呪いの冷やかし
同じ小学校だった瑞香と由紀子と純菜。「幼馴染」ってやつだ。一時のバスに乗って帰るのだろう。
体操服の半袖と緑の長ズボンを穿き、ズボンの裾を少しだけ折り返して足首を見せるのが女子バレー部の流行りのようだ。小学校の時からバレーをやっていた三人は、中学も揃って女子バレー部に入り、今では三人ともレギュラー。
セッターの由紀子だけは俺よりも少しだけ背が低いが、瑞香と純菜は一六五センチ以上あり、背の高さに威圧さえ感じていた。だが――! 中二になり成長期を迎えた俺だって負けてはいない。小学校の頃からずっと見下ろされてきたが、今は同じ目線まで追いついている。
三年になったら必ず追い越してみせる! 身長でだ! あと、成績でもだ~!
「ねえねえ、匠、今一緒にいた女子、誰よ」
「そうよ。教室とかで見たことないわ。ひょっとして三年生の彼女?」
由紀子は同じ二組だが、面識はないのだろうか。背の高い瑞香と純菜が両手を小さく握りこぶしにして、可愛らしく顎の下に構えて聞いてくる。キャピキャピという効果音が似合いそうだ。
「違うよ。二組の転校生だよ。由紀子は知っているだろ?」
「ああー! 一学期に転校してくるといって、結局教室に来なかった子か」
……そう言えば藍が言ってたなあ。吹奏楽部はよく来るが、ソフトテニス部やバレー部はあまり職員室とかに来ないって……。
「それで、それで? なんで一緒にラブラブで下校してるのよ!」
「部活動もやっていないんでしょ!」
「教室に来ない女子が、なんで匠と仲がいいのよ!」
ああ……なんだろう。この幼馴染のグイグイくる感じは……。まるで不良に囲まれてカツアゲされているような気分だ。小学校が別だった女子なら嬉しい光景なのかもしれないが、同じ小学校へ通っていた女子だと、
……なんでこうもトキメかないのだろうか……。
「はあ……暑苦しいなあ。説明するからちょっと離れてくれよ」
女子三人は部活動の後だというのに、ぜんぜん汗臭くなかった……。爽やかな香りがした。
事情徴収されるかのように夏の補習のことや、出席日数が少ない生徒が来ていることを話した。
まさか「王子様」をして遊んでいることは話していない。
「ふーん。月曜から木曜まで加藤玲子先生で、金曜は原田先生なの」
「ほら、加藤先生って不登校の生徒が学校に来られるようになる資格を持ってたはずよ。カウンセラーだったっけ?」
「うん。そうそう! 今年の入学式の時に校長先生がそう説明していたもんね。我が校で初のスクールカウンセラーですって」
ちょっと聞き逃せないことを聞いた気がした。スクールカウンセラー? 加藤先生が?
「どういうことだ?」
「さあ」
軽い感じで由紀子が分からないって仕草をする。
「クラスで成績が悪い生徒と、出席日数が足りない生徒の底上げが目的なんじゃない?」
「ふーん、だったら岡村かわいそうじゃない」
「え? どうして」
「だって、岡村って一学期の期末テスト、私と同じくらいの点数だったわよ。補習受ける必要なんてないと思うけど」
同じ二組の由紀子がそう言った。
岡村がかわいそう? 補習を受ける必要がない?
……じゃあ、なんでわざわざ補習に出ているんだ? もっと成績を上げたいのだろうか。
ああ……分かった。あいつのことだ。夏の暑い中ソフトテニス部の練習がきついから、わざと補習に出たいと言ってサボっているんだな――。こんど「王子様」に聞いてみるか……。
「で、匠はその和木合って転校生と付き合うの?」
急にそんなキーワードが出てくると、また自分の立場の悪さに冷や汗が吹き出る。
「――なんでそうなるんだよ!」
クスクスと三人からほぼ同時に笑われた。
「だって~、おでこに手を当てて、「熱でもあるんじゃないの~」だなんて、好きな男子にでもできないよ!」
ぜんぶ筒抜けだ!
――いったいいつから見ていたのだこの三人組は!
ひょっとして、直ぐ近くに隠れて見ていたのか――!
「そうそう。キャー羨ましい! 私も言ってみた~い!」
「熱でもあるんじゃないの?」
瑞香が純菜のおでこに手の平を当てて真似をし、キャーキャー楽しんでいる。
……散々だ……。本当に顔が真っ赤になるくらい恥ずかしい。これこそ……コケ脅し? いや、コケにされる? コケコッコー?
女子三人組に絡まれているところへ……練習の終わった野球部の川中まで加わり、俺はバスの中でも冷やかされ続けた……。
「なんだよ、匠も隅に置けないなあ」
「だから、そんなんじゃねーって!」
こうして明日の朝には……野球部、バレー部で噂が拡散されてしまうのだろうか……。
二学期には全員の頭の中がリセットされていることを切に願う……。




