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デジリアルワールド   作者: 川端 誄歌
入学試験編
4/16

入学試験、Ⅳ

どうも、誄歌です

今回は気休め回と少しだけ戦闘ありです。



それでは、どうぞ( ゜д゜)ノ



地震のおかげで寝付けない日々が続いてます……

「そういや、凜。お前、腹すかねぇの?」

右隣に胡座をかいて座っている薊をみる。

半裸の彼は腹が減ったとばかりにお腹をさすっていた。

「お前は毎度毎度唐突だな」

対して百合は唸りながらズチャ、と、音を立てていた。

百合もまた、服を脱いでいる、らしい。

ただ、背を向けているため、今何を脱いでいて、どこまで脱いだかは知らない。

「さっきいいかけて言えなかったんだよ」

「……それにしても唐突だろう。まぁ、空かない訳じゃないけど。別にいいかなって感じだ」

僕たちは今、道の脇にあった小さなスペースで休憩をとっていた。理由は明白、ずぶ濡れになったからだ。

──あれは数分前の出来事、

「早く~!遅いよ二人とも!」

テンションの高い百合が一人はしゃいで、細い道を小走りに進む。さっきまでの黒い壁と打って変わって、レンガ造りの壁が見える。色は、若干褪せているが緑っぽい。多分、苔が生えているせいだろう。

「たく、元気だな~。ほのりはよ」

お気楽そうな薊と目があった。

その顔は笑顔で、我が子を見守る父親のようにも見える。

「そうだな。考えもなしに進みすぎな気もするけど」

壁の材質が変わったことにより魔力が関知できるようになったため、僕は警戒を強めていた。だからこそ、

「そういや、り……」

「まて、大悟。ほのりも、止まれ」

百合の足元で光細い何かに気づくことができた。最も、

「え?な……うっわぁ!?」

百合が真面目に止まるわけもなく、振り返りながら進んだ結果。

彼女はそれに足を引っ掻け、転ぶ。

それも結構な勢いで倒れた。

後頭部を強く打ち付けたようで、百合は中々起き上がってこない。遠目に見ても頭上に星が三つほど出ているのがわかる。

「あれ、大丈夫かな?」

「不安なら見に行ってやれ。死ぬことはまずないと思うがな」

不意に話しかけられ、百合から視線を外した。その瞬間、

「へ?水……?」

百合が目を覚まし、上体を起こした。

なにやら寝言のようなことを言っている。

「おい、大丈夫か?」

額を手で拭う動作を見て、血でも垂れたのかと考える。だが、それはすぐに解消された。


──ドゴゴゴゴォォォォオ!!!


「あん?」

「はっ──?」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!?」

轟音が上の方から聞こえ、上を見上げる。

音をかき消す程の絶叫が鼓膜を刺激する。

轟音の正体は、水だった。絶叫の正体は、百合だ。

それも、大量の水で───

「まさか頭上から大量の水が降りかかってくるのは、予想外だったな」

今に至る。

「……濡れてねぇくせによく言うよ」

「先行してるのが悪い」

僕がなぜ濡れていないのかと言うと、すぐに後ろへ『閃』で跳んだからだ。

そして薊が上だけ裸な訳は、百合を助けるために目の前にできた滝へ飛び込んだ結果。上半身が入ったところで、水が切れたからだ。あと少し待てば、濡れる被害は膝くらいまでで、すんだろう。……いや、それは結果論であり、「たられば話」か。

むしろ助けにいかなかった僕が攻められてもおかしくはない状況ではある。

「もーっ!下着まで濡れて最悪だよ!」

後で百合が自棄を起こした。背中になにやら重みを感じる。

「急に寄り掛かるな、僕まで濡れるだろ」

「良いじゃん!私もう服着てないし!」

「ぶふっ!?ま、マジで!?」

百合の爆弾的な発言により、薊が吹く。僕は眉間が痛くなる気持ちで目を閉じながら、振り返りかけている薊の顔を押さえた。

「…………大悟。今ここでお前が振り返ったものなら僕は速攻お前を見捨てるぞ」

「ぐッ……。友情か、欲望か。究極の二択だ……!」

片目をあけ、薊の様子を見る。視界に金色の髪が写ったが、今は気には止めなかった。

こいつは着痩せするタイプらしく、ワイシャツを着ていたときとは肉体の印象が変わる。

鍛えられた胸筋、二の腕。腹筋も割れている。

僕の生まれつきの少ししかない筋肉とは大違いだ。

「あ、そうだ。これやるよ」

「……なんだこれ」

自問葛藤から逃れたのか。薊は、思い出したかのようにポケットから何かを取り出す。手には小さな袋が三つ。

「レモンの味の、アメみてぇな、キャンディみてぇな、ドロップのような、中が柔らかいやつ」

「結局どれだ」

薊が自分の分を頬張ったのを見て、僕はそれを掴む。袋越しの感触では、アメのように感じる。指が沈むほど柔らかいわけではないようだ。

「れも、おいひーよ?」

いつの間にか食べていた百合がモゴモゴと話す。

振り返り頭を叩こうとも考えたが、彼女が服を着ていないらしいのでやめる。代わりに、触れていた頭で突いた。

「……含みながら喋るんじゃない」

「いてっ」

「せめて普通に話せるようになってからにしなさい。アメで舌切ったらどうするのさ」

「……はぁい」

「よろしい」

いつもは姉に怒られているな、と、思い出に浸る気持ちになりながらアメを口へいれた。たしかに、美味しい。意外と酸っぱみがあり、僕は好きだ。

「なぁ、凜。七組についてなんだけどよ」

「…………」

僕はアメを舐め続ける。視線で話の先を促す。

「きいてっか?」

「…んー」

だが、わざとなのか。薊はじっと見てくる。

「……無視されてんのかな。俺」

「……(アメが口に入ってんだよ。良いから話せ)」

悩んだ末に床に字を書く。と、いっても床が削れるわけではないのでエアーだ。あとは薊の読解力次第になる。

「……あれが口にってんだは、良いかう言せ?」

「……(わざとか。……ん?百合は何をして)」

背中に先程とは別の重みを感じ、少し見る。そこには、

「……(百合、なにしてん)」

「あー!動かないの!」

「(うっ、なにがしたいんだ)」

僕に抱きついてきた百合が、下着姿の百合がいた。一瞬でわからなかったが、上はつけていなかったように見えた。下は、可愛らしい雪兎が描かれていた気がする。

「なっ!?羨ましいな、凜!」

「……(訳がわからん)」

薊が何に興奮しているのかわからなかった。女子の下着なんて、僕は見慣れている。姉と一緒にお風呂へ入っているのだから、なにも興奮する要素がない。むしろ入浴中の方がいろいろ大変だ。

「ねぇ、大悟。七組がどうしたの?」

「あ、そう。そう言えばな、先輩たちがこうとも言ってたのを思い出したんだよ。七組への鍵がここの奥にあるって」

僕は少しだけ開いた口が塞がらなかった。

「……ガリッ。…………なんでそれを先に言わない」

少なくとも約三時間ほど既に経過している。そのうち、七組についての情報収集にかけた時間は確実に半分以上。何度も僕は聞いたはずだ。

「あっはは。なんかすっかり忘れてた」

頭が痛くなった。こいつのお気楽さは僕の想像の斜め上を行くかもしれない。

「だとしてもあれね。奥といえばそろそろかも」

「何か知ってるのか?」

そう聞くと、百合はしたり顔を浮かべてニヤニヤする。どうやら、思い当たる節があるらしい。

「私、最初入り口と反対方向に飛ばされたんだ。はじめは道に迷って探索してたんだけど、その付近に変わった壁があったの。今思えば七つの模様が描かれてたかもなって」

「なるほど。それはいい情報だな」

この迷路は長方形型で細長い。今回、試験として使われているのは縦幅ニキロ。横四キロの範囲だが、僕と薊は入り口付近からスタートしている。百合とは真逆の位置だ。

「仮にその奥が、僕たちがスタートした入り口から反対側。と仮定するならここからも近いな」

ゴールは迷路の真ん中にある。本来はそこを目指して挑むべきなのだが、今はこうして薊に付き合っている。が、時間的にはそろそろ限界でもあった。

「もしその壁画を見つけて何もなかったら即行戻るぞ。下手したらそもそも合格できなくなる」

時間的猶予を考えると、もうB組分の生徒がゴールしていてもおかしくはない。

「大悟、時間は?」

「あぁ?待ってな。⋯⋯⋯今三時ちょっとだから、試験開始から三時間と少しだな」

やはり余裕がない。時間もかなり経っている。

玲羅、姉と会わずにそれだけの時間が経過しているのだ。

気が参る。魔力感知ができないのがここまで困ることになるとは。せめて感知できれば、

「あ。今はできるのか」

思わず立ち上がる。

「なん!?」

「あ、ほのり大丈ぶっぁと!!わ、わりぃまだ見てないから安心してくれ!?」

後ろで薊と百合が何やら話し合っているがどうでもいい。

もし、姉がここの空間内に居たら、今なら分かる。

「玲羅⋯⋯⋯!」

部屋から飛び出し、僕は眼を使った。

視界が緑色へ変わっていく。

「……視える距離に、居ないか………………」

左右上下。東西南北。くまなく視る。

だが、姉の魔力は確認できなかった。それどころか、薊と百合以外の魔力は感知できなかった。

代わりに、ここから奥になにやら違和感を見つける。

「………………あれって。なぁ、ほのり。奥側って──」

魔力でもない、不思議なものの方向を指差し振り返り、思い出す。

「──あ。まじか」

「……………………」

頭に大きなコブがあり、突っ伏している薊。

その隣に頬を赤くして前を隠す百合。

それを見て、言葉を失う僕。

「……なぁに?凜」

百合と目が合い、少しだけ申し訳なさを感じて眼を解除して、

「…いや。とりあえず、服を着な。風邪引くよ」

「ふぅん。それじゃあ、それ絞ってよ」

百合の指先を追う。そこには、パーカー、セーラー服にくつ下。下着、百合が着用していた物がある。

「なんでそうなる。自分でやればいいだろ」

「……入学したら私のを見たって広めるよ」

「どんな脅しだ」

正直、姉の服も一緒に洗濯し干しているため、触れることに対して拒否感はない。

「別に構わんが、本当にするぞ」

ただ、姉の服以外触れたことがない僕的には、やめた方がいい気がする。

「……いいよ。どうせ前隠しながらなんて無理だし」

「……(それはつまり僕が外に出ていればいいだけの気がするが、)そうか。ならやろう」

「えっ……!?」

躊躇なく下着を掴み、揉む。

びちゃーっと水が垂れ、不快な感覚が手を襲う。

グッと拳に力を入れるが、片手ではどうしても限界を感じ両手で掴み、捻る。形が悪くなるかもしれない。だが、最初から絞ってと言われているのだ。問題はないだろう。

「……ほら、これなら着れるだろ」

「……ありがとう」

水がでなくなったところで百合へ投げる。受け取った百合は顔をさらに紅くしていたが、恥ずかしいなら人に任せるべきではなかったのだ。とくに、僕のような人間に、

「ほら、大悟。起きろ」

「ん……っん……はっ。お、れは……」

「ほのり、僕たちは出てるから。ゆっくりやるといい」

「え、えぇ!?」

「前を隠さなくていいなら問題がないだろう?」

僕のように、性格の悪い人間には頼むべきではないのだ。

薊の肩に腕を回し、支える。かなり強く頭を打たれたのか思ったよりふらふらだ。

ちなみに、下着を触れてみての感想は姉のよりは小ぶりだということくらいだ。他は布だな、という生地に対しての感想しかない。

「…………人生で母親以外のもの初めてみた……」

「お前、一回冷静になった方がいいぞ」

知りたくもなかった情報を得た僕は、薊を外へ投げる形で部屋の前に立つ。

体つきがこうでも、中学生であることにかわりはないようだ。僕も生活が今と違ったら、こうだったのかもしれない。今となっては、姉のものでしか、僕はなんとも思えないのだが。

薊が正常に戻るのに約三分ほど費やした。

彼にとってはそれほど刺激的だったということだろう。

「……なんか、その。すまん……………………」

いまさら先程の羞恥が恥ずかしくなったのか。薊は小さくなりながら僕に謝った。筋肉質な男がこうも落ち込みながら謝るスタイルは、滑稽に見えたが、今は言うまい。

「大丈夫だ。お前のそれは健全な男子中高生的感覚だと思うぞ。僕も姉の下着とか見たらヤバイしな」

「…………お前の癖は次元がちげぇよ…」

フォローのつもりで言った言葉に、まさか批判を貰うとは考えていなかった。まさに、恩を仇で返された気分だ。

「ふむ。姉は最高だぞ」

仕方がないので僕はそれに対してサムズアップで返す。

「…………お待たせ。これ大悟のシャツ」

と、そこで百合が部屋から出てきた。片手には薊のシャツを持っている。どうやら、ついでに水気を切ってあげたようだ。

「あ、すまん。そしてごめん……」

元気のない手がシャツを掴み、返っていく。百合の頬はまだ紅かった。

「いいよ。減るもんじゃないし、別に見られるくらい」

「いや、それでもあんま親しくねぇやつに見られるのはやだろ」

「まぁ、大悟とか凜に見られるのは別に不快じゃないから大丈夫。だからってまじまじ見られるのは嫌だけど」

「…………適度に拝ませてもらいます…!!」

この二人、お似合いなのではないだろうか。

なぜ薊はない胸へ合掌を捧げ、百合は頷いているのだろう。

「……それで、さっき何をいいかけてたの?」

「こっちの方にその模様があるのかどうかを聞きたかったんだ」

もう一度その方向を指差し、目に魔力を集める。

「あ、やっぱりインデクス。使えるんだね、凜は」

「うん。少し前に習得した」

コードは多くの情報が眠っている。それ故、なかなかドライブを使っても、思い描く技を引き出すのは容易ではない。一度使用すれば、そのうちドライブが覚えてくれるため引き出すのは簡単になるが、

「それ難しいらしいな。少し魔力量間違えると目がおしゃんらしいじゃん」

当然発動条件を満たすのはあくまで自分だ。それを満たすまでは、如何にドライブを使おうと引き出せはしない。

「だからこそ、この眼はなかなか使用者が少ない。……それで、どうなの?」

「うん、たしかにこっちよ。もしその眼に写っているのが、あの壁なら何かあるのかもね」

肯定をした百合は、深海のように蒼い目をぱちくりとした。

「よし、行こ。私が案内するから、走るよ!」

なるほど、気合いを入れただけか。目にごみでも入ったのかと目薬を探すところだった。

「うっし。行こうぜ、凜」

「また走るとさっきみたいなトラップあったとき転ぶぞ」

「大丈夫!この先にそんなのないから!」

また先程のように走り出す百合。薊も本調子に戻ったのか走り始める。

「…………あれ?そう言えばほのりはそっちからあの場所まで歩いてたってなると……。さっきのトラップはなんであったんだ?」

「おーい、りーん!はやくー!」

「いや、だから……っ大悟!!!」

インデクスが解除される寸前、百合の奥になにかが見えた。

数は複数。人ではない、なにかが視えた。

「……っ!理解した、『バーサーク』!!」

身体から紅い蒸気を発した薊が先行する。

僕も閃を使い、百合の前へ跳ぶ。

狂者が馬乗りに攻撃しているやつを見て、僕は驚きが隠せなかった。

『デュエンデ……!?』

なぜ、人を食べる怪物がこんなところにいるのか。仮にいるとしても、試験の注意事項には一切書かれていなかったはずだ。

「なのになんで……!ほのり、少し後ろへ下がって!そしてそこから絶対に動かないで」

「う、うん。わかった!」

剣を構え、薊が仕留めきれずにこちらへ向かってくる数体を相手にする。

デュエンデのタイプは狼。

個体名はファングルだった気がした。

「対デュエンデ戦は初めてじゃないけど。複数を一度に相手にするのは初めてだ」

始めに飛びかかってきたのは、右端にいたやつだった。

雄々しく鳴き、前肢を上げている。

ファングルのたちが悪い所は、多数対一をする珍しい個体であること。正直にこいつを斬るために前に出れば、他のファングルが僕に噛みついてくるだろう。

「大悟に当てない程度で、範囲技……ちっ。『一閃─スラッシュ』!!」

刀身が青く光る。武器へ必要な魔力を集める。脚へ跳ぶための魔力を、蓄える。そして、

「っ!」

閃を細かく何度も、幾重にも発動させ跳ぶ。

振り下ろされる脚を左へ避け、噛みついてくるやつを剣の腹で反らす。右へ跳び、上へ跳び壁を蹴る。

五度目の閃で三体の真ん中へ入ることができた。

どうやら、外で聞くものよりは性能が低いらしい。

「ふん!」

右足を軸に、横へ薙ぎる。

『ギィィィィィィイ!!?』

直後、聞くに耐えない音が辺りに響く。

それは、ファングルから発せられる声だ。

彼らが、ただの生物ではないことを教えてくれる音。

この世界に居る、人間を襲う別次元の生物。

それがデュエンデだ。

周囲のファングルが一斉に爆発した。

百合の声が、聞こえる。

「凜!!」

激しい風が、僕を襲う。だが、構わず僕はさらに前へ床を蹴った。

「『閃』!!」

壁へ跳びつき、煙から脱する。仲間がやられたことにより動きが鈍くなったファングルと、奮闘する薊の姿がそこにはあった。

遠心力を加えた一撃で一体を奥へ飛ばすのと、彼のドライブが武器へ変わっていくのはほぼ同時だった。現れた手甲型の武器が、異彩の色を放つ。

「……『デスト・ロイ』!!」

薊が床を殴る。刹那、衝撃波が起こりファングルを次々に壁へ飛ばしていく。僕ももう少し近くにいたら、影響を食らっていただろう。ある意味、不幸中の幸いだった。

先程の煙も、お陰で晴れていく。だが、

「大悟、場所を考えろ!そんな大技使ったら崩壊するぞ!」

壁が嫌に揺れた。靴の裏からでも伝わるほどの軋みようだ。

冗談抜きで、崩れる可能性がある。

一撃の破壊力は、馬鹿にできないようだ。

「あっ、すまん!」

薊が技を解いたのと同時に、壁に埋まっていたファングルが飛び出す。直接的な一撃を加えなかったからか、仕留められはしなかったようだ。

僕は壁を静かに蹴って、近くにいたファングルへ突きを放った。だが、スピードが足りなかったらしく避けられてしまう。

後ろへ跳び、追撃を回避する。

「大悟、お前も下がれ。流石にもうここで技は使えん!」

「なら、突っ切るまでだ!」

言った直後に薊が見たことのない技で前へ走り出す。

しかも、床をえぐりながら。

壁を若干崩壊させながら突き進んでいく。

「ちっ、だからバーサーカーは好きじゃないんだっ!ほのり、来い!」

「わ、わかった!」

少しだけ後ろへ下がり、百合と合流した僕は問答無用で彼女の腰へ手を回した。

「えっちょっ!」

「話は後で聞くから──」

「とぉ!?」

閃を使って前へ出る。

閃はもともと視界に納めた分だけ一瞬で距離を詰める技だ。だから、使用者へ負荷はかからない。ただ掴まれた人には、その限りではないが。

「我慢してくれよ。あいつがやめないから、下手したらいきうめになる」

連続で閃を使う。薊は尚も技を使ってファングルを倒しながら進んでいくため、通路の崩壊が止まらない。

後ろの方から壁が崩れる音が聞こえる。

体感でいえば地震が終わらず、ずっと続いているような感じだ。

「大悟は何を考えてんの!?」

百合が出会ってから一番の声をあげた。叫びたくなる気持ちも、わからなくはなかった。

当然、僕は無闇に叫んだりはしないが、

「なにも考えてないさ。あいつならな!」

薊の攻撃、後ろの崩壊の巻き込みを恐れ、僕は少しだけ距離を保つ。だからか、目の前に目的の壁があることに気づく。

「うっぉぉぉぉぉぉおおおおおおあ!!!!」

「あいつまさか。壊す気か!」

薊の進軍は止まらない。

止められなかった。

彼が右腕を大きく引いた。

魔力が集まっていくのが、目に見えてわかる。

「すごい出力……ほんとに、バーサーカーって!!」

「あぁ、でもそれでもあの壁は壊せない!」

インデクスを開眼させた僕は、壁に刻まれているルーンを見て唖然とせざるおえなかった。

防御のルーンだけならまだ突破できるが、魔力を吸収、返還させるルーンが複数種類あの壁には描かれている。

いくら火力の高い、狂戦士の一撃でも破壊は不可能だ。

「迷ってる暇は、ないか」

後ろを見て覚悟を決める。瓦礫に生き埋めに遭うくらいでは死ぬことはない。

百合の話によれば脇道はあるだろうが、仮にそこへ逃げたとしても、それだけ大幅な時間ロスには繋がりかねない。

「『フル──」

「狙うは、高火力。セイバーの僕でも出せる最大火力の──」

手甲が赤黒い色に輝く。

合わせて剣を上段に構え、魔力を集める。

「連続必中……」

百合を抱き寄せながら、壁と薊の間へ向かって飛び込む。

刀身が紅色に染まる。

刃から漏れる魔力が血のように垂れる。

この技は、ヒットが重なるにつれて魔力を奪い、火力が上がっていく突き技。

魔力消費に比例しない、維持するだけでも剣から溢れる魔力が血のように流れることから付いた名は、

「カーミラ・バイオレット」


──吸血鬼の名を、謳う。



デジリアルワールド、どうでしたか?


ここでまさかのタイトルの由来だけぶちこむというなんともなげやりな作者です。


次の回は少しだけ百合視点で物語が回想された後、また物語が進みます

まだ説明されていない七組について大きく触れる予定です(と、言っても触れないかもしれませんが)


ではまた次の投稿でm(_ _)m

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