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俺、女になっちゃったみたいです。③

 鷹峰さんが自己紹介を終えた頃に、入学式の準備ができ、俺らは参加し、再びクラスに戻ってきた。

 生徒たちは知り合いの友人と話していた。

 鷹峰さんは誰とも話さず、ただ一人手帳を眺めていた。

 偶然にも苗字順だったからか、俺の隣の席は鷹峰さんだった。

 なんて声をかければいいのかもわからず、俺は鷹峰さんを見ては違う方を見て、鷹峰さんを見てはっていうのを繰り返していた。


「……あの、私の顔に何か……?」

「いえ、なんでもないですよ。ただ、綺麗な方だと思いまして……」

「え? 何言ってるんですか! えーっと」

「一ノ宮 秋桜と申します。よろしければ秋桜とお呼びください」

「はい……。いや、秋桜さんの方が絶対可愛いっ!」


 鷹峰さんは大声で俺を褒める。

 悲しいかな、自分が女であると思ったら、少し緊張するけど、前ほど緊張しないんだな。


「そんなことないですよ」

「私ね、可愛いモノと人には目がないんです! だから、私と友達になってくれませんか?」


 屈託のない無邪気のない笑顔。

 しばらく、俺は見つめてしまった。この笑顔にどれだけ俺の中学校生活は癒されただろう。

 返事がなかったからか、鷹峰さんは残念な表情をする。


「……ごめんなさい、いきなり。友達になってって言うの変ですよね……」

「あ、全然大丈夫ですよ! 私も友達がいないので、よろしければ鷹峰さんに友達になっていただきたいんです!」

「ほんと!?」


 席を立ってまでして大声で言う鷹峰さん。

 クラス全員の視線は鷹峰さんに集まった。


「……えーっと、一緒に帰りませんか?」

「ええ、鷹峰さんがそうおっしゃるのであれば、当然です」


 俺も嬉しさのあまり笑顔で話してしまう。


 入学式も恙なく終わり、生徒たちは足早に学園を後にする。

 俺も鷹峰さんと一緒に校門まで向かった。


「私ね、朝日ヶ丘っていう街に住んでて、この学校に高校から入るんだって決めてたんです」

「どうして、この学校なんですか?」

「それはですね、私、運命の相手っていう人がここにいるって夢に出てきたからなんです!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の身体は凍りついた。

 運命の人がいる……?


「夢を見た中で、運命の相手って見えたんですか?」

「運命の相手は残念ながら、夢には出てこなかったけど、でも、ここに必ずいるって夢の中の神様に言われたんですよね。あ、変な人だと思いましたか?」

「変な人だとは思っていませんよ」


 神経質なのか、俺は自分の置かれている状況を思い出した。


 それは、俺が運命の相手を見つけないと一年以内に一ノ宮家は崩壊し、そして、一ヶ月以内に運命の相手として挙げられた12人のうち誰かとキスをしないと死んでしまう――――。


 その候補が誰かも俺には伝えられていない。

 だが、キスをすればハートが見えるとのこと。


「……鷹峰さんは、キスとかしたことありますか?」


 俺は気が付いたら、その言葉を話していた。


「……き、キスですか……」

「あ、いいんです! それはプライベートなことですからね!」


 焦って顔を横に振る。

 だが、鷹峰さんの顔はやや赤くなり、考えている。

 え、したことあるの!? 

 俺がこれだけ緊張しているのは、どこかで鷹峰さんを好きだからかもしれない。いや、好きなんだろう。

 こうして、誰としたのかもわからないキスで顔を赤くさせている時点で俺の心は深海のようにブルー、むしろ真っ暗だ。


「私の妹とかならあるんだけど……それも変かな?」

「全然変じゃないですよ!」


 内心かなりほっとしてしまった。

 やはり、自分が可愛いと思うが、鷹峰さんには敵わないなと思った。


「じゃあ、秋桜さんはあるんですか? キス」

「キスはないですよ」

「なら、好きな人はいるんですね」


 フフフと笑いながら俺を試すように見つめてくる鷹峰さん。その微笑みはまるで、悪さをした子供を見つけたかのような表情だった。


「どういうことですか?」

「だって、キスはないってことは、好きな人がいるってことだと思ったんです」

「……そうなんですね、ふふ」


 鷹峰さんはこういう駆け引きが上手いのだなと思うと同時に、今自分が秘めている想いを見透かされているみたいで、落ち着いた筈の心臓が鼓動を強く響かせる。


「そういう鷹峰さんは運命の人を探してるって言ってましたけど、好きな人いたことないんですか?」

「……好きな人、ね……」


 鷹峰さんは空を見上げ、そう呟いた。


「…….嘘だったの」

「何がですか?」

「運命の人探し。本当は、両親に進められてここに来たの」

「では、夢の話は?」

「それは嘘じゃないの。それは本当に数日前とかに見た夢なの」


 暗い表情をして鷹峰さんは視線を落とした。


「私……」


 鷹峰さんは、ゆっくりと顔を上げ、俺に視線を送る。

 宝石のガーネットのような瞳から、一滴、また一滴と涙が流れ星のように落ちていく。


「好きな人、殺しちゃったの……」

「……え……」

「凄い好きな人がいたの……。友達想いの優しい人」

「…………」

「私ね、その人に中学校最後の日に告白しようとしたの。そしたら、暴走したバイクに突っ込まれて、彼、即死だったみたいで……」


 そこまで言うと、鷹峰さんは泣き崩れた。

 俺は、君は殺してない、俺はここにいるよって言いたかったけど、何も言えず、彼女を慰めることしかできなかった。


「……ありがと。秋桜さん。途中で言葉砕けちゃったね」

「いいんですよ。友達なんですから」

「秋桜さんも砕けていいんだよ?」

「私は癖のようなものですから」

「そうだね、楽な方が良いよね」


 最後は笑った顔をしたけれど、鷹峰さんの暗い表情が消えることはなかった。




 ◇




 家に到着すると、聖五が待っていた。


「おかえりなさいませ、お嬢様。お風呂になさいますか? それともお食事になさいますか? それとも……」

「アンタとは絶対言わないぞ」

「お嬢様も難しい年頃ですね」

「……本気でそれ言おうとしたの!?」

「ええ、私は三度の飯よりも、秋桜様を見ている方がいいですから。そう、例えばピンヒールで踏んでもらうとか」

「願望入れるな」


 俺は自分の部屋に戻り、制服を脱いで部屋着に着替える。

 制服はあとで爺やに渡す。あの聖五とかいう変態に渡したらどうなるかわからんからな。

 自分のベッドにダイブし、鷹峰さんのことを思い出していた。


 卒業式のとき、彼女は本気で俺に告白をしようとしてくれていたのだ。

 だが、その途中で俺は暴走したバイクに突っ込まれ死ぬ……。

 そして、何日かした後、夢で運命の人が現れる……と。

 

 もしや、運命の人なんじゃないか、と思えてくるが、それはどうかもわからない。

 実際候補がどんな人物なのかも俺には知らされていないわけだし……。


「そうか、候補の人間全員見せてもらえばいいのか!」


 俺はすぐに聖五の元へと向かった。

 聖五は俺の革靴を磨いているところだった。


「あのさ」

「はい、なんでしょうか」

「最初運命の人候補がどうのとか言ってたけど、その人教えてくれないか?」

「運命の人候補ですね。わかりました」


 内ポケットから一枚の写真を取り出し、俺に渡してきた。


「これは……」

「それは神から告げられた運命の人となる候補でございます」

「他にはないのか?」

「ありません。どうやら神はまず、あなたを試したいのか、12人中1人しか挙げていません。実際に麗修学園には複数人いると神は仰られていたので、あの高校に通うことにはなったのですが、まずはその人と仲良くなるところからですね。この人の情報も既に掴めております」

「情報がつかめてるって? コイツは俺の幼馴染だ!」

「左様でしたか」


 全く白々しい。全てわかった上で、話してるのが丸見えだ。


 平凡だからか、俺にも幼馴染というのは存在している。

 名前は筑紫(つくし) 六月(むつき)

 赤毛が特徴のポニーテールの一個年上の女だ。特徴としては胸が大きく、多くの男共を魅了していた。だが、それも中学時代までの話。六月は得意のテニスで強豪校の推薦があり、朝日ヶ丘を離れ、一人暮らしをしている。

 会えば背中を叩かれる、蹴られるで、DV女なわけだが、それが運命の相手候補って言われると、複雑な気分である。


 入学式は金曜日だった為、翌日は土曜日だ。

 俺は聖五と爺や三人で車で、六月のいる場所まで向かった。

 六月の住む街は、朝日ヶ丘から片道二時間ほどかかる隣の隣の街。

 車に乗っている間も随分と時間が長く感じた。


「さて、到着しましたが」

「なんでしょうか」


 聖五は不満なのか声音が低い。


「ここで合ってるんでしょうか」

「ああ、合ってるよ。つか、うちの調査でわかったところだろ?」

「そうですが、我々のシステムもおかしくなったのかと思いまして」


 目の前に広がるのは、六月の学校、ではなく、六月の住んでいる寮だ。

 途轍もなくボロボロ。馬小屋の方がまだ綺麗なんじゃないかと思えるほどだ。

 ここで、待っていても仕方があるまい。俺はドアの扉を開けようとした。が、開かない。


「聖五、汚いからって外に出さず、車のドアを開けないのは監禁と一緒じゃないか?」

「見ましたか? あの寮から出てきた丸刈りの気持ち悪い男達を……泥だらけだし、変なバット持ってるし、気分が不快になってくるんですよね」


 それ、全国の野球ファンが聞いたら激怒すると思うんだが。


「別に平気だよ。俺だって元々あんな奴らと付き合ってきたようなもんなんだからさ」

「なりません。万が一奴の吐く空気をお嬢様が吸ったとなれば、連中を火あぶりにした挙句、上空三千メートルから突き落とさなければなりません。いや、最低それくらいは私がします」

「もうどうでもいいから、扉開けてくれないか?」

「ちなみに、ドアロックをしているのは私ではなく、爺やの方です」


 え? なんでドア開けないの?

 聖五が開けないのは変態的理由もあるけど……。

 爺やはニッコリと笑って口を開いた。


「お嬢様、私もね、聖五君と同じ意見です」

「なんじゃそりゃ!」


 爺やも同じ考えって、二人とも過保護だろ……。

 溜息を吐いていると、ドアをノックする音が響いた。

 パワーウィンドゥを下げると、そこには汗だくの女――――六月が立っていた。



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