勇者対元勇者
(私の名前は片桐結愛
当校途中に突然あの人…えっとアビス様だっけ?にこっちに連れてこさせられて…
こっちに来た瞬間「勇者様ッ!」って…
…しかもいきなり「世界を救ってくれるのですか!」って…
私はこの世界には関係無いんだけど…勇者だから…当たり前だよね。
それで今度は邪神の遣いか…同じ日本人と戦うのは嫌だけど私は勇者だから…仕方ないよね。)
そして少女は森の中へと歩みを進める。
元勇者のいる獣人の国を目指して。
「練殿ッ!」
(またお前かよッ!?そろそろ引っ越ししてやろうかな?)
寝たフリをしながら横目で、その人の都合など御構い無しの猫耳ジジイを見る。
そして、少しの葛藤の後。
「なんかあったのか?」
「今度は勇者が!」
「話『終わり』」
俺は知っている。
コイツの話の重要性は序盤に十割固まっている。
「お願いしますぞ!」
「はいはい了解」
「ご主人様…?彼は何をしに来たのですか?」
不思議そうな顔をしてライトがそう言った。
いや、実際はダークも不思議そうな顔をしていたかもしれない。
「多分、勇者が来たー助けてくれー!みたいな感じだろ。
はぁ…よく滅びないなここ。」
練は完全に呆れていた。
「はぁ……?」
ライトも……と思ったが、ダークも呆れていた。
どっちに呆れているのか、それは本人達にしか解らない。
『パパすごーい!』
結果、『錬金術師』という存在の理解者であるルミナだけが練を褒めた。
超常現象を理解するのが早いのはいつもこどもなのだ。
「そうだろ、パパは凄いだろー!」
これでルミナにまで呆れられていたら、多分練は精神崩壊していた。
「それじゃライト、ダーク剣に戻ってくれ」
「はい、ご主人様」
「りょーかーい!」
その元気の良い剣を片手で受け止め、腰のベルトに引っ掛ける。
そして、空いた左手でルミナの頭を撫で回した。
「それじゃルミナ待っててくれ。」
『わかったの!』
守りたい、この笑顔。
まるで太陽と見間違うような笑顔は、一瞬にしてその場の全員を和ませた。
「よし!俺以外『通すな』じゃあ、いってきます。」
『行ってらっしゃい!パパ!』
そして彼は勇者との戦いに…
身を投じれなかった。
『『痛っ!』』
「え?なんだ?どうした?ライト、ダーク」
何故かは不明だが、ベルトに違和感を感じた。
ダークとライトが謎の空間に引っ張られていた。
『分かりません!何か結界のようなものが!』
『そっちに行けないよー!』
剣がガチャガチャ揺れる。
なんとか通過しようとする努力の結果だろう。
「…2人は『通せ』」
まるで、さっきの現象が全てパントマイムだったように剣があっさりと通過した。
『あれ?急に通れる様に』
『あれー?なんでー?』
扉の向こうで、ルミナが首を傾けながら手を振り続けていた。
なんとも言えない気持ちになった。
「…本当にごめん……あの…その…行ってもよろしいでしょうか?」
『はい、ご主人様。』
『いいよお兄ちゃん!』
やっぱり、世界は優しかった。
「来ましたか、邪神の遣い」
「よぅ勇者さん、待ったか?…後言っとくと俺邪神の遣いじゃないんだが……?」
練は誤解を解こうと試みたが……
「待っていません、私も来たばかりです」
どうやら難聴系主人公(重度)らしい。
耳鼻科に診てもらうか、異世界魔法で治療する事を強くオススメする。
「無視かね?俺邪神の遣いで確定なの?
というか何かデートの会話みたいだな…うっ…!?」
(なんだろうか…心に違和感が…?)
「何言ってるんですか気持ち悪い」
(グフッ!なんか心に刺さるわ…いや、そうでもない…ハッ!?)
そして、彼は気付いた。
自身がロリコンであるという事実に、幼女以外の女性に対する興味がとてつもなく失われているという事に。
「後は…無駄だと思うけど試してみるか」
「…何をするつもりですか?」
少女が剣を抜き、身構える。
錬金術に決まっているが、勿論彼女は知らない。
…そのハズだ。
「勇者よー今すぐ抵抗を『辞めて』投降しなさい、故郷の親御さんが泣いてるぞー」
そして、彼はわざとっぽく語りかけた。
言葉は剣では弾けないのだ。
「何を言ってるんですか?」
完全に呆れられている。
完全にクラスに1人はいる阿呆な男子を見る目だ。
「私の母は…ッ!………母は…ッ!!」
頭を抑え、膝をつく。
どうやら、投降しようとしている訳ではないらしい。
そしてこの原因、金子練くんは「墓穴掘った…?」とあたふたしている。
「思い…出せない!想い出が…あるはずなのに…思い出せない!」
そして遂に練は、彼女が普通ではなく、変な状態だという事を理解した。
「皆ののこともッ!うぅっ!」
「なんだ…?」
『半端に記憶があるせいで混乱しているのだ』
ここで頼りになる先輩、時空神様が登場した。
脳内に。
(クロノスさん!?こいつッ!直接脳内に!…なんかくすぐったい気がしないでもない…)
やはり、彼女も練を呆れの表情で見ている。
そして、小さな溜息を吐いてから話し始めた。
『……話を続けるぞ、奴は記憶が半端なのを洗脳によって気づけないままだった……という訳だ、お前の錬金術が効かぬのも、洗脳をかけた者によるものの妨害だろうな。』
練の脳裏に邪悪な表情をしたアビスが浮かんだ。
まるで、ね◯ね◯ね◯ねの魔女みたいだった。
(成る程、あの神さん最低だな!くたばれ!)
『…ん?これには神が関係しているのか?』
(あぁ、俺を転移させたアビスって最っ低のクソ神がな!)
この間にもそこの勇者さんは苦しんでいるのだが。
積もる話を消化する2人は全く気が付いていない。
『…アビスだと?』
(何か知ってるんだな?)
『いや、知らん』
昭和のアニメばりにずっこけた。
現在では、もう殆ど見る事の出来ない表現。
貴重だ。
(知らないのか!)
『しかし、転生や転移を司って居たのはそのアビスという者ではなく試練の女神トレイアだった筈だ』
(試練?試練のスキルくれる加護って悪戯の神じゃ…)
『悪戯の神?そんな奴は知らん』
(知らんのかい!)
これまた昭和な表現でツッコミを入れるが、神様は全く反応しない。
『兎に角、何とかして奴と術者のパスを切るのだ、そうしないと奴には貴様の錬金術が効かんだろ!』
(ありがとうございますクロノスさん可愛い!)
『か、可愛いだなんてそんなぁ…礼はいい!さっさとあの女を止めろ!』
時空神様は、チョロかった。
「了解しましたよッ!?」
髪の毛の端を綺麗に整えられた。
身をよじらなければ毛先だけじゃ済まなかっただろう。
「うぅ…大丈夫……私は……勇者だからッ!!!」
左手で頭を抑えながら剣を振り回す。
大木を一撃で伐採するような攻撃を周囲に振りまいている。
実際、小さな広場が作れそうなくらいに整備されている。
「うわっ…完全に洗脳されてるっぽいなぁ…こういうのは気絶させるに限るな!コイツを棒に『錬金』!!」
『うわぁっ!?』
『何するやめっ!』
剣だと切ってしまうので、これしか無かったのだ。
…まぁ、そこら辺の木を棍棒に変えれば良かったのだが。
『うぅ…寸胴体型になっちゃった……』
『いや、剣状態のぺらぺらよりはマシ…?』
「『当たれ!』」
まるで、ラグが発生したかのように練が目の前に現れた。
「なっ!?なぜ急にっ!」
身を捩り、躱された。
正確には服には当たっているのだが、ダメージは与えられない。
「だったら!50回『当たれ!』」
流石に同時に50回の攻撃は躱し切れず、身体に攻撃を受けてしまう。
この男。ロリコン。幼女以外には容赦せん。
※全てのロリコンがこうではありません。
彼のロリコンはフィクションです。
実際のロリコンはもっと紳士的です。
「ぐぅッ!」
「ふふふ、勇者と言えど耐えられんだろう……俺が悪者みたいじゃないか!」
実際、棒で少女を殴りまくるのは悪役である。
どうして彼にはそんな常識が欠如しているのだろう。
遠くから覗く時空神様もドン引きの表情をしていた。
「うぅ、私は…」
しかも、彼は追撃する。
ピュアな時空神様が両手で顔を覆った。
「気絶する位の攻撃に『なれ!』」
「え?ちょっm」
ゴン。
奥の方で時空神様が胸を撫で下ろした。
『う、うむ、我も少々引くやり方だったが、この女を止めることが出来た様だな』
(端から見たら女の子…を棒で殴ってる男だからな…それにしてもクロノスさんは可愛いな!)
『そ、そんなっやめてよぉ』
神にも女の子らしい所があるんだなぁ…とかいう感慨に浸る事もせず、
(見事な幼児体型で…)
時空神様のいる方を向き、自分の感想をぶつける。
どうやら、遠くから覗いていたのは既にバレていたようだ。
『…仕方あるまい転生して10年程で神になったのだからっ!』
(あらぁ?ちょっと怒った?)
『怒ってない!さっさと始めるぞ!』
どうやら、くろのすちゃんは、こういう担当らしい。
『いいか?我がパスを切っている内に洗脳を解くのだ』
「なんでそんな魔法覚えてるんですか?時空神なのに…」
明確に話し相手を見つけたので、練は普通に話し始めた。
決して、()を付けるのが面倒になった訳ではない。
『…ずっとソロで行動していたからだ』
「本当にすいません」
こういう時は、謝られると辛いのだ。
『口を動かす暇があるならさっさと準備しろっ!』
「よしっ!オッケーです!」
そもそも、喋るだけで能力が発動するので、準備なんて必要ないのだ。
『では!いくぞ!はぁっ!』
「クソ神のアビスから解放『されろ!』」
光が森を満たした。
「うぅ…此所は…私は…」
「気付いたか。」
「…邪神の使いさん、じゃなくって…………あの、私は…どうすれば…」
涙目でそう告げる少女に。
「俺にはわからん。じゃあな!」
よくもこんなセリフを吐き捨てられるものだ。
「え…?」
まるで捨てられた猫のように呆然。
何も知らない世界で放置されると、状況が理解出来なくなるのだ。
『うわぁー酷い!これは酷いよ…我もドン引きだよ…』
結局は時空神様が最寄りの街まで案内した。
内容を変更しました…と書くのがひどく面倒くさくなった
そうか、でもまた内容が変わったぞ。