海っぽいな
前回のあらすじ!
ル ミ ナ が 危 な い 。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!???!!!!ダーク!!ライト!!『共進化形態』だ!!!!」
共進化形態。練の体内にダークとライトが入り込み、練の動きを内部からアシストする状態である。
「「うわあああっっ!!水着のお披露目がぁぁぁぁぁ──────っっっ!!!!!!」」
今の状態でそんな事をすればどうなるか、聡明な読者の方々でも……いや〜流石に分からないでしょ。
「…………えっと……練くん?」
正解は、練が女性用競泳水着の上からメイド服を着るでした。あはは。
「何も言うな……何も……!!」
そんな哀しみを堪えつつ、練はダークとライトをサーフボードとして顕現させる。
「大体のルミナの位置は分かる!!追いかけるぞ!!」
サラッと怖いこと言うなや。お前怖いねん。
「……そうだよね。もし、ルミナちゃんが外洋まで出たら追いつくのは難しい。それに、途中でルミナちゃんが疲れちゃったら溺れちゃう。」
スーパー元気っ子のルミナが疲れて溺れる姿は想像できないが、1度外洋まで出てしまったら捕まえることは難しいことは想像できる。
そしてようやく季は、その重い腰を上げて日陰から脱し、そのギラつく太陽の下にその身を晒す。
「練くん!私も微力ながら手伝うよ!」
バダダダダダという、まるで機関銃のような音と共に季は、サーフボードを使って先行していた練に追いついた。
「えっ?……海の上をサラッと走ってるのはもういいか。微力というか過剰戦力なんだけど……まぁいか!!頼りにするぜ!!」
「うん!!じゃあ、私は練くんの位置を頼りに潜水してルミナちゃんごと海を打ち上げるから、練くんはルミナちゃんを上手くキャッチして!!」
ルミナちゃんごと海を打ち上げる。
意味不明な単語の羅列だったので、とりあえず練はその意味を確認した。
「………………??とりあえず合図出して、ルミナが出てきたらキャッチすればいいんだな?!」
「そういうこと!じゃあまた後で!!」
そう言い残して、季は少し跳び上がったかと思えば即時に潜水する。
「…………綺麗な飛び込み。じゃなくて!季ちゃんの息が苦しくなる前にルミナと合流するぞ!!」
ボードにうつ伏せになり、バタフライのように両腕で波を掻き分け、ボードを更に加速させる。
恐ろしい事に、別にルミナは練から逃げようと試みている訳ではない。ただ、初めての海ではしゃいでいるだけだ。それでも、練はその速度に追いつくのに必死だった。
「────よし、水平距離10m。そろそろ季ちゃんに合図をだすぞ。」
よって、練が合図を出せるのは一瞬。
「眩く照らせ────『フラッシュ』!」
その光は、真夏の太陽よりもより眩く、海の底までもを照らし尽くす。その光は合図になるだけでなく、副次的に別の効果をもたらす。
(……練くんの光────見つけた!)
練の放った光を背に受けてその魚影────否、龍影が映し出される。
季は、先程のルミナの位置と、ルミナの泳ぎから生まれる海流の音から実際の音を推理し、一瞬のうちにその真下へと陣取る。くるりと、クイックターンの要領で海底に足を付け、そのまま────
──────────ッッッッッッッッッッッッッッドッッッッッッッゴッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ハアッ!!???」
まるで時限式の噴水が一気に吹き出したかのように、巨大な水柱が舞い上がる。
「のあああああああ〜〜〜っっ!!!!!」
「………………マジか!!!」
確かに有言実行。だが非現実的なその光景。
その海と呼ばれていた塩水達は、まるでそこだけ重力が逆さになってしまったかのように、天へと登っていく。
「なんか、夏って感じ?」
こんな夏があってたまるか。
そんな軽口を叩きながらも、練は季の作戦を遂行する。
天へと登る海流に対してサーフボードを突き刺し、その勢いに自分も乗じて空へ打ち上がる。そして、突然海中から打ち上げられ、動揺していたルミナをその両腕の内に収める。
「ったく、はしゃぎすぎだぜ?」
「パパ〜!!!」
いいアクションと雰囲気だったが、練が着ている女性用競泳水着とメイド服のせいで全部台無し。まぁこれも夏か……?
「練く〜ん!ルミナちゃ〜ん!」
そんな2人が着地したと同時、下の方──つまり海底から声が響いてきた。
「上手くいったみたいだね!」
チャッチャッチャッ、と小気味のいい音を立てながら、季が穴から飛び出てきた。
「まぁ、概ね季ちゃんのお陰だけどな。」
確かに今のは季と練の連携技だったが、正直練が必要だったかといえば微妙だ。
「時空魔法で筒を作って、それに沿って水を押し出しただけだよ〜。じゃないと津波が起きちゃうし、何よりフルパワーで殴ったら海が蒸発しちゃうよ〜!」
……必要だったかも……?
「…………なにそれこわ。」
サラッと海を消す(物理)なんて口走るのは流石だ。
「……ま、いいや。折角だ!ルミナ、抱っこは終わり!次はおんぶしよう!」
「はーい!」
「うおっ!?」
瞬間、両手に衝撃。ルミナが身体を逸らし、その反動で跳び上がったのだ。その勢いのままルミナは空中で一回転。
「がだぁッ!?」
両のふくらはぎを練の肩へと叩きつける。おんぶ完成。
「……パパ、痛かった?……ごめんね?」
正直、全然痛くはなかった。むしろびっくりしただけだった。その柔らかさに。
「ふ……ふふ……余裕で無事だね!!!」
「パパすごーい!!」
そう、今ルミナがバシバシ頭を叩いているが、そっちの方が全然痛い。
「ふははははは!!!!」
でも痛いのも娘の成長だと思うと、悪くはないなと思えてしまう。
(これが父親か。)
「もう、練くんったら。」
「んー、ところで両手が寂しくなったな。」
そして、白々しく練は両手を広げる。
「季ちゃん。折角だし乗ってく?」
「……えっ?」
「むぅぅぅぅっっ!!ず〜る〜い〜の〜っっ!!!!ルミナも!ルミナもお姫様だっこがいい!!!」
バシバシと、より強く練の頭が叩かれる。
きっとそのうちハゲるだろう。
「さっきしただろ〜?それともおんぶは嫌いになった?」
平手打ちの威力に若干涙目になりながら練がそう窘める。
「違うけど……でもでも〜!!……パパのばかっ。」
ぷいっと、ルミナがそっぽを向く。ようやく平手打ちが止んで練は安堵の溜め息と共に、
「あらら、嫌われちゃった。」
そう自嘲気味に笑う。
「…………。」
そんな2人を放心状態で眺めていた季に練が声を掛ける。
「それでさ、季ちゃん。」
「ひゃいっ!!」
不意打ちを受けた季の身体は一瞬で硬直し、その影響でポチャンとその身が海に呑まれる。
一瞬の静寂の後、真っ赤になった季がぷかりと浮上してきた。
「夏は、好きになった?」
そう笑いながら、練は季に手を差し出した。
「……………………。」
季は少しポカンとしていたが、すぐにニコリと微笑を浮かべ、練の手を取った。
「……ふふ。嫌いじゃ、なくなったかも。」
「じゃあ、もっと楽しんでいこうぜ────ッッッッッ!!!!」
練は、季の手を取り一気に引き上げ、その小さな身体を両手で受け止める。
ギラギラとした太陽が、水に濡れて冷えた身体をうんざりするぐらいに温める。
(……夏は嫌いだ。)
その陽光の眩しさが煩わしくて目を細める。でも。
(……でも、練くんとの海は、嫌いじゃないかも。)
その煩わしくない暖かさは、太陽のせいではなかった。
「はい到着っ!!これから夏を楽しんで行くぜぇぇぇぇ────ッッッッッ!!!」
そっからはもう遊びに遊んだ。サーフボードと『共進化形態』を解除し、全裸で現れたダークとライトに謝罪しながら服を返し、季がスイカ割りで砂浜ごと切り裂き、ルミナがゴムボートの動力になり、ダークとライトが砂浜で肌を焼き始め、ビーチバレーで怪我人が生まれ、練がひたすら規格外海遊びの被害に遭い続け────それはもうとんでもない数の遊びを熟した。最早全員海遊びマスターだった。
そして砂遊びの最中、ガチで住める砂の城を造ろうとしたその最中にふと、
「…………なぁ、あの太陽おかしくねぇか?」
練がそう言い始めた。
「あれだけ遊んだのにさ、なんでまだ天辺に太陽があるんだよ。」
違和感の正体は、砂の城の影だった。微動だにせず、常に影はその真下だけにあった。
「……動かない、太陽……?」
そして、その違和感を糸口にシルフィアの空間解析に光明が見える。
「そうか……!!ここには現実の時間は流れていない……!!」
その解析結果を皆が理解する前に、シルフィアは更に言葉を続ける。
「ここは現実に作られた空間じゃなかった!!言うなれば明晰夢に近い性質を持っていたんです!!通りで解析が上手くいかないはず……!!」
──その理論が理解できず、皆が軽く欠伸をし始めた頃、それは現れた。
「…………!?待て!何か……何か来る!!」
練達を連れ去ったあの渦巻きから、
「得体の知れない何かが来るッッッッッッ!!!!!!!」
その何かが、姿を現した。
いつも読んでくれてありがとうございます!!例の生き恥な練を描こうとしましたが、辞めました。キモイので。




