異世界で気ままに余生を過ごすハズが何故か当主争いに巻き込まれてるんだが……
努力!努力!努力!努力!努力!努力!!!
────さて、一旦状況を整理しようか。
如何にも令嬢って感じの女と、練様大好きウォンジョ・ウサ様が言い争っていたら、明神宮なんたらとかいうお嬢様に割り込まれた────というのが今の状況なのだが、無茶な状況過ぎないか?
「……えっと、どなた?」
度を越して困惑したせいで、目が点になったお嬢様、ウォンジョ・ウサはその少女に上目遣いでそう問いかけた。
勿論、そうしたくて上目遣いをしている訳ではない。謎の少女のピンと伸びた背はウサよりも20センチは上、身長はおよそ180センチはあるだろうか。ヒールを履いているとはいえ、レンよりも少し高いくらいだ。上目遣いになるのも不可抗力というものだ────さて、そんな長身少女はなんと答えたのか。
「明神宮天華と申しますわ。」
……なんで同じ答えなのだろうか。
「こ、これッ……キレて……キレていいやつですの!?????」
勿論、ウサの言葉足らずもある。しかし、どういう人間かという意味の「どなた?」に対して、2度目の名前のみの自己紹介。知ってんだよ名前なんか。聴き逃したんじゃねぇよ。
「我慢だ!!ここは我慢だウサ!!」
レンはそう囁きながらウサの肩に掌を置いて制止する。
……別に名前を呼んだだけ、語尾が変になった訳じゃない。ウサギのマスコットになったとかじゃない。
「れ、レン様……はい、ここは我慢、ですわね。」
レンの制止が効き、ウサは1度深呼吸。呼吸を整えてから改めて、その明神宮天華とやらに問い掛ける。
「コホン……貴女、初めて見る方ですわね。なぜ、何の目的で私の前に現れたのか、話して頂きましょう!!」
「当然、上に立つ者として────」
そう何かを言いかけたその瞬間、
「────ちょっと!話が違いますわよ!!」
先程ウサとバチバチに睨み合った女性が、天華の肩を掴む。
「あら、アークレイ様。」
どうやら名前はアークレイらしい。
(ウサと当主争いをしていることから考察すると、フルネームはウォンジョ・アークレイだろうか。)
「『あら』じゃなくってよ!!」
──と、まるでアークレイの行動を全く無視するような素振りで返事をした天華の姿に、アークレイが眉をひそめながら天華を叱りつける。
「継承権があるのは私!!あなたはその婿としての参戦しか許されていないハズですわ!!」
女性なのに婿?読者の皆様の中には違和感を覚えた方も居るのではないだろうか。この世界では求婚側を婿と呼ぶ。これがスタンダードなのだ。
さて、そんなお叱りを受けた自由奔放な婿様だったが、クスリと笑いながら、
「ふふふ、ではこの選定に勝ってから改めて……貴女を屈服させてあげますわ。」
その挑発的なセリフをアークレイにぶつけるのだった。
「……やれるものなら、いいでしょう。」
さて、アークレイと天華の話が終わったところで、ウサがまじまじと天華を見つめて言う。
「なるほど、その方がアークレイ様の迎え婿の……。」
その所作、金髪縦ロールの巻き髪、異様なほど目立つルージュのドレス、高い身長を更に見せつけるようなハイヒール。
どこをとってもお嬢様、そんな人が何故────アークレイには悪いが、『何故この方はアークレイなんて性格の悪い女に求婚したのでしょうか。』
ウサはそう思わずにはいられなかった。
「改めて、明神宮天華と申しますわ。」
その優雅な所作に、自分自身はずっと名乗っていなかった事を思い出し、
「自己紹介が遅れましたわ。私はウォンジョ・ウサ。そして────」
「ウサの婿候補、金子練だ。」
それぞれ己が立場と共にできるだけ丁寧に名乗った。
「という事は、彼が私と戦う婿様という訳ですわね。」
天華は、レンの事を軽く観察した後、右手を差し出した。
「よろしくお願い致しますわ。」
これから戦う相手。敬意を表しての事だろうか。
「こちらこそ。」
レンはその握手を快く(ウサは嫌な顔をしていたが。)受けた。
勿論、それはただの握手に他ならなかったが────
「────運命を感じましたわ。」
「……ん?」
突然、空気が変わる。その握った掌に、天華がキスをしたからか?
「レン様、この戦いで私に負けたら私の嫁になりなさい。」
それとも、そんな馬鹿げたセリフを吐きやがったからか?
「………………なっ……?なに??あの、何の話??」
正解は両方だった。まさか握手に応じただけで求婚されると思っていなかったレンは、完全にキャラ崩壊して口を半開きのままにしている。
「天華様!?あな……貴女は私の婿でしょう?!!」
また、アークレイは目の前で別の相手に求婚を始めた婿の姿にブチギレる。ペチンと両頬に両手のひらをあてがい、無理にその首を自分に向ける。
「この世界の法律は全て記憶していますわ。誰であろうと重婚は認められています。」
────なんて真っ直ぐな瞳だろう。なんて曲がった主張だろう。
勿論、そんな主張が通るハズもなく、
「婚約相手の目の前で別の相手に求婚するなんて非常識だと言っておりますのよ!!」
常識を盾にしてアークレイは天華を責め立てる。
「当然ですわ。私はいずれ世界を統べ、この世にも明神宮家の名を轟かす存在。それが常識で語られる者なら────ただの凡夫ですわ。」
なんて、傍若無人なうつけ者だろうか。実際、アークレイはその様子に気圧されて声が出せないでいた。
「それに、」
そう続けながら、今度は逆に天華がアークレイの頬に触れ、捕食者の様な笑みを向けて言う。
「貴女を屈服させる番は次でしてよ。アークレイ様。」
そんな言葉で一瞬、ドキリと跳ねた心臓が憎たらしい。そんな心と紅潮した顔を隠すように、アークレイは舌打ちをし、天華に背を向ける。
「チィィィッッ…………先ずはこの戦いに勝ってからですわよ。私、貴女の実力だけは買っていますから!!」
「それは嬉しいですわね。前哨戦が楽しみですわ。」
──────前哨戦。
ウォンジョ・ウサは、この戦いに勝つ為に全てを賭けてきた。当主の座こそがウサの最大の目標だった。
それを、それがかかった戦いをただの前座だと、そう言い放ったのだ。
「お、お待ちなさい!!!」
流石のウサも、それには辛抱堪らず飛び出した。しかし、ウサと天華では体躯が違う。纏う雰囲気は子ウサギと大獅子程の大差。
「ん……?おや、ウサ様。何か私に言いたいことでも?」
敢えてウサに目線を合わせる為に、膝を曲げ、屈む姿でさえ堂に入っている。
しかし、この神聖な戦いを貶す者を、ウサは許せなかった!!!
「練様は……練様は私のものでしてよっ!!!貴女には渡しませんわ!!!」
……あれ?……えっと、そんなことはなかった!!
全然レンと結婚する方が大事だった!!
「ならば自分の価値を示すがよろしいでしょう 。気付いていますの?」
チラリと、レンを一瞥しながら、ウサの耳元で決定的な言葉を囁く。
「貴女、彼に全然見合ってませんわよ。」
「…………ッ!!」
正直、自覚していた。釣り合わないこと。横に並んだら直ぐに格が違う事が分かる。レンが隣にいるだけで安心するのは、レンが自分よりもずっと格上だからだ。
「…………そ、それは。」
だから、それは図星だった。しかし────
「そんなことはない。ウサ様は素晴らしい女性だ。」
ある一方から観れば、的外れな言葉でもあった。
顔を上げたウサを見て、レンは執事の言葉を思い出していた。
『────お嬢様は、半年程この森に篭っておりました。全ては花嫁修行のため……ではございません。
……金子様を、待っておられたのです。
────約束をした訳ではございません。何か打算があった訳ではございません。ただ、己が恋心に焦がれるがまま……1度、たった1度だけ出逢ったこの場所で待ち続けた。それだけが理由でございます。』
(そう、あのバカなんかに惚れて、バカみたいにギリギリまで待ち続けて…………俺達には勿体ない、一途で可憐な少女だ。)
だけど、そんな言葉をそのまま吐き出す訳にはいかない。噛み砕き、邪魔な心を飲み込み、ゆっくり修飾し、遂に吐き出す。
「────俺には、勿体ないくらいの、素敵な方だ。俺の婚約相手をみだりに見下すのは辞めてもらおう。」
「……!!レン様!!」
「ふぅん。なら、貴方の事は彼女に預けておきますわ。」
天華は踵を返し、アークレイの肩を抱きながら、その場を立ち去る。
「私、略奪愛の方がそそりますの。」
きっとそう言った時の顔は肉食動物の様な表情をしていたのだろう。それが容易に想像できるのだった。
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