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百鬼夜行編 #16

遅刻──────!!!!!!!

弓の弦を引き、解き放つ。そんな簡単な動作だけで数千……否、数万もの魔法の束が放たれる。


(……なるほど、あらゆる魔法をタダで使いたい放題の能力か。)


普通の人間ならば、少しくらい動揺してもいいこの場面。少し前────3000年前までの金子練なら、普通の人間以上に馬鹿みたいに騒ぎ立てていたことであろうこの場面。


「なるほど、厄介。」


過酷な修行を経た練にとっては、朝飯前だった。


「ちぃ……ッ!!当たりなさいよ!!!」


ふわりふわり。それはさながら宙を舞う羽毛の如く、ひらりひらりと紙一重。


「だが、所詮その程度だぜ。」


そのあまりにも僅かな隙間を縫い、練の蹴撃。

吹き飛ばされ、嗚咽を漏らし、地を転がる。

咳き込みながらも立ち上がる来未だが、


「知恵もなく、工夫もなく、精度も甘いッ。」


どの口が、どの口が、どの口が。過去の金子練という男の戦術を知る我々はそう口を挟んでやりたくなるが、彼は3年の修行により生まれ変わったのだ。大目に見てやって欲しい。


「あんたが…………アンタごときが…………!!!」


フラフラ、顔を抑え、足元も覚束無い様子。

しかし、この勝負を諦めた訳ではない。


「私達の何を知ってるって言うのよッッッ!!!!!!」


その抑えていた手のひらの向こうにあるもの。それはあの『眼』だった。


「…………!」


(『眼』を……併用できるのか!?)


ゾクッ、背骨を直接撫でられるほどの嫌悪。その奇妙な異物感を増した来未に、少し気圧される。


「ゔぅ…………ぁぁぁぁああああああぁぁぁぁ──────ッッッ!!!!!!」


先程よりも滅茶苦茶な弓の引き方。しかし、この弓に引き方なんて関係はない。作法も、規則も、整合性も、全部ぶっ壊すのが『惑星弓』だ。


「魔法のキレが増した……!?」


ドロン、練は忍者らしくなんども姿を消してみるが、来未はそれを見切っているのだろう、放たれた魔法は目標を見失わずに永遠に練を追尾し、


「死ねッッッッ!!!!!」


2000倍の身体強化で練に迫り、鏃を突き刺す勢いで肉薄し、矢を放つ。


「くッ!?」


脇腹に掠めるように通過した矢。練の脇腹から血が溢れる。


「次は、殺すわ。外さない。」


あぁ、なんということだ。敗北色濃厚。金子練が修行した3年間は、このまま無駄になってしまうのだろうか!?


『お兄ちゃん!大丈夫!?』


『ご主人様……今止血を!』


「あぁ、頼む。」


外骨格を形成していたダークとライトの一部をその怪我の止血に充てて、ひと息。


「…………なるほど、『忍者骨格(アサシンモデル)』とは相性が悪いか。」


口布を外し、今度は何かを頭に被るようなジェスチャーをしてみせる。


「なら、これだ。」


「グダグダ喋ってんじゃないわよ!!!」


その何かは魔女帽に、そして忍者らしいその容貌は────


「────『魔女骨格(ウィッチモデル)』。」


まさしく魔女。そこに金子練の面影はほとんどなく、ダークとライトがそのまま大人になったような美人がそこに居た。


「姿が変わったところで!!!」


そう叫んで無茶苦茶に弓を引き、無数の魔法を放つが、


「なっ…………?!そんな……魔法が……!?」


それら全ての魔法が着弾する前に消滅……いや、()()()()()


「『反対魔法(リアクション)』。」


それは一方の魔法の逆属性の魔法をぶつけ合うことで対消滅させる『技術』。だが金子練は、『共進化形態レゾナンスオーバー』による視力、演算力の向上と鍛錬によって、その技術を『技』として昇華していた。

そして、すうぅっと人差し指を向け、次。


「『グラビティ』。」


瞬間、来未の周囲の地面が円形に崩壊する。それは重力。圧倒的な重圧だ。

来未もそのあまりの重圧に屈し、地面にへばりつく。


「がぁッ!!?」


「どうだ?魔力の重圧は。」


これも、『技術』を『技』に昇華した一例。

一般的に、熟練した魔法使いほど魔力を圧縮することで、体内に多く魔力を取り込むことができる。

魔力はほんの僅かだが質量が存在するため、僅かに漏れ出る魔力の圧縮具合からその実力の一旦が圧力(プレッシャー)として伝わる。

これを魔力の重圧(ウィザーズ・レベル)と言い、100年ほど前は魔法使いの強さの指針として扱われるほどポピュラーな存在だった。

……だとすれば、人一人を、ステータス2000倍の人間一人を拘束するこの重圧は?


「この重圧……人間1人が持っていていい魔力じゃ……!!!」


もちろん、金子練の魔力総量は修行前から多少増えた程度でほとんど変わっていない。


「ん?まだ気付いてないのか。なら教えてやる。」


しかし、この重圧は、魔力は、金子練のものだけではない。


「これはお前が無駄遣いした魔法の魔力だ。」


ぶわりと翻るマントとローブ。これらはただ魔法使いを表す記号ではない。

薄く広く外骨格を延ばすことで、周囲の魔力を効率よく取り込めるようにしているのだ。


「ッ……!インチキ野郎…………ッ!!」


「無限の魔力の方がインチキ臭ぇぞ?ババア。」


左手で重圧を制しながら、右手で新たに魔法を行使する。


「──『次元跳躍(エクストラバウンス)』。」


ビッ!二本指で空を切り、魔法発動。

瞬間、ゴオオォッッ!!という音を立てて()()()()()


「く……ぅ…………ッ!!!」


重圧に縛られている来未は為す術なく、その空間の歪みに取り込まれる。


「じゃあな。脱出できるまで、その無限の魔力で試行錯誤してるといいぜ。」


金子練vs来未────勝者、金子練。


「さぁ、ルミナを探すぞ!」


ふと、空を見る。音は聞こえない。タマモは無事辿り着けたろうか。

なんて思いを根拠のなさそうな自信で吹き飛ばし、


「アイツなら、タマモなら絶対大丈夫だ。」


そう呟き下を、迷子のルミナを目指す。

いつも読んでくれてありがとうございます!!!!

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