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呪いってなんだ


 教室にわざと残って他のみんなが先に帰るのを待つ。

 察しのいい岡村あたりは、俺が補習の後に和木合と二人でコソコソと何かやっていると気付いているのかもしれない。冷やかされていないのが幸いだ。今のところ……。


「昨日、試しに兄貴と「王子様」やってみたんだけど……やっぱりまったくペンが動かなかったんだ。なんでだと思う?」

「――え! 兄弟で「王子様」をやったの?」

 おいおい、両手の人差し指と中指をねじって「δ(でるた)」みたいにし、「バリアー」するんじゃねーよ。


 ――ドン引きする気持ちは分かるが、うちの兄ちゃんは博学なんだよ!


「それで兄貴はペンが動くのは洗剤がどうのこうのって難しいこと言うんだ。呪いも自分でそうなると思ってるだけって決めつけるんだけど……」

 決して藍が言うことを疑っているわけではないんだが、実際に兄貴とはペンが動かなかった。動く理由が「呪い」ってだけでも説得力がない。

「ふーん、匠のお兄さんって、吹奏楽部でトランペット吹いているのよね」

「え、え? なんで知ってるの」

 俺の口から兄のことを話したことは一度もない。なのになぜ――。

「まさか、……王子様に聞いて知っていたのか?」


 藍は、教室や学校に来てなくても、学校で起こっている全てのことを王子様に聞けるのだろうか――。


「そんなハズないでしょ。匠のお兄さん、女子が大勢いる吹奏楽部でかなり人気があるらしいじゃない」

 初耳だ――。

「……それは、誰の情報だ」

「坂本由美と竹内百合子情報よ」

 ああ、あの二人か……。

「だが、なぜだ! 二人とも吹奏楽部でもないのに、いったいどこからそんな情報を仕入れてくるんだ」

 またプッと吹出された。ここで笑う理由がまったく俺には理解できないぞ!

「あの二人だって学校には来ているのよ。教室には行かないけれど、学校に来て休み時間には仲のいい友達と喋って情報交換しているの。吹奏楽部の友達は多いみたいね。逆にソフトテニス部やバレー部の友達はいないみたいだけど」

「藍はその時の会話を聞いて知ってたってことか」

「うん。椎名先輩、椎名先輩って何度も聞こえてきたからね」


 兄貴って……学校では……人気者なんだ……。

 なんか……俺のことじゃないのに……。


 嬉しい……。


 はうっ?

 なぜだ、なぜ俺が嬉しいのだ!

 まさかの兄弟愛……? 禁断の兄弟愛……! ああ、いけませんお兄様~!


「アホ」


 ……俺、いま、なにか喋っていたのか? 口は開いてなかったよな……。


「藍には兄弟はいるのかよ? お姉ちゃんや妹とか」

「いないわ。一人よ……今は」

 ……今は、ってことは……もうじき出来るのだろうか……。まあ、そんな事をとやかく聞く必要はない。俺だって今は二人兄弟だが、もしかしたら三人目に可愛い妹ができるかもしれない。

 ……ありえないだろうなあ……。

 親父も母親も別々の部屋でイビキを掻いて寝ているから……。


「じゃあ、藍は俺以外にも学校で王子様をやっていたのか?」

「やるわけないじゃない。誰とやるのよ」

「えっと……」

 岡村とはやってないハズだし、だとすると他の二人か……。

「坂本由美か武内百合子と……」

「匠は聞いていて本当にありえると思っているの? あの大人しい二人と私が王子様をして、いったい何を聞くというのよ」

「ああ、そうだなあ……」

 加藤先生が処女かどうか聞くような藍のことだから、見るからに大人しい坂本や武内と話が合うはずがない。

「この学校に転校してきてからは匠が初めてよ」

「そうなのか……」

「そうなのよ。私の初めてを匠が奪ったのよ」

 

 ……。

 返答に困るようなことを言って俺の表情を観察しニヤニヤする藍。悪い癖だと叱ってやりたい! ひょっとすると、夏休みの宿題を俺が手伝っているのかもしれない――! 夏休み自由研究のテーマは、「匠顔の観察日記」かっ!


「でも、なんでそんなこと聞くわけ? なにか変な噂でも聞いたの?」

「噂? いや……ほら、補習の二日目に「王子様」のあいうえお……が書かれたワラ半紙が藍の机の下に落ちてたから……。

「ふーん。それって私の字だった?」

「いや、そこまでは覚えてないなあ……」

 一瞬見ただけだから……。


「王子様、王子様、王子様は私と匠以外にも呼ばれてこの教室に来たことはありますか?」


 ――「はい」を指し示し、二人して驚いた――。


「やっぱりあるんだわ! この教室に来ていたことが」

「じゃあ、誰に呼ばれて来たんですか?」


「い」「え」「な」「い」


 ――!

「……言えないだって?」

 なぜだ――。王子様は何にでも答えてくれるんじゃなかったのか?

「聞かれるとマズいか、聞くとマズいってことなのかしら……」


 また、「はい」に移動した――。


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