なにはともかく
え?!投稿ひと月前……?ごめんなさい!!!
ほんの少しの不安を残しつつも────なにはともかく。
「うぉぉぉおおおお!!!勝ったぜ──ッッッ!!!!!!」
「勝ったの〜〜っ!!!!!」
間違いなく練達の、タマモ達の勝ちだった。
部屋いっぱいに並べられた料理と一緒に勝利の宴の開催だ。
練が号令をかけた瞬間に、ダーク、ライト、カオスの剣三本組は我先にと言わんばかりにご飯を食べ始めた。
…………がしかし、シルフィアと季の2人はそわそわとして遠慮がちにしていたのだった。
「「………………。」」
「あれ?どしたん?せっかく勝ったんだし、元気出してこうぜ!!!なッッ!!!!!」
クッソ雑な励ましの言葉に、2人はかなり苦笑いしつつ、
「いやぁ〜……その、喜びたいっていうのは分かるよ?うん。めっちゃ嬉しいし。」
「喜べないわけじゃないんですよ?喜びづらいというか…………」
なんて事を言う。練は煮え切らない返事に首を傾げていたが、二人の内心をなんとなく察したタマモが、
「なんじゃ?会場に不満でもあるのじゃ?」
無遠慮の塊みたいな言葉でバッサリと切り伏せる。
「…………そう。………………そうなんだ……。」
裕彩は、感情が顔に出ないタイプだが、素人目でも悲しそうだとわかるくらい悲しそうだった。
何も分かっていない様子のタマモを睨めつけつつ、二人は裕彩のフォローに回る。
「いえいえいえいえ!!!そ、そんなことないんですよ!?」
「うん!すっごく落ち着く!!こう見えてめっちゃ寛いでるよ!?」
裕彩は、感情が顔に出ないタイプだが、素人目でも満足気だと分かるくらいのドヤ顔をしていた。
「……なんじゃ?もしかして無様に負けたこいつらを気遣っているのじゃ?」
あまりのデリカシーのない無遠慮な言葉に2人は更にあたふたと、まるで図星でも付かれたかのように焦り出す。
「…………いえ?そんなことは……ねえ?」
「ももっ!もちろん!」
「ほう、無様に負けたという所は否定しないんじゃなぁ?」
違う!こいつワザと言ってやがる!季とシルフィアで遊びつつ、敗北者達を煽ってやがる!!
「「タマモちゃん!???」」
しかし、敗北者達の態度は意外なものだった。
「…………ん?」
京宮は飯を食っていて話を聞いていないし、
「あ〜気にせんでええよ。また焚擁の悪い癖が出ただけや。」
「……そうか。」
音子は完全にタマモの煽りをスルーするし、
「私には関係ないねぇ。」
佐来は敗北者じゃないから関係ないし、
「すぴー…………。」
明々は完全に寝てるし、
「……なんだ。まぁ負けたのは事実だ。そう言われて当然っつーか、それを気にしてるってんなら……なんだ?なんつったらいいかな…………。」
血の気が多そうな大駕は大人しくしているし、
「私達の事なんか気にせずはしゃぐといいわよ。負けは負けなんだから。」
ヒスりそうな来未は全然負けを認めていた。
……と、なにやら練は異変に気付いたようだ。
「……………………あれ?なんかちっちゃくなってね?」
そう、来未が小さくなっているのだ。幼いと言った方が正確か。
勿論、練がこれを見逃す訳がない。
「蛇は永遠の循環の象徴。生き返るのなんて朝飯前よ。」
ぱくぱくと口の中に料理を放り込みながらそう話す。
丸呑みしているらしく、お腹が段々と膨らんでいるのが分かる。
「……え?ウソ、死んだの?なんで??」
というのも、練は来未──タマモの友人を殺すつもりなんてなく、決着が着くまで異空間に閉じ込めておくつもりだったのだ。
「アンタに異空間に放り込まれた後、招希に眼を抜かれたかと思ったら一瞬で絞りカス。死んじゃった。」
ここでも『招希』。先にタマモから話を聞いていたが、かなりショックだった。
「…………まじかよ……。」
あの元気そうな彼女が裏切っている姿が、練には想像出来なかった。
「しかし今回は……随分ちんちくりんになってしまったみたいじゃな?」
ニヤニヤと笑ってはいるが、内心かなり心配しているのがバレバレだ。
(……ったく、伊達に仲間やってないわよ。)
「……多分命よりもっと重要なもの…………魂を奪われてるみたい。全部もって行かれる前に死んだから生き返れたけど…………多分次はないし、元の姿に成長すらできないかもしれないわね。」
「…………招希……絶対許さねぇ……!!!
……今度から糸目の奴の眼は確認するようにするか。」
「やめとけアホ。」
流石にそれは咎めるタマモ。
練が閉じてる瞼を眼科医みたいに開いて確認する姿の想像は容易。ここで咎めないと確実にやりかねんという確信がタマモにはあった。
……と、今度は来未は練の違和に気付く。
「……あら?心配してくれてるの?」
「べべべ、別に心配してねぇし!!!」
図星を突かれて慌てた結果、練は小学生みたいな否定しかできずにいた。
だがしかし、その否定は無駄になる。
「『魅了』。」
そこには秒で来未に傅き忠誠を誓う練の姿が!!!!!!!
「…………お前それマジでやってる?」
流石のタマモも語尾が取れるほどの衝撃。否、呆れ。
しかし、これが金子練なのだ。
「ダメだ。クッ!!忠誠めっちゃ誓いたい!!!!」
流石にその変わりようは、『魅了』をかけた張本人にとっても嫌悪の対象で、
「きっしょ。」
シンプルに罵倒。しかし、『魅了』の影響……いや、それがなかったとしても練にとってそれはご褒美。
「ありがとうございます!!!ありがとうございました!!!ありが」
「ぬん!!!」
流石に父親の醜態に耐え兼ねたルミナが練にアッパーカットをぶちかます。
「とゥンッッッッッッ!!!!!!」
情けない断末魔と共に天井を突き破り、星になる。
「ルミナのパパがお騒がせしてごめんなさいなの。」
そう言ってぺこりと頭を下げる。
どうやったらあの親からこんな礼儀正しい子が!?
「え……あ…………そうね。大丈夫よ、気にしてないわ。」
「……逞しい子じゃ。」
「ねぇ、あれ死んでないわよね?顔がぺっちゃんこになってるのはギャグ漫画的な表現よね!?」
「……あぁ、そうじゃな。」
「……深く考えないようにするわ。」
さて、今度は遠慮がちな2人にルミナが近寄る。
「シルフィアちゃん、季ちゃん。せっかくのパーティなのに楽しまないのは逆に失礼なの!」
「確かに、それもそうだね。」
「ルミナちゃんの言う通り、楽しみましょう!」
……なんてそんな感じで、みんなでパーティを楽しむのだった。
さてさて、そんなパーティの蚊帳の外。
『随分大胆な登場でありますな。』
巨大な狼のような獣が溜息混じりにそう呟く。
……彼も敗北者達の1人、博苗だ。
剣そのものが消滅したお陰で死ぬ事は免れたが、そのせいで元の姿に戻ることも出来なくなってしまったのだ。
「よう、博苗……だっけ?こんな所でじっとしてないで、みんなで飯でも食おうぜ。」
さて、そんな博苗に────一度は娘を殺した宿敵に話しかける。
そんな練を訝しむように博苗は呟く。
『……娘が死にかけたのに、元気そうでありますな。』
「…………はは、それを言われると辛いな。チキン持ってきたけど食べる?その図体だと足りないと思うけど。」
『……頂くであります。』
「おう、どんどん食べとけ。」
巨大な獣と上半身だけの男。数分の間シュールな絵面が無音のまま続いた。
遂に我慢比べに負けた博苗が話を切り出す。
『……貴様の娘を痛め付けたのは、すまないと思っているであります。』
よりによって触れづらい話題を。
ただ、理由はある。今を逃せば二度とその事について話さないと、そう思ったから。
「あぁ、一生許さん。なんなら今すぐぶっ殺してやりたいくらいだ。」
『……なら、何故今こうして……?』
「ルミナはそれを望まない。」
理由はそれだけで十分だった。
(あぁ、きっとこの男は、娘の為なら世界すら滅ぼしてしまうんだろうな。)
『…………親バカであります。』
「ああ、だろうよ。」
『だから、火遊びをしても放っておくのでありますか?』
「……放置せずに常に見守って、危ない時には絶対助けるってのが理想なんだけどな。
たった3年の修行じゃ、まだ足りなかった。」
数多の約束、誓い。それを果たす為に。それに報いる為に。
「それができるように強くなる。もう二度とあんな目には遭わせない。」
それは、半ば呪いだった。
『だといいのでありますが。』
「まぁ見てろよ。」
(────この世界は自由だ。だけど、自由だからこそ強くないと自由に生きられない。)
自由は誰かの理不尽の上に成り立つ────なんて皮肉だろうか。
だけど、だからこそ、その『頂点』は夢だ。ロマンだ。
「ジレンマも何もかもぶっ壊して、この世界で1番自由に生きてやる。」
皆の為、自分の為、約束の為、理由なんていくつもある。
夢も約束も呪いも全部力にして、『本当の自由』に。
『……大言壮語。身の程知らずの妄言────敗者にそれを言う資格はないか。
まぁ、せいぜい頑張るであります。』
「おう!応援よろしく〜。」
ずぽっ。練が地面に吸い込まれる。
……というより、天井から引き抜かれる。
「パパ、反省した?」
引き抜いたのはルミナだった。
「うん、超反省。」
「ならいいの!一緒にごはん食べるの!!」
「よーし!!沢山食べるぞ!!」
「ルミナも負けないの〜!!」
いつも読んでくれてありがとうございます!!!




