入学試験、Ⅴ
どうも、誄歌です。
週一投稿、もしかしたら週二に出来るかな?とか考えながら話を書いております
それでは、デジリアルワールドどうぞ( ゜д゜)ノ
この話で戦闘は描けなかった……
「…………………………」
小さな声で、凜がなにかを呟いた。
直後、彼の体から魔力が溢れた。
同時にコードに刻まれている技を発動させ、壁を狙う。
「(………そんな、薄い刀身じゃつけられる傷なんて無理があるんじゃ)」
次々に繰り出される突きは壁に小さな孔を穿つが、刺さることはなく弾かれている。
それは次の攻撃が当たる頃には消えていく。
それでは駄目だ。明らかに壁の修復力が、上回っている。
「………え?」
それでも、無言の気合いで彼は続ける。
孔は次第に大きさを増していった。
刀身から弾ける魔力の粒子は綺麗で、紅いためか私は花火を連想した。いや、本物を間近で見たことがなかったため、想像はさほど広がらなかった。が、こう言うものなのかと心が気持ちよくなった。
「…………っ!」
私の頬をちらりと照らした粒子は少しだけ髪を焦がした。それが、何だかとても懐かしい気がしないでもない。が唐突に終わりは訪れる。
連撃の最後の一撃は、一際力強く押し込まれ、武器から手を離した凜が私を抱き寄せて倒れ込む。
「大悟、これを殴れ!!」
「!!──スレッド』ッ!!」
散る火花。亀裂が走り、悲鳴をあげる壁。二つの武器が共鳴する。
交錯した二種類の煌めき、二重の赤が重なり、独特な朱色が色褪せた周囲を包み込んだ。
「……すごい…」
「砕けろぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」
自然と出た私の感想は叫び声が重なったため、多分私にしか聞こえていないだろう。
──ドゴォオン!!!!!
壁に大穴が開き、私たちは大悟の推進力により、雪崩れ込む形で中にはいった。壁の破片とともに、しばらく転がり止まる。
「……うまく、いったな」
「ノープラン過ぎだ。危うく埋まるところだったぞ」
笑顔満点な大悟の言葉に、凜は悪態をつく。
それでも、私のことをそっと抱きしめていてくれたことに、私は少しだけ照れくさくなった。もとの年齢の差はある、身長の差も。しかし、それとは別の物を──
「……(うっ~!)」
──紅くなった頬は示していた。
貫通した壁の向こう。
後ろを振り返ると既に瓦礫によって退路は塞がれていた。
ぎりぎり、だと言えるだろう。
「……(とりあえず良かったわけだが)」
ここは最初に薊と出会った空間よりも遥かに広い。
天井も、見えない。
目を凝らすようにして薄暗い前を見て、僕たちはそこで考えもしなかった先客の姿を捉えた。
「……あ、あいつは試験前に話しかけてきたやつか」
背の小さな、金髪の少女がこちらを睨んでいた。若干部屋が暗いため顔の判別はできないが、魔力のおかげで判別がつく。
その側には眼鏡をかけた短髪の少年と、背の高い凜とした雰囲気の少女がいる。あの二人は初対面だ、魔力も知らない。
それとは反対側に一人、よく知った魔力を感知して僕は我慢ができなくなった。
「玲羅!!!」
目から自然と涙が出る。
起き上がりながら、必死に走った。
一〇メートルもない距離だったが、とてつもないほど遠く感じた。
だから、姉のもとにたどり着いた瞬間、膝を床につけて抱き寄せた。
懐かしい匂いが鼻腔を駆け抜ける。
頭を撫で、手に絡み付く髪の質が心地よく、いつまでも触れていたい気持ちになる。
「凜、お友達ができたのね」
「……別に。友達じゃない…………もん」
数時間ぶりの再開の一言がそれかと、少しがっかりした。
別の意味で泣きたい気持ちになった。が、今は再会できたことへ涙を惜しむことなく流そう。
「………………」
「よしよし。よく頑張ったね、お疲れ様。凜」
「……足りない」
「うふふ。甘えんぼさんね」
控えめな胸に頭を沈めた。
それに対して、玲羅が頭を撫でてくれる。
それだけで、僕は満足だった。
「……お取り込み中失礼?」
薊が来るまでは。
「なんだよ、来んな」
「いやぁ、だってあの三人の方行くのもなんか怖いしよ」
「それに忘れ物届けにきたのに、それはないよ~」
「だよなぁ~」
「……忘れ物…?」
スッと差し出されたものを見て、理解する。僕は、剣を置いたまま玲羅の元へ向かったようだ。
「…………ふん」
剣を奪い取り、鞘に納める。
「あらら?凜、限定解除したのね。私にはしてくれないのに……」
「玲羅が武器を持つ必要なんてないの。僕が守るんだから」
後で解除しなくてはな、と考えて改めて二人へ視線を向けた。
本当に、空気が読めないというか、なんというかだ。
睨み付けても去る気配はない。むしろ見守ってくる。
お前らは僕の両親かなにかか。
「ふ~ん。優しそうなお兄さんに、可愛らしい子ね。お人形さんみたい」
スッと玲羅の手が百合へ伸びる。
「ひゃっ!?」
玲羅は迷わず百合の頬へ触れ、滑るように唇へ触れる。
そしてそのまま──
「っ……噛まなくても、良いじゃない」
「そ、そりゃ急に口の中に指を入れるからでしょう!?なに考えてるんですか!」
猫のように、カチューシャの耳を立てて、薊の後ろへ百合は隠れた。僕も、流石に驚きはした。初対面の人へ玲羅がそんなことをするとは、考えていなかったからだ。
「お、おぉ……姉弟ってだけあってどこか似てるのな」
「(誤解を生むようなこと言うな。僕はお前になにもしてないだろ)」
「んー?貴方、名前はなんて言うの?……私の名前は、凜から聞いているでしょう?」
百合へ出した手とは逆の手を差し出して、玲羅は握手を薊に促していた。
薊は苦笑いしながらもしっかりとその手を握る。
「俺は薊大悟。そして後ろのこいつは百合ほのり。凜の親友で仲間です。姉貴」
「……あね、き……?」
「うっす!今日からそう呼ばせてください!」
「……馴れ馴れしいぞ、大悟。玲羅は──」
「……素敵ね。弟が増えた気分だわ。これからも、うちの弟を可愛がってくださいな、大悟くん。ほのりちゃん」
玲羅が僕から離れて、くるりと回る。
上がったスカートの端を摘まむと、少し脚を曲げてペコリと会釈した。
「……むぅ」
今日の姉は機嫌が良いらしい。
いつものテンションより少し高めだ。
正直、薊の馴れ馴れしさに腹が立つが、玲羅が良いなら僕は構わなかった。
優先は玲羅の気持ちだ。
僕のことはどうでもいい。
「なにあれ、きっもちわるい。貴方、強いくせに女々しいのね」
怨み語のように呟かれた言葉が、遠くから聞こえる。
「……なんだ。蓮玲奈だったか。ロードがなんのようだ」
金髪の目付きの鋭い少女を見た。
彼女とは、少しだけ面識がある。
「あら、覚えてくれたの?振った女の子とを、ね……」
「ふ、振った!?おま、凜!告白されてたんか!」
薊が鼻息を荒くして肩を掴んでくる。こいつは、単純というか、人を騙せない人種なのではないだろうか。
「違う。交際の話ではなく、手を組めと試験前に言われたんだ。……仮に交際でも、振るけどな」
僕の返答に蓮は薄く微笑んだ。
わざと紛らわしい言い方をしたであろう彼女に、苛立ちを覚える。
「……なにをがっかりしているんだ、大悟」
「いや、なんか。……ごめん」
「なんなんだ……」
男子中学生というのは、こうも面倒なものなんだろうか。
色恋沙汰や下着程度で興奮するとは、やれやれだ。
「……まぁ、今から付き合ってくれても良いのよ?騎・士・サ・マ」
あざとく唇に手をあて、こちらに向けてくる。
僕はそれに対して、インデクスを開眼させ対抗した。
「支配は効かないぞ。仮に僕を操りたいなら今の一〇〇倍強くなることだな」
「……魔力量だけで相手の技量を測らないことよ?ま、確かに貴方には効かないようだけどね。試験前に試したもの」
「ああ、知ってる。あれは虫酸が走った」
唐突に支配をかけられた時は、一瞬驚いたが、それで終わりだった。
ロードの使役には、条件がある。
自分より弱いことと、心を許してくれていること。
蓮にとって、僕はどちらも条件を満たしていなかったため、なにも起こらなかったということは明白だろう。
僕が驚いたのは、それでもかけてきた。ということではなく、僕に対して技を発動することができたという点だ。
さらに言えば、僕には玲羅のルーンがいくつもかけられており、大抵の支配系の技は効かないし、発動すら許されない。それをすり抜けたことが何よりも驚かされたのだ。
だから僕は、インデクスで蓮を観察した。僕は支配の合図がわかっていないのだ。また支配しようとしてきた場合、対処ができないと困る。あり得ないが、万が一にかけられる可能性があるからだ。彼女の行動の一つも逃さない。なにが合図かを知る必要がある。
「やめやめ。仲良くしよーぜ?とりあえずこれでも食べとけや」
隣の薊がなにかを三人へ向けて投げた。
眼鏡をかけた男が前へ出てそれを手刀で弾こうとして、受けとる。こいつが投げたのは飛び道具でもなく、ただのアメだ。
「……なにそれ」
「おう、アメだぜ。玲奈……だっけかうめぇから食っとけな。そこの二人もよ!」
蓮の台詞は、明らかに気持ち悪がっていたように聞こえたが、大悟自身はそう受け取っていないようだ。
「あ、姉貴もどうぞ。凜にも好評だったんで口にあうと思う」
「えぇ、有り難くもらうわ」
「……………ふむ」
精神的に疲れたところで蓮から目を離した。
インデクスの魔力消費は大きい。できればあまり不毛なことに使いたくはない。だが、せっかくだ。ついでにこの空間を眼で視てみよう。
この眼には全てが写る。少しの手掛かりくらいは、見つけられるのではないだろうか。
「……この空間、外からは一切視えなかった。中にいる玲羅たちの魔力すら感知できなかったし、……………………あの壁も直ってるしね」
ここは少し特別なようだ。隔離されている。という言葉が適切だろう。インデクスにもほぼなにも写らない。写るのは壁中に刻まれたルーンと先ほどの壁のみ。それ以外はなにもない。
「長方形の部屋に、七人か。大悟、七組の話、あいつ等にも聞いてきたらどうだ?」
眼を解いて、しゃがむ。
そしてまた姉に顔を押しつけた。
しばらくは、こうしていたい。
「…しゃーね。聞いてくらぁー。………おーい。あのさぁー」
薊はなにを言うわけでもなく、すぐに居なくなった。
百合は少し距離があるものの黙ってこちらを見ている。なんだか気まずそうに、忙しなく首を振っていた。薊についていけば、良かったものを、見送るからそうなるのだ。
「ほのりちゃんも来る?お姉さんが抱きしめてあげよっか」
そんな百合を見て、玲羅は微笑みながら手招きする。
「……別に、そう言う訳じゃ………………」
「あら、いいの?今なら───」
「……うっ。ま、迷うなぁ~?」
玲羅がなにやら小声で言ったらしい。
僕にはなにを言ったのかはわからないが、初対面で口に指を入れられたというのに、それでも迷えるとはどういうことなのか。やはり百合のメンタルは鋼より固い気がしてならない。
「……お、お邪魔しま…」
「おぉい!凜、ビッグニュースだぜ!このちっこいの七組について少し知ってるって!」
「うっ、?」
「……あら、ほのりちゃん。御預けね」
ぐりぐりっと顔を埋めてから立ち上がる。
少しだが満足はできた。
百合が後ろで涙目になっていたが、厄介そうだから触れないでおこう。
「……どんなことを?」
姉を抱き抱え、肩に乗せる。
「…………んと、凜次第で教えてくれるってよ」
「ほう……。おい、蓮。要求はなんだ、できる範囲なら応えるぞ」
薊と百合の前例がある。なんでもやると、言ってしまうわけにはいかない。
蓮は少し考えてから、悪い笑みで口許を歪ませた。心なしか目許も少し怖い。
「そうね……私に服従しなさい。そうしたら……」
「断る」
「即答ね。分かりきってたわ、そう言うと思ってたもの」
「ならはじめから言うな」
「だからこうしてあげましょう。もう一度私のことを下の名前で呼びなさい。できたら教えてあげる」
「………………」
嗚呼、こいつらは下の名で呼び合うことに飢えているのだろう。非常に厄介だ。いっそのこと斬ってしまおうか迷う。
「ふふふ、凜良かったじゃない。入学前に友人ができて」
上で姉が笑った。
だが僕は笑えない。
隣の薊は涙目で懇願してくる。その様子は、聖母マリアにお祈りする聖者のようだ。最も、こいつは宗教なんてオカルトをやるたちではないだろうがな。
「(あと一人や二人増えたところでかわりないか)……いいよ。玲奈、これでいいか」
「……………………えぇ、いいわ。私が知ってるのは、七組とセブンコードに繋がりがあるってこと、それだけよ」
「はぁ?」
割りに合わなかった。
やはり斬ろう。
「っと、凜落ち着こうぜ。あいつ斬ってもなにも解決しないからな?」
「……精神的に楽になるんだが」
まぁ、今はやめておこう。
柄から手を離し、姉の手を握る。
蓮を斬り捨てるのは簡単だが、このままでは姉が返り血で汚れてしま、
「……なぁ、それよりセブンコードってなに?」
『……えっ???』
薊の一言で相容れなさそうな全員が彼を見た。
こいつは本当に約一四年間、なにを学んで生きてきたんだ。
「薊くん、本当にわからないの?」
なぜか姉がオロオロと慌て始める。どうしていいのかわからない、という感じで両手が宙をさ迷っているため、これは本当に困っているようだ。
どうしよう、姉が可愛い。
「いやぁ、どっかで聞いた覚えはあるんだけど。わからんのだわさ」
こいつは本当に今まで鍛えて、食べて、寝て、を繰り返してたのではないだろうか。そうでもしない限り『セブンコード』のことさえ、忘れはしないだろう。
「……樹里。あのお馬鹿に教えてあげなさい。」
「……そうだな。おい、バーサーカー。名前を教えろ」
「ん?俺は薊大悟!よくコードがわかったな!」
樹里と呼ばれた眼鏡が、薊へ歩み寄る。
薊は誰に対しても明るい性格は貫き通すようだ。
僕には真似できない。
「菫樹里だ。コードはそのアクセサリーでわかる。それはあいつらの間で流行っているものだろう」
菫が邪険そうに薊のチェーンを指差した。なるほど、これはそういう類いのものだったのか。てっきり、メリケンサック的な使い方をするものだと認識していた。
「りーん。あれは武器的な扱いはしないものよ。普通は」
「そうなんだ?会ったときから思ってたんに」
「違う違う。あれはただのアクセサリー。武器じゃないわ」
クスクスと姉が笑う。楽しそうに笑みを浮かべる顔を見て、心が晴れた気分になる。
菫が薊へ説明をしている間、この空間をもっと詳しく調べるべく、姉と一緒に離れる。説明を聞いても良かったのだが、知っている知識を聞いたところで、なにも変わるとは思えないからだ。
去り際に菫が「書ける魔力ペンはないか」と、行く手を阻んだため、姉の所持品を一つ貸した。ルーンだからこそ、持っていたに等しいが、
「壁自体はただの岩……のようね」
「ルーンは?」
「沢山。盛り沢山。とてもじゃないけど、私には無理な芸当ね。しかもこれ、かなり古いわ」
ルーンの厄介な点。
それは前に言ったように個人によって発動が異なる以外にも、まだある。
今姉にはルーンが視えているが、僕には見えていない。
そう、ルーン同士じゃないと見抜けない様に出来るということだ。流石にインデクスを使えば、視えるが、普段から使うやつはそうそう居ない。だからこそ、わからない。
それともう一つ、一度書けば消されるまで残るということ。
「何千年も前にかかれたものかも……。呪式が単純。それこそ、『始まりの大戦』前後のものかもしれないわ」
「……始まりの大戦。七組は、本当にセブンコードと関わりあるのか…………?」
始まりの大戦。
今から二千年前にあったとされる世界の変革であり、七人の少年少女が挑んだとされる戦いだ。
セブンコードとは、呼び方には地方によって異なり、一概には言えないが『始まりのコード』と共通認識がある。
能力は僕たちの七つあるコードと変わらない。変わるのは、それぞれのコードの頂点に立つということだけ。諸説では一人で同じコード一〇〇〇人以上分の力を誇ると言われている。まさに一騎当千の具現化と言えるだろう。
「その時代の産物ってことは、もしかしたら初代が残したものって可能性もあるのね。ふーんロマンがあるじゃない」
「……なんのようだ、玲奈」
「あら、いいじゃない。私だって調べたいのよ。ねぇ、ミユ?」
「………………」
後ろに現れた蓮が、無口な女を連れて壁を睨んでいた。
無口なやつは背が高い。
蓮と並ぶとさらにそれが際立つ。
「彼女は露草未夢よ。私の友達なの」
「別に聞いてない」
「熱心にミユのこと見てたじゃない。……もしかして大きい方が好きなの?」
身長の差を見てた。と、言おうとしてから姉も背が小さいことが、過る。普段、何気なく肩に乗せたりしているが、その事をいじると姉は拗ねる。しかも、この中で一番背が小さいはずだ。
どう見ても全員、一三八センチ以上はある。
その姿も可愛いとはいえ、今ここで拗ねられて捜索できなくなっても困るのは僕だ。
勘違いさせたままの方が、マシかもしれない。と、思考した僕は、
「あ、うん。そりゃ胸は大きい方が好きでしょ。寝やすそう」
と、思ってもいないことを言う。
瞬間、露草が一歩下がり、無表情のまま豊満な胸を押さえて平手打ちをかましてくれる。幸いなことは背中にしてきたということか。ちょっと痛かったが、支障はない。
蓮はなにを思ったのか青ざめている。たしかに、こいつは俗にいうまない──
「皆までいうと貴方でも殺すわよ、凜」
─だから、かもしれない。
流石に触れないであげよう。姉にも、女子に対しての接し方は気を付けるよう言われている。
「力量が足元にも及ばない癖に、良く吠え……ん?」
視線を蓮の奥へ向けると、岩から突き出ている筒状のものを見つける。
「な、なによ。私になんかっ!?」
「用はない。玲羅、これ……」
頬を赤らめた蓮の肩を掴み、退かせる。大方、見つめられたとでも思ったのだろう。
筒状のものは配管らしく、中に切れたケーブルが見える。
「埃を被ってるとはいえ、綺麗に切断されてるのはわかる。……セイバーか?……それより、何でここにこんなものが?」
「…………もともと施設だったのかも。あの壁の周りには抉られたような形で作られた壁が残ってるのに、他の場所は岩肌が出て、ルーンだけ刻まれてる……。初代たちは、ここでなにをしていたの……?」
考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだった。
なぜ、このような空間を作る必要があったのだろう。仮に施設だとしても、ここまで迷路チックにする必要があるだろうか。これではまるで、攪乱させるための道のように思える。
僕たちは始めからバラバラにここへ飛ばされている。だからただゴールへ向かうわけだが、あの入り口から、もしここまで向かうとしたら。何度も分かれ道に悩まされることになる。
「…………ここは、なんなんだ」
「…あ、これってなにかな?」
考えが行き詰まったところで、百合の声が空間に響いた。彼女の目の前には、岩自体に描かれた模様がある。
「……あら、それって…………」
「あ、玲羅っ」
姉がピョンっと肩から降りた。
「待ってよ、玲羅!」
慌てて僕も追いかける。遠目に見ても、意味を成しているとは思えない。
いや、近づいてみても、上手いとはお世辞にも思えなかった。線は雑で、刃物で書いたと思われるそれは、大きいものでもない。僕の背より、少し低い位置に書かれている。
絵というよりは、言葉だろうか。
「……ふっふふ………………、……」
長年の風化により所々崩れているだけでなく、そもそも欠けていて読めたものではない。と、考えていた直後だった。背伸びをして姉が文字を見て、笑い出し、ボソボソとなにかを呟く。
「読めるの?」
「えぇ、少しだけね。『未来を託す』ですって」
文字使いだからか、姉にはこれが読めるらしい。僕には、どう見ても雑な斬り込みにしか見えない。それに『未来を託す』とはどういうことなのだろうか。
「それって誰からの言葉?」
「まだ、教えてあげない。でも、私たちにとって、とても勿体ない言葉よ」
「ふーん。ほのり、わからないのはもやっとするなぁ」
「ミユは読めないの?」
「………………」
「そ、……もう少し話す努力をしなさいな」
「…………」
ざわざわとギャラリーが湧く。鬱陶しい。
「あら、凜っ」
僕は姉を持ち上げて離れた。
「どうしたの、凜。なにか嫌なことでもあった??」
「……別に、そうじゃない」
「……苦手だものね。人と接するの」
僕は姉を守る力だけが欲しかった。
そのために強くなった。
他は知らない。
「距離感って大事だよね」
「あの子達はぐいぐいくるタイプだったのね~、凜が疲れるなんて珍しい」
端まで下がり続けた僕は、姉を降ろして腰を下ろした。文字に夢中の今なら、流石にここまで追ってくることはないだろう。
「大切にしなさい。友達は一生ものよ」
姉は笑顔だった。
それでいて真剣だった。
優しかった。
「玲羅、僕は玲羅だけを守るために強くなった。僕の両腕は一人しか守れない。他の誰かを『大切』だなんて考えたくないんだよ」
「凜…………」
「あの二人と一緒にいて、疲れたんだ。男は馬鹿だし。女子は強いコードの癖に使いこなせないらしくて、ずっと守られるだけだったし。その上全員初対面。なのに、背中を預けてくようなやつで、!?」
「はい、おしまい。私の顔を見なさい。貴方の悪い癖よ、暗くならないの」
姉に頬を摘ままれ、考えるのをやめた。僕にとって、それらを理解するにはまだ、時間が足りない。
「人間関係難しいよぉ~。姉ちゃん~」
甘えたい気持ちで一杯になった。
両腕を精一杯伸ばし、姉を抱き寄せる。
「よしよし。あと少ししたら、いつもの凜に戻りなさいな。家でも慰めてあげるから、ね?」
自覚はしている。
時々自分でも分からないほど深く考え込む瞬間がある。
「……ありがと。姉ちゃん」
だが、こうやって玲羅が頭を撫でてくれると段々落ち着いてくる。
「……いいのよ。私の可愛い弟。いくらでも甘えなさい」
デジリアルワールド、どうでしたか?
作者の中で主人公どうなってんねん。な感じかと存じ上げますが、実は元から姉の前では幼くなる。姉優先、姉大好きな弟くんとなっております。なんというか、彼は冷酷な人間でもあり、また一弟として、甘えたがり屋でもあるのです。
姉も姉で弟を甘やかす天才ですけどね。ちょっと変な一面もありますが……それは今後の話の展開に期待するとしましょう!(←誰目線?)
それでは次の投稿で
感想、誤字脱字報告等もどしどし待っておりますm(_ _)m
ps.間に合えば本日二本投稿致します
投稿する話は、デジリアルワールドです。
Zeroの方は少々時間がかかりそうで申し訳ないです……