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攻略チーム完成みたいです。②

 夕食の時間になり、源蔵とも話した食堂で、爺やと聖五を始め、この家の使用人のほとんどが集められた。


「さっきは取り乱してすまない。これからは、私のことをフィロちゃんと愛称を込めて呼んでくれ」

「は、はぁ……」


 上機嫌に用意された食事を貪るフィロ。昌子という名前は気に入ってないのだろうか。

 まぁ、名前からしてお婆ちゃんみたいだから、嫌なのだろう。

 それはさておき。


「一体使用人の人を集めて何を話すつもりなんですか?」

「ああ、そうだった。さっきのプロジェクト・Dは、来る途中に思いついた話でな。まだメンバーは私しかおらんのだ」

「はぁ……」


 思いつきで行動してたのか。それはそれで本当に大丈夫なのか不安になってくるんだが……。

 子供みたいに口に食事を頬張りながらフィロは言った。


「ここに来たのは、まず君を見る為だ。何しろ私の初の娘だからな。だが状況はよろしくない。君が死んだのは3月中旬。神とやらの話によれば一ヶ月内に運命の相手候補とキスしなければならない。その期限まで実は時間はそう残されていないのだ」

「え、それって死んだ直後からカウントされてるんですか!?」

「そうみたいだ」


 モグモグと食べ続けながらフィロは真剣な顔をしている。

 てっきり俺は、4月からだと思っていたんだが、そうではないみたいだ。

 なら、こんなに悠長なことしてる場合じゃなの筈。


「4月の中旬なんてすぐじゃないですか!」

「ああ、今は4月7日。中旬とは恐らく15日前後を示している。ということは、15日以内にキスをしないと死ぬ」


 そんな急な話……。

 俺は見落としていた。

 さっき、六月とキスをしていれば、俺はこんなに愕然としなかった筈だ。


「だが、安心しろ。さっき聞いたが、もう既に運命の相手候補とコンタクトを取っていたみたいだしな。案ずるな、そこのカス男よりは信頼してほしい」

「そんなこと言ったって……」


 フィロは口の中のものを飲み込み、近くにあったワインを飲み干した。


「大丈夫だ。もう既に赤根六月の行動は知れている。14日に、一度実家に帰ってくるそうだ。そこを見計らって我々プロジェクトの人間は調整をかける。だがアポを取るのは君自身だ。14日の朝に偶然を装って彼女とのデートの約束を取り付けろ。これはお願いではない、命令だ」


 つまり、14日に帰ってくる六月に偶然会って、デートするんだろ?

 無茶苦茶するなぁ……。


「そこでだ、まず偶然再会するにしても、今の君のコミュ力では、正直毛が生えた程度だ。しかし、今から選定する者とデートを重ね、コミュ力と共に、デートスキルも高めてほしい」

「つまり、訓練しろと?」

「そうだ」


 デートの訓練って言ったって、何をすればいいんだが。

 まぁ、初対面の相手を用意してくれるのならば、願ったり叶ったりで、上手くやれるとは思う。

 そこそこいい考えではあるかもしれない。


「あ、ちなみにデートするのは、私が決めた。そこの男だ」

「え、私ですか!?」


 フィロが名指ししたのは、執事、聖五だった。


「えええええ!?」

「おっしゃぁぁぁぁあッ!」


 驚く俺と反対に歓喜の声を上げる聖五。ほんと、どさくさに紛れて何されるかわかったもんじゃない。


「今後のことを考えての相手だ。私も君に変態とデートをさせるのは忍びないのだが、奴は変態としては完ストしている。今後の運命の相手次第では、奴のようなレベルを相手にすることもあるかもしれないための、選定だ」

「昌子様、褒めるのか貶すのか、どっちかにしてください」


 聖五は真顔で詰めるが、フィロは相手にしていない様子だ。


「彼は、プロジェクト・Dの一員でもある」

「え、そうなんですか?」

「ああ、今言ったからな。ついでに他のメンバーも紹介しよう」


 その言葉と共に一歩前に出てきたコック。


「いつも私の作った食事を綺麗に食べていただき、ありがとうございます!私の名は末坂宏。見ての通り中年ですが、恋愛ゲーム、いや、実際の恋愛経験も豊富なので、安心してください」


 今、恋愛ゲームとか言ってたけど、実際の恋愛経験ゼロとかはないよね?


 次に割と地味なメイドが前に出た。

 彼女は掃除や洗濯などの家事を主にやっているメイドさんの一人だ。

 黒くて長い髪が特徴的で、綺麗な女の人。全身がスレンダーだから、余計そう思うのかもしれない。


「私のことはご存知ですよね、秋桜様」

「ええ、いつも、家事をしてくれて、ありがとう」

「いえ、お気になさらず」


 性格も優しく、お姉さんみたいな雰囲気もあるから、俺はこの人結構接しやすくて良い人だなという印象だ。


「この世の男も女も全部クズです。どうして私みたいな綺麗な30代後半を、そのままにして生きているのかが不思議で仕方ありません。あ、もちろんフィロ様や秋桜様は別ですよ? 女は集まれば旦那の愚痴、彼氏の愚痴! そんなの聞かされる身にもなってほしいですよね? テメェらみたいな豚野郎にいるだけマシなんだよッ! っていつも思ってしまうんです。男に至っては、テメェら結局ヤリモクなんだろ? 腐れチ●ポがッ! て思ってます。あ、安心してください。私、こう見えても恋愛経験豊富ですからね」


 あ、この人関わっちゃマズイ人なんだって一瞬でわかった。


 次に出てきたのは、初めて会う人だ。

 スキンヘッドに眼鏡の、細い研究者みたいな人。


「初めまして。私は初めましてではないのですが、秋桜様は初めましてですね」

「ええ、まぁ」


 回りくどいな……。


「私、いつもお嬢様の健康チェックをしている栄養士でございます。今後は精神の方もおかしくならないように、チェックし、サポートしますので、よろしくお願いします。ひひひひ」


 あ、この人、犯罪者なんじゃない?


「そして、私と聖五の五人で君のサポートをする。これがプロジェクト・Dのメンバーだ。明日は幸いにも日曜日だ。聖五との買い物デートを楽しんでもらいたい」

「ふふ、楽しみですね、お嬢様」

「ぜんっぜん楽しみじゃないんですが」


 こいつと二人っきりとはもう、終わってるとしか思えないんだけど。

 大丈夫か? ラブホテルとかに連れ込まれないか心配だわ。


「最終的な目標を決めよう」


 フィロは両手を合わせ、俺と聖五二人を順番に見つめる。


「そうだな、それは後で知らせるとしよう」

「今じゃないんですか!?」

「二人に言ってはつまらないだろうしな」


 上機嫌になったフィロはそのまま、食堂を後にした。

 俺も食事を摂り、自分の部屋に戻ってくる。


 今日も今日で、多くのことがあった。


 六月に再会し、昌子もといフィロと出会う。

 俺の命は何もしなければ15日で終わりを迎えるかもしれない。

 だが、14日に運命の人候補である六月が実家に戻るタイミングを見計らって、俺は六月をデートに誘う。

 そのデートを上手くいかせる為にも、フィロの考案したプロジェクト・Dを稼働させるにあたり、更に俺のコミュ力を上げる為にも、聖五とデートする。


 大変なことになったな……。


 ベッドでゴロゴロしていると、部屋を叩く音が聞こえる。


「どうぞ」


 すると、扉が開き、聖五が入ってきた。

 聖五は執事の服装ではなく、パジャマだ。


「どうしたんだよ」

「いえ、お嬢様の様子が気になりまして」

「どういう意味でだ? 俺がお前とデートするからどんな心境かってことか? それとも何もしなければ死んじゃうからか?」


 何も言わず、聖五は俺の前にまで近づいてくる。


「……私は24歳という若い年齢ではあります。ですが、両親はいません」

「え?」

「兄弟もいません。私が丁度高校生の頃、両親は交通事故で亡くなり、私は天涯孤独の身となりました。当時は荒れていたもので、多くの友人を傷つけ、時には恋人も傷つけました」


 聖五は真剣な面持ちで続けた。


「ですが、ある人と出会い、それは変わりました。その方は、俺が面倒を見てやるっと言ってくれたのです。それから、私は高校を中退し、その人の元で働きました。そう、源蔵様の元で」

「……そうだったのか」


 普段の変態聖五からは想像もつかない。

 親も兄妹もいない聖五は今、どうしてこう笑っていられるのだろう。俺はそう思った。


「私は、源蔵様にも昌子様にも叱られながら、この執事という仕事をこなしてきました。初めはつらかったんですが、源蔵様も口や態度ではあんなに冷たい昌子様も、本当はとても優しくて、俺に言ったのです」


 一度言葉を切り、聖五は瞳を閉じる。


「皆、家族だって。お嬢様も両親に会えなくて辛いこともあるでしょう。ですが、私達は家族です。何も気に留めることはありません。だからどうか、悩むようなことがあれば、私だけでなく、誰でも良いので、誰かには相談してくださいね」

「……ああ」


 聖五は、失礼しました。と言って部屋を出ていった。

 確かに、最初は辛かったさ。

 だけど、皆俺を、本当にここに生まれてきたお嬢様みたいに扱ってくれて、だけど、壁はなくて。

 心が温かかった。一人じゃないと感じたし、そう思うことはなかったのだ。

 きっと、みんながみんな、俺の為に接してくれたからだろう。


 自分の両親のことが気にはなる。だけど、今時間がない中で気にしても仕方のないことだ。


「さて、今日は寝るか」


 改めて布団に入ろうとした。

 だが、さっきはいなかった筈の何かがそこにいることに気が付く。


「うわぁぁぁぁッ!」

「…………バレタか」

「ってフィロさん!?」


 布団の中にいつの間にか、フィロがいた。

 フィロは俺の身体にいきなり抱き付いてくる。


「今夜は二人でイチャイチャしながら寝るのだ!」

「いや、ここは……」

「いいからいいから! 娘と寝るのが夢だったんだから! 可愛い可愛い私の秋桜ぅぅぅぅ」


 無駄にキスを迫ってくるフィロを、執事を呼んで追い出させてもらった。



 



「……そういえば、なんでフィロって呼ばれてるんだろうか……」

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