百鬼夜行編 #23
タマモはその墜落に抗う術を持ち合わせていなかった。いや、使い尽くしたと言うべきか。
(…………負けた。)
ここから落下したところで死にはしないだろう。だが、裕彩を止めるという目的は────
「あぁ、やっぱ神頼みなんてするもんじゃないのじゃ。」
そう呟き、懐から粗末なお守りを取り出す。
思えばなんの効力もなかったこの布切れ。
「………………なにが、お守りじゃ。大馬鹿者。」
そう嘲けてみるが、それは直ぐに自嘲に変わる。
(…………いや、大馬鹿は私か。大勢巻き込んで、変なプライド発揮して戦って、負けて、全部パァじゃ。)
落ちる。墜ちる。堕ちる。妙に永く感じる時間に、重力に抗うことなく、ずっと──────
「ごめん、ご主人様…………ごめんなさい……。」
────さて、少女は掌を天へとかざす。その上に乗っているのは、夥しい数の眼、眼、眼。
宿主を失って尚、怪しく光るその目玉達だ。
望んだハズのその光景に裕彩は顔を顰める。
(…………復活に必要な魂が……すこし足りない。)
けれど、それはなんの問題にもならない。
「なら、わたしの魂をささげる。」
もう覚悟はした。自らの眼窩に収まる『惑星眼』が共鳴する。妙な倦怠感に襲われるが、全身が激痛に苛まれるが、大したことではない。
「…………大丈夫。未練も、後悔も、些細なこと。」
『儀式』が始まる。望み通りの儀式が。
「…………焚擁………………。」
「…………わたしがしんだら、ご主人様をよろしくね。」
「────それはお断りじゃ。」
パリン。何かが割れる音だ。その音は続々と伝播していき、裕彩が弾かれるようにして吹き飛ぶ。
「…………!?焚擁…………どうしてここに……ううん……どうやって儀式を……。」
「あーそれはなぁ…………聞くか?」
──時は、少しだけ巻き戻る。
「…………こんな時、ご主人様なら、なんて言うかな。」
擦り切れてあやふやになった主人のビジョンは何も答えない。
…………ふと、手のひらにほんのりと熱を感じる。
「…………ん……?これは神の力……なにかに共鳴して…………………」
それは、金子練から渡された『お守り』。
「…………。」
嫌な予感をヒシヒシと感じながら、その中身を取り出すと────
「…………うわ、きも。」
──血が滲んだハンカチが入っていた。
「………………きもいね。それは。」
流石の裕彩もタマモに同情の視線を送っていた。
「マジでキモい。あいつ贈り物のセンス無さすぎじゃろ。でも────」
ゆっくりと後光が差し、タマモの姿が光に包まれる。
「でも、実用性は100点じゃ。」
着物にスカート、大正風の格好に身を包んだタマモがそこに現れる。
降ろす神は『終末神エンディング』────かつてこの世界を救った、破壊神だ。
「…………神の力、もうそれ1つだけなんでしょ。」
「あぁ、とっておきの1つじゃ。」
「あっそ。」
裕彩が手を伸ばすと同時、どこからともなくうさぎ達が現れる。その標的は勿論タマモだ。
(炎陣はなくなった……かみさま一人降ろしたくらいじゃ『逝飢戯』に対抗なんてできないハズ────)
────こんこんっ。狐が鳴く。
「狐火。」
タマモの手のひらから解き放たれたのは、黒い炎だった。その黒い炎は狐のような姿を形取り、ユキウサギへと喰らいつく。
「な…………?!」
裕彩の予想を裏切るように、黒い狐火はうさぎ達を喰らい尽くす。
「どうして……?『逝飢戯』は負のエネルギーの塊…………正のエネルギーとぶつかったら対消滅するはず……。」
その疑問を、タマモはたった一言で解決した。
「負のエネルギーごと『抹消』した。」
「…………!」
『終末神』の司る能力は『終わり』。あらゆる結末を操る。
故に、一撃必殺。
「私の体質にまで影響を与えてくる神なんて始めてじゃ…………きも。」
それほどまでに相性がいいのか────まぁタマモが幼女だからだろうが。
とにかく、今のタマモはその他の神とは比較にならないほど、『終末神』の力を引き出せているということ。
「だとしても……負ける訳にはいかない。」
「それはこちらも同じことじゃ。」
互いに炎を迸らせる。
「「第二ラウンド開始。」」
すみません!!めっちゃ遅れました……スランプ気味かも…………




