百鬼夜行編 #20
遅れちゃいました…………すみません!!
『季ちゃんは……ルミナが守るの!』
轟ッ!翼に煽られた風が季の髪を揺らす。
「る、ルミナちゃん!!ダメだよ!ルミナちゃんじゃあ………………」
そこまで言ったところで、季はその違和感に気付く。
(……あれ?ルミナちゃんってこんなに速かったっけ?……というか龍形態ってこんなに小さかった?)
目測でも分かるその違和感。その体長は2mほど、先ほどまでの巨体とは比べものにならないほど小さな竜、劣竜種に酷似した姿だ。
『はは!劣竜ごときが!!』
そう甘く見ていたのが運の尽きだった。
尾による攻撃に拳を合わせた瞬間、気付く。
『……我と、力が拮抗している…………?!』
拮抗は甘い見積もりだった。動転し、気を抜いた瞬間、一気に押し込まれる。
『黙って見てるだけなんか嫌!!ルミナだって、頑張るの!!』
「そうか!力の配分を大きさに割くんじゃなくてその他に割いたんだ!!」
言わば、完全に別区分。小龍種とでも言うべきその形態。
『なるほど、道理で普通の龍よりも厄介!!』
だが、まだ足りない。
『だが、それだけであります。』
突如顔面に痛みが走る。
『うぅっ!』
脚を伸ばして視界の外から顔面に攻撃を与えたのだ。ルミナにとっては慮外の一撃。
ふらり、意識を一瞬手放し首をもたげたルミナに、ギラギラと光る爪が振り上げられる。
『はは!まさにまな板の上の鯉!!このまま3枚に────』
「──させる訳ないでしょうがッッ!!!」
間一髪。その攻撃に割り込むような季の蹴りだ。
「ルミナちゃん、速攻で倒すよ!!」
『うん!!』
意識を取り戻したルミナと季の反撃。
『チィ…………鬱陶しいッ!!!』
それはまるで舞踊や演劇のようだった。とても一朝一夕、ましてや即興で組まれたとは到底思えないほど、二人の動きは同調していた。
(よし、このまま────)
このまま行けば、そう思った瞬間だった。
ガクン。
「……………………あっ。」
まるで、体から重要な歯車が抜け落ちたかのような感覚。
『時間切れであります。』
身体が熱を失い、急激に失速していく。身体から力が奪われていく。
そのまま前のめりに地面へと墜落しても、痛みを感じないほどに身体が鈍い。
(『限界突破』の時間制限……っ!?!)
『季ちゃ────』
ルミナが異変に気づいた時にはもう遅かった。
『──うぅッ!!』
その隙に攻撃を受け、変身が解けるほどに大きく吹き飛ばされる。
『戦場で敵に背を晒すとは……甘い、甘過ぎるのであります。』
完全敗北、としか言いようのない状況。そしてその代償は。
「ルミナ……ちゃん…………!!!」
何とか地を這おうとするが、今の季の身体は真夏の暑さにのたうち回る芋虫、それよりもままならない身体だ。
「うぅ…………ぐ…………ぅ…………。」
そうしている間に、ルミナはその大きな爪に捕まり、宙ぶらりんになる。
『ははは、焦らなくとも。』
頭の中で声が響く。鼓動が高鳴る。
『『『『『殺せ、殺せ、殺せ。』』』』』
後は気の赴くまま。ふわり、ルミナの身体は大きく開かれた口に向かって落下し────
『どっちもすぐに殺してやるであります。』
──ガブリ。顎で一噛み。
「…………そんな………………う…………そ………………。」
ベトリ、柔らかいものが地面に落下したような音がした。
赤い池が広がる。まるで鋭利な刃物で滅多刺しにされたかのような断面から止めどなく血が溢れ、その血が赤い池をつくる。
その中心にいるのはまるで死んださかなのような──────
「ぁ………………ぁあ………………っっ………………!!」
ドォン。天井が崩壊し、上から男がひとり降ってくる。
ちゃぷん。頬に跳ねた生暖かいなにか、やけに錆び臭いなにか、そこにいるのはなにか、今起きていることはなんなのか。
「……………………………………?」
なんだこれ。思考停止。なんだこれ。空っぽの頭は考えることを拒否する。なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ。
「…………練く…………ご……め…………。」
ふと、名前を呼ばれた事に気付き、機械的な反応で振り向く。
「……わた……し……ルミナちゃん…………守れなかった…………!!!!」
……ルミナ。ルミナ。口の中で何度か反芻し、ようやく答えに辿り着く。
それはとても正気とは思えない、狂気的なで虚しい回答。
「………………ルミナ…………?あぁ、こんなに怪我をしてかわいそうに。今助けるから。」
『ご主人様…………』
『ルミナちゃんは……もう…………』
「早く。」
『『………………!!!』』
さて、練がルミナに治療を施しているのを見て、ようやく現状を理解した男がもう一人。
『あぁ、貴様が。その娘の言っていた男か。』
合点がいったように話しかける。
しかし、
「………………ルミナ、ごめんな。来るのが遅くなって。でももう大丈夫。大丈夫だぞ。」
返答はない。彼の世界には今、ルミナしか居ないのだ。
少し苛ついた博苗は、目の前の狂人の神経を少し逆撫でしてやることにした。
『はは、死体遊びも大概に────────』
そう爪を振り上げた瞬間だった。
めきょ。博苗の顔面が勢いよく変形する。顔面に蹴りが加えられたのだ。
「デカい口だな、臭えから開くな。」
驚くべきはそれだけではない。同時に博苗の爪がボロボロに砕かれている。
(な……今のはなんだ?不可視の……攻撃?!いや、違う!魔力!!?魔力の塊で我の爪を弾いたとでも言うのでありますか?!!!)
見誤った。逆鱗に触れるべきではなかった。
「今ルミナが頑張ってお話ししてくれようとしてんじゃねえかッッッ!!!!!!!」
化物が、ようやく目を覚ます。
いつも読んでくれてありがとうございます!!夏が終わるまでには終わらせたい百鬼夜行!




