異世界で気ままに余生を過ごすハズが決意を新たにした少女に力を貸すらしい
「…………何故こんな所に?」
一見冷静そうに思えるこの発言、実はレンはかなり焦っていた。
(……マズイ、こっちの世界の金子練が絶対しない態度を取ってしまった……!!!)
そう、あくまでレンはあのバカの代替品。そう自認している。よって、『らしくない行動』は慎むべきだと……当然の結論である。
「え……っと、お花を摘みに……。」
ウサは見え見えの嘘でその場を乗り切ろうとするが、別にレンはそれを咎めるつもりはなかった。むしろ、『金子練』っぽくない言動を咎められなかった事の方が重要だった。
「………………あんなことを言った手前、君が眠れなくなるのも分かる。」
だから、レンの対応は実に大人びたものだった。
「だが、体調が万全でなければ、その答えを見つけるのは難しいだろう。」
要は「気にせず寝ろ」と、そう窘めるレン。
「レン様……。」
そしてウサは理解する。目の前の『金子練』にとって、自分は守るべき子供なのだということ。
(……分かってた。)
「俺は君がそれを見つけられると信じている。」
(分かってたけど……!)
どこまで行っても子供扱いで、
(強引にお婿様として迎えた今も……。)
自分のことを『女』として見てはくれないのだ。
(それは、あまりに残酷ですわ……っ。)
それから、ウサがベッドに戻るまで────否、朝が来るまで。
「「…………。」」
2人は一切の会話をすることはなかった。
ただの一言も発することなく……否、声のひとつも漏らさないよう、ただ瞼を閉じて物思いに耽っていた。
(どうして当主になりたいか……。)
今まで、『母のため』という言葉で誤魔化してきたその理由。
(でも……そんな答え、簡単に出せるわけ……。)
窓から外を眺めながら、風に吹かれながら考える。
ポカポカと気持ちのいい陽光は、心の奥の雲間を抜けてはいかない。
そんなウサを、手招きする影がひとつ。
「あれは……。」
ウサは窓枠を飛び越え、中庭に飛び出した。
「ウサちゃん。何か悩んでいるの?」
「……スキスおば様。」
スキスは、何も言わずに新しいカップにお茶を注ぎ、向かいに座るよう促す。
「こんなことをしていていいのか。」そう迷いつつも、行き詰まっていることは事実。甘んじて椅子に腰掛ける。
「大人になっちゃったわね。昔みたいに”すきちゃま”と呼んでもいいのよ?」
「恥ずかしいのでやめてくださいまし!!」
「うふふ、恥ずかしがってるのも可愛らしいわねぇ。」
そう茶化すスキスだったが、今のスキスとウサの関係は叔母と娘ではない。当主代理とその継承者の1人だ。
「……おば様の言う通り、私は大人になったのです。
まだ未熟な私に寛大な慈悲を頂いて……その上そんな呼び方をなんて、到底できませんわ。」
「あら、寛大な慈悲だなんて。貴女と”レイちゃん”を両方当主に推薦したのは、他でもない私の我儘なのよ?」
「それでも……私は……。」
そう言い淀むウサ。要は”贔屓”されていると、そう感じている。自分は恵まれている。なのに簡単な出すべき答えが出せない。
──────劣等感。
あんなにしっかりしているレイこそ、当主になるべきで。
ボヤっとした理由すらない自分の我儘で、それを邪魔しているようで。
しかも、それに『金子練』まで巻き込んでしまう始末。
(あぁ、あまりに────醜い、醜い心。信念のない薄っぺらな、ワガママな私……。)
醜く当主の座にしがみつき、意地を張り、練をこんなところに束縛して。
それでも、自分を甘やかす事を辞められないのか。
(嫌い、嫌い!だいっきらい!!)
「……ウサちゃん。」
カップを持つ手が震える。悪夢から目覚めた後味の悪いあの感覚。そんなウサにスキスはひとつ問いかけた。
「お母さんは大好き?」
「えぇ……えぇ!大好きです!」
「それはなんで?」
「なん…………それは。」
言い淀む。好きな理由、なんて────
「ひとつに決めきれない?」
ウサは頷く。その思い出は有限だけど、まるで無限のように際限なく湧き出る。その全てが好きだった。
「……当然よ。私の偉大で可憐で完璧で最強で、最愛のお姉様なのだから。」
そして、もったいぶってスキスは言う。
「……ウサちゃん。人の想いはね、ひとつにしなくていいのよ。」
「自分の心の中で沢山迷って、出口が見えない事があるかもしれない。答えが分からないかもしれない。」
「なら、全て抱えなさい。ひとつ残らず、全てを自分の正解にしてしまいなさい。」
それは、なんて欲張りな答えなのだろうか。
「そんなの……不義理です。私を信じてくれる人達に、なんと言えばいいのですか?!」
「全て言葉にすればいいのよ。」
そう簡単にスキスは言ってのける。
呆気にとられたウサを置き去りにして。
「着飾らなくていい。気取らなくていい。だって貴女を信じてくれる人は、きっと貴女の本当を好きになったんだから。」
そう、その心の奥すらも見透かすようにして、そう言った。
「本当に、いいのでしょうか。私、嫌われないでしょうか。」
「その方は、そんなに見る目がない方なのかしら?」
「いいえっ!!……でも。」
「ならぶつかってらっしゃい。互いを信じることが家族が円満でいる秘訣よ?」
「かぞ……っ!!おば様!!!何か勘違いをしていらっしゃいますわよ?!!」
「そうかしら?だってウサちゃん、乙女の顔をしていたわよ?」
実際、先程の暗い顔はどこへやら。頬を紅く染めてモジモジとする様は実に恋する乙女。
「へっ?!……ち、違います!違いますのっ!!」
まるで誤魔化すようにグイとカップの中身を飲み干し、ウサは椅子から立ち上がる。
「ありがとうございます。おば様。でも!私とレン様はそういう関係ではございませんわ!!
……今はまだ……い、いえ!!失礼いたしますっ!!」
そしてそのまま嵐のように駆けていく。それはもちろん愛する『彼』の元であり……それは同時に、まるで自分の庇護下から、どんどん遠ざかってしまうような感覚をスキスに抱かせた。
「……うふふ。あぁ、憎たらしい殿方。私たちのウサちゃんを自分のモノにしちゃうなんて。」
「幸せにしないと絶対に許しませんわよ。 」
レンの背筋がゾクリと冷えたその直後、
「──────レン様!!」
バタンと、扉が開かれる。
「……見つかったか。答えが。」
その吹っ切れたようなウサの表情を見て、レンは確信する。
その期待に応えるようにして、
「えぇ!心して聞いて下さいまし!」
稚拙で、純粋で、飾らない。そんなウサの思いが、レンにひとつひとつ伝えられていく。
いつも読んでくれてありがとうございます!!
次の話を投稿する時に、話の順番を変えていきます。
(具体的には海番外→レン番外の順になるように)
ちょっと混乱するかもしれませんがご了承ください!




