異世界で気ままに余生を過ごすハズが眠れる少女を起こしてしまったらしい。
遅れてごめんなさい!テストと課題に殺される!!
(……眠れませんわ。)
ウサは心の中でそう呟いた。
(このベッドのせい……?)
ずっと野宿を続けていたからこそ、逆に華美な文化の象徴たるふわりと、美しくベットメイクされたベット。それになれないのも仕方がない。
(いいえ、そうではありませんわ。)
しかし、ウサは気付いていた。眠れない理由に、己の心の蟠りに。
『その答えが出ない内は協力はできない。』
「……っ。」
チクリ、胸を刺す。ギュッと掛け布団を握り込み、体を縮こまらせる。
(私は……環境に甘えていた……甘んじていたのですね。)
『それまで俺も待たせてもらう。』
(そんな言葉に……また……甘えて……!!)
「……いっそ、諦めた方が……。」
その時、レンが突然立ち上がった。
びくり、ウサの肩が跳ねる。そのか細い一人言が、不義理な自己否定が聞き取られてしまったのかと、体が震える。
「全く、これ以上事をややこしくしないでもらえるか?」
(………………!!)
心臓の音がうるさい。平静を保てない。
(嫌……嫌!!これ以上幻滅されてしまうのは……もう……!!!)
しかし、ウサの考える最悪の状況────レンが自分に幻滅してしまうこと、その状況は訪れなかった。
(……外に……?)
レンは小さくため息混じりに呟いた後、扉の外へと足を進めていた。
「ウサを起こしたくない。外で話そう。」
そう呟く声が聞こえ、ウサは思わず声を漏らす。
「…………気付かれて、いなかった……。」
大きなため息。安堵する自分が情けない。
「まだ幻滅されていなくてよかった。」なんて、そんな弱い自分の心が、憎たらしい────と、
(……そうだ、レン様を追いかけないと。)
そう思い立ち、布団から飛び出す。
部屋の扉を恐る恐る開けたが、そこにレンは居ない。パタタと駆け出し、何かに突き動かされるようにしてレンをひたすら探す。
「レン様……レン様……。」
すると、中庭へと続く裏口で、壁越しにレン達の声が聞こえる。
「『生意気にも逆らってしまい、申し訳ありません。この身の代わりに彼女だけはどうか。』そう言えば棄権してあげますわ。」
(これは、明天宮様の……?)
言葉の内容を理解する前に、レンが女性と深夜に逢っていたという事実を前にもう、ウサは飛び出して行ってしまいたかったが────ゾッと、
「そのつまらん冗談を本気で言っているなら……今ここで叩きのめしてやる。」
それがレンから発せられる覇気だと理解する間もなく、脚が竦んでへたり込む。
それと同時に、レンが『そういう目的で2人きりになった訳ではない』と安心し、大きく息を吐き出した。
「貴方はやっぱり私の見込み通りの男だった。
────必ず貰うわ。貴方の人生を。」
「できるものならな。」
レンがそう吐き捨てた後、ウサはようやくレンがこちらに近付いて来ている事実に気が付く。ウサが慌ててその場を離れようと腰を上げたが、
「…………何故こんな所に?」
時すでに遅し、子鹿が震えるような中途半端な姿勢のまま、レンに発見されてしまうのだった。
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