百鬼夜行編 #18
めっちゃ遅れた……ごめんなさい!!
まず先手をとったのは季だった。
さながら複雑な歯車機構に小石を投じるように、その斬撃は博苗の動き始めを阻害した。
「く…………ッ!?」
何故そんなに早く動けたのか?その答えは簡単。
今の季はさっきの全力のまま────あらゆるステータスが24倍になったままなのだ。
二の矢で博苗を蹴り飛ばし、ルミナから突き放す。
「ぐ……強ッ!!」
吹き飛びながらも姿勢を維持できている博苗に、まだまだ戦う気力のある博苗にほんの少しだけ季は動揺する。
「生憎若いのは見た目だけなんだよね。
……見た目で侮って貰っちゃこまるよ。」
「ははっ、確かに。なら我も……」
ちらり、手元の刀に目をやる。拍動している赤黒い刀。それが、博苗の腕を侵食していく。まるで植物が地面に根を張るように、じわじわと肉を掻き分け、中へ中へと侵入ってくる。
危険信号はない。あるのは少しの異物感と……全能感。
「これが見掛け倒しでないところを見せてやるであります。」
「…………さらに見掛けが強くなっただけじゃないよね?」
そう煽る季に反論するでも怒鳴るでもなく、ただ、自信たっぷりに告げる。
「はは、ならば喰らって確かめればいいであります。」
刀を振るうその瞬間、腕が変貌する。
獣のような腕に、巨人のような腕に変形する。
そのリーチとパワーのギャップ!
「────ッッッ!!!!!!」
季はただその攻撃を愚直に受け、吹っ飛ばされる他なかった。
「季ちゃん!!」
「加減はどうでありますか?」
ドゴッ!瓦礫を振り払い、ゆっくりと立ち上がる。その表情は────
「ははっ……ッ!!楽しくなって来た!!」
──まるで新しい玩具を与えられた子供のようで、博苗の神経を激しく逆撫でした。
「すぐにイヤになるでありますよ。」
苦虫を噛み潰したような表情のまま、博苗が季に接近し、打ち込む。
「パワーだけ?なら負けないけど!?」
一瞬の拮抗。しかし直後に掴まれる腕。
博苗の尾がまるでサソリの様な形に変化し、無防備な季を狙う。
「まずッ────」
『停滞』を使おうとも、腕を掴まれているため回避はできない。力で振り払えない。つまりは負け──────そのはずだった。
「──る、ルミナちゃん!?」
龍形態に『変身』したルミナが尾をその巨大な顎で咥えたことで、針は季の首筋を穿つ寸前で止まったのだった。
『やああぁぁぁぁぁ────ッッ!!!!!』
そのまま力任せに振り回し、バランスを崩した所に爪撃。
博苗は自らの不利を悟ったのか、自分の尾を刀で切断し、爪を回避した勢いのまま大きく距離を取った。
『季ちゃんにいじわるはさせないの!』
声こそ可愛らしいが、その体躯は巨龍。ガアァッ!!と咆哮するだけで地面が震えるほどだ。
しかし、博苗はまだまだ余裕の表情で、
「はは、2対1でありますか。そんなことをしようが無駄であります。」
なんてことを言ってのけるのだった。
「そうかな?やってみないとわからないと思うけど!!」
その台詞と同時、地を蹴り博苗へと突進する。
しかし、博苗の視線は季ではなくルミナへ、巨龍の口から解き放たれんとしている光へ注がれていた。
『ビ────ムッッッ!!!!!』
カッ!!閃光。即着弾、即爆破。地面を大きく抉り、周囲に砂煙を撒き起こす。
(……軽い一撃…………目くらまし!!)
その意図に気付くと同時、肉体を変質させる。
「────チキチッ!!!!」
音の反響が手に取るように分かる耳……狙っているのはエコーロケーション。視界がダメなら聴覚で敵を捉えるという考えだ。
「上ッッ!!」
反応あり、即座に刀を振るう。
「正解!!」
作戦成功。発生する剣戟。防御は問題なし。このまま押し切り────
(──いや待て…………)
ふと、そこでよぎる不安。
エコーロケーションに引っかかったのは季だけだった。ならば…………
(……ならばあのもう1人の娘は…………?!)
逃げた?そんな訳あるか。
確かにルミナの怪我の具合は酷い。合理的な考えができるなら、直情的でなければ、ここは一旦退却して、傷の治療ができる練やシルフィアと合流し、再び合流して博苗を倒すのが最も合理的だと分かるだろう。
しかし、ルミナは合理的な考えもできないし、直情的な少女だ。
何故なら子どもだから!何故なら『金子練の娘』だから!!
────ズドン!!
突然、博苗の足元の地面が消滅──否、破壊される。
「し、下ぁッッ!!???!!」
博苗は現在、季の斬撃を受け止めている最中。よって落下に対抗する手段はない。この星の重力に逆らえない。
「下はお前なのっっ!!!!」
季の斬撃を受け、落下している博苗を掴み、まるでハンマー投げのように回転させ、地面へと叩き付ける。
「ぐぅッ!?」
「まだまだァッ!!」
更に季が追撃。博苗が立ち上がるよりも先に斬撃を喰らわせる。
…………が。
(……確かに手応えはある。)
何かがおかしい。
(だけどこの違和感は────?!!)
そして遂に、物理的に有り得るはずのないその手応えの正体が顕になる。
「はは。」
ボコ、ポコ。とろみのついた液体を沸騰させたようにな音。表面のバブルが弾ける度に、不快な音を立ててそれが膨らんでいく。
「あぁ、忘れていたのであります。』
その姿は、思いつく限りの生き物を合わせたような、適切な存在といえばキメラ。しかし、そのカオスは3文字で表すには役不足。
『姿など、関係ない。ご主人はきっとどんな我でも認めてくれる。』
「それは……懐の大きいご主人様だね。」
『ん……?』
「だって君、飼うにはデカすぎるでしょ。」
確かに、体躯がドラゴン並であることは事実だった。
『はは!』
そんな挑発に易々と乗り、
「ぐッ────!??」
易々と季を吹っ飛ばしてみせる。
『不快であります。』
「季ちゃん!!!」
「あはは……私は大丈夫…………なんだけど……。」
瓦礫を掻き分け、現れた季の手に握られていたものは。
「どうしよ……剣折れちゃった!」
持ち手から先を失った『時空司剣』だった。
いつも読んでくれてありがとうございます!!




