍も親が離婚し、転校しても教室には来れなかった。
……それも「王子様」の呪いなのだろうか。
……本当に「王子様」の答えが正しかったのだろうか。信じて良かったのだろうか。
本当のことは、いついかなる場合でも本人同士が確認し合わなければいけない。たとえ嘘をつかれたとしても、喧嘩になったとしても。都合のいい時だけ「王子様」に聞いて、嘘か本当かも分からないことを信じてしまう。それこそ……呪いだ。
藍とはもう「王子様」をするのはやめよう……。
いつだって手を繋ぐことができるんだから……。
月が雲から出てきて、薄明るくなる。腕に貼られた絆創膏を見つめる……カッターナイフで切ったらしいのだが、どうやって切ったのか、まったく身に覚えがない。
――急に車が後ろから近づき、追い越したかと思うと目の前で止まった――。
大きな白色のワンボックス。ハザードランプがチッカチッカと目に痛いほど眩しい――。
心臓がドキドキと音を立てる。見たことのない車だ――。
助手席の窓がゆっくりと開いた。
「一緒に乗って帰る?」
聞き覚えのある女子の声……瑞香が窓から顔をひょっこり出した。
安堵のため息が出る。人さらいかと思って凄く怖かったよ~。
スライドドアがガーっと音を立てて開くと、女子バレー部の三人と川中幹彦が乗っていた! バスの時間に間に合わなかったから、迎えに来てもらったのだろう。
「歩いて帰るなんて、危ないわよ匠」
「ちっ、せっかくハーレムだったのに、嫌だったら乗らなくてもいいぞ」
幹彦だけが俺を拒もうとする。ハーレムだなんて、近野が聞いていたら怒られるぞと忠告してやりたい――。
「ありがとうございます!」
お礼を言いながら車に乗り込み、ドアをガーっと閉めた。
「いいわよ」
運転席から瑞香のお母さんが笑顔で答えてくれた。瑞香に似ていて、お母さんも優しくて綺麗だ。
……ちなみに、小学の時、俺は瑞香ちゃんが一番好きだったのは内緒だ……。
「そういえば、匠って小学の時は瑞香が好きだったんだよなあ」
……。
「ええーそうなんだ―」
「あ~勿体なーい。もっと早くに言ってよ~」
「あはは、熱でもあるんじゃないの~」
「「ハッハッハ!」」
……。
「お前なあ……。ここでそれを言うなよ!」
いくら小学校のこととはいえ、恥ずかしくてたまらないだろーが! 瑞香のお母さんまで笑っていらっしゃるではないか――!
「ハッハッハ、でも図星だろ? だから匠はバカって言われるんだよ!」
「なんだと~、クッソー……。お前だって、「由紀子ちゃん、由紀子ちゃん」っていっつも言ってたくせにー!」
「「ええ? それ本当?」」
「キャーやめて、そんな昔話――」
男がキャーって言うなよ!
車の中はどうでもいい暴露話になってしまった……。
夜の道は本当に危険だ。歩いて帰らずにすんで……助かった。




