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8/8

攻略チーム完成みたいです。③

 翌日の朝、俺の気分とは裏腹に快晴となった。

 俺が起きると、手紙が置いてあり差出人は聖五。


『おはようございます。昨日、嬉しさのあまり眠れませんでした。今日の昼過ぎに、朝日ヶ丘駅の噴水広場でお待ちしております』


 内容は淡々としているが、女子っぽい字で書かれていて背筋に悪寒が走った。

 扉をノックする音が聞こえる。


「どうぞ」

「おはよう秋桜。今日はサポートさせてもらうから、全力で遊ぶんだぞ?」

「遊ぶって言われても、相手が相手なだけに……」


 扉の向こうから現れたのは、我が母なる昌子もといフィロちゃんである。

 デートする相手が聖五では、やっぱり乗り気じゃない。というか、そもそも男が男とデートして一体何が楽しいのかわからないものだ。

 俺は溜息を吐いて愚痴をこぼした。


「……はぁ、相手が聖五じゃなければな……」

「むむ? それは私が相手だったら良かったということか!? まぁ、私達は血の繋がった親子だからな!」

「血も繋がってないですし、親子でもないですからね!?」

「つれないのぅ」


 軽い冗談にも付き合わない俺に、フィロは残念そうに溜息を溢す。


「ま、それはそれとして、聖五の奴なら明け方を待たずして出かけて行った。本来ならアイツが仕事の手を抜くことはないんだが、まぁ事が事なだけに見逃しておいてやるとして、よほど楽しみだったようじゃな」

「こっちからしたら、行きたくなさ過ぎて眠れなかったようなものですけど……」


 ほんと、やっと眠れたと思ったら聖五が夢に出てきたものだから、げんなりする。


「とりあえず、我々からは簡易的なイヤホンを渡す。今日はそれをして、デートをしてくれたまえ。我々からの指示を必ず聞くんじゃぞ?」

「……わかりました」


 俺は眠気眼をこすりながら、準備にとりかかった。




 ◆



 朝日ヶ丘の駅は四路線電車が走っているターミナル駅だ。ゆえに、休日は多くの人が行き交い、カップルや夫婦、家族連れなどで賑わいを見せている。

 俺はメイドさんたちに無理矢理着させられた白地に水玉のワンピースを着て、麦わら帽子を被って聖五を待つ。

 さっきからチラチラと男の目線が気になる。学校でも注目の的であったのだが、また校外に出ると更に視線を集めるようだ。

 それほど、俺は絶世の美女ということらしい。ま、それでも自分の見た目よりも鷹峰さんの方が好きだが。


「あ、俺だよ俺! 昨日会ったの覚えてるか?」


 鷹峰さんのことを思い出していると、突然声をかけられた。

 二人組の男で、色黒。不良みたいな感じの男だ。

 俺は聞こえないフリをした。


「忘れちゃったかな? 俺と昨日付き合うって約束してたじゃんか!」

「俺とは昼間っからデートしてホテル行くって約束してたよな?」

「んだよ、コイツとホテル行く約束してたのかよ! なら、今から俺と行こうぜ! 交代でいいからよ! ギャハハハ!」


 おいおい、どこのカスだよ。

 俺を誘ったとしても、心の声聞いたら絶対逃げるだろうが。

 無視を続けていたら、突然インカムから音が出た。


『……消せ。今すぐ消せ。いや、今すぐ私が消してやろう』

「いや、待ってください!」


 インカムから聞こえてきた音は、フィロの声だ。その声音は恐ろしく低く、まさしく言葉の通り誰かを消してしまいそうだった。

 その声に反応して、思わず喋ってしまったのが凶と出たのか、男達は突然俺の華奢な手首を掴んだ。


「待たねーよ。俺と一緒に遊ぼうぜ?」

「ささ、行こう行こう!」


 俺の手首を強引に引っ張り、もう一人の男に背中を押される。

 これは、マジでやばいパターンだ。

 必死に振りほどこうにも、いかんせんコイツらの力の方が強いせいで、連行されるがままになってしまう。

 道行く人達も、チラ見しては我関せずで、どこかへと消えていく。

 本当に人というのは、誰かがピンチでも助けてくれないのだなと心底思った。


「やめてくださいっ!」

「いいね~やめてください。可愛いよ! 俺嫌がる子を犯すの好きなんだよね」

「ほんとにっ! やめてっ!」


 悲痛な叫びも届かず。

 俺の手首を握っていたからか、男は前を見ずに歩き、何かとぶつかった。


「……痛ってーな。俺を誰だと思ってんだ!」

「誰? 知らんが、そこの女の子の俺は彼氏だ」

「あ?」


 俺の手首を離し、男二人は目の前の人物に絡み始める。

 そこにいたのは、いつもの執事の格好をした聖五ではない。ジャケットを羽織っているものの、普通にカジュアルな格好をした聖五だった。

 だが、聖五だとわかるのに、少し時間がかかる。それは、いつもの変態的な目つきで俺を舐めまわすように見ている聖五ではなく、動物園の檻でお腹を空かせた虎に見えたからだ。


「貴様らみたいな下賤な連中が触れて良い人ではない。お前達は今すぐ俺が抹殺してやる」

「やれるもんなら――――」


 閃光。

 名を付けるのならそんな感じだろう。

 気が付いたら、聖五に絡んでいた男は二人とも魂を抜かれたように倒れた。

 倒れた男達の頬には、テニスボールくらいの凹みができている。目にも止まらぬ速さで殴られたということだ。

 思わず、俺は生唾を飲み込む。ここまで、人を本気で恐ろしいと思ったことはなかった。


「さ、お待たせしました」


 だが、恐ろしいとか云々の前に、聖五はいつもの表情に戻る。

 ニコリと笑顔で微笑み、まるで幽霊でも見たんですか。と問いかけているようであった。


「……強いんだな」

「私は何もしていません。勝手にこの人達が倒れただけです」

「はははは……」


 苦笑いするしかないな……。

 正直、一瞬でもカッコイイと思ってしまったことが不覚だ。


『秋桜。癖なのかもしれないが、デート中は聖五に、秋桜の言葉でしゃべらなければ好感度は上がらん。心の中の言葉は胸にしまいなさい』


 クソ、聖五にぶりっ子をしろというのか!?

 これも訓練というのなら、仕方ないが、なんだか気疲れしそうだな……。


「それではお嬢様、行きましょう。今日は私がエスコートしてみせますから」


 すっと手を差し伸べてきた聖五。

 その瞬間に、インカムから大音量で声が聞こえた。


『今です! そこで、今日はお嬢様じゃなくて、秋桜って呼び捨てにしてください! だってあなたの彼女ですからって言ってくださいっ!』

「え!?」


 この声の主は末坂(すえさか) (ひろし)。コックの声だ。

 だが、宏の言葉にフィロも反論せず。ということは俺は指示に従わなければならないということだ。

 俺は溜息を吐き、聖五の手を握る。


「はいっ! それと、今日はお嬢様じゃなくて、秋桜って呼んでくださいっ! ……だって、あなたの彼女なんですから……」


 こんなセリフを言っている自分が恥ずかしくなって、顔が熱くなった。

 だが、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、聖五はニコリと優しく微笑む。


「そうですね。私の……彼女なんですね」

「ええ……」


 聖五は一旦手を離し、俺に背を向け上を向いていた。


「……長かった……ここまで、本当に長かった……。私は幸せです。ここで死んでもきっと後悔しないでしょう……」

『コイツ本当にバカじゃな』


 フィロの呆れた声が聞こえる。それについては俺も同じ意見です。


『……わかってないわね、好感度っていうのはこうやって上げるんじゃないわよ。いい? 秋桜様、聖五様に今から、こう言ってください』


 この声はメイドの性格やばい人の声だ。名前は確か、(ひいらぎ)さん。

 俺は続く言葉を聞き、ああ、もうこれ何も考えずに指示通り喋んないと自分の羞恥心が崩壊するな、と思った。


「バカっ! 死んだら、私と結婚できないでしょ?」

「……そうですね、私バカですよね。秋桜様と結婚して子供は男の子と女の子一人ずついて、庭のある一軒家で、子供と犬が遊んでる姿を見て、のんびり暮らすんですもんね……。その夢の為に死んだらダメですよね。すいません、俺が間違ってました。これから、二人一緒に幸せを作りましょう」

『……話が進まん。とりあえず、デートしろ』


 やたらと不機嫌なフィロの声がする。


「そろそろ行きましょう?」

「ええ、そうですね! 私の考案したデートに行きましょう! ああ、ほんと、死んじゃダメだけど、死にそうです」


 聖五は今にも天に召されそうなんだけど、大丈夫なのか?


『秋桜。聖五の好感度がメーターを振り切っている。例えるのならば、小さなコップにダムの水を入れ続けているようなものだ。これ以上は、奴が何をするかわからんから気を付けるんだぞ』

「……はぁ……」


 デートの訓練の相手間違えたんじゃないの!?


 俺達はショッピングモールの最上階にある映画館に来た。

 休日ということもあって人ばかりいたが、そこまで混んでもいないみたいだ。


「秋桜様。私は今日、この映画を見たい! そう思ってここを選んだわけではありません。秋桜様が見たいものを選んでください」

「えーっと」


 ここらへんは流石聖五って感じなのか。あらかじめ見る映画を決められていると、あまり興味なくても付き合わなきゃいけないから大変なんだよな。

 以前、鷹峰さんとデートをすることを想定して、女子とのデートNG集みたいなのに載ってた気がする。

 映画デートは、女子の好みを優先し、なければ自分が提示するのが良いらしい。

 今やっている映画で言えば、恋愛モノはカップルで見るに相応しいだろうが、さすがに聖五と二人で見る気にはなれないものだ。

 俺は見たいものがなかったので、アクション映画を選択した。


「このシリーズ面白いですよね、私も前作も映画で見たんですよ」

「え!? そうなんですか!? 私、この俳優さんが、絶対に死にそうな場面でも切り抜けるのが凄い好きで……」

「わかります。どんなに困難かつ死にそうでも愛する人や任務の為に身体を張れるって凄いことですよね」


 なんだ、やっぱり男だから話しがわかるのか。と感心する。

 そういう意味では、今日初めて聖五と一緒に来てよかったと感じた。


「それで、いつ見たんですか?」


 俺は何気なく聞くと、聖五はニッコリと微笑んで答える。


「昨日見たんです。秋桜様が見たい映画を、一緒に楽しく見る為に、秋桜様の性格や趣味の傾向を分析して、見そうだと思ったものは一通り」

「え」


 それって寝ないで、この時間の為に映画見てたってこと!?


 この聖五って男は、本当に何でもするんだな……と心底思った。

 そして、俺達は映画館へと入る。


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