百鬼夜行編 #15
めっちゃ遅刻しました……どうか……どうか許してください……!!!
先ずは小手調べ。瞬きの瞬間に剣の間合いにまで移動し、全治半年にする勢いで剣を振るう────がしかし、
「……!!?」
「…………重い、攻撃だな。」
その剣が片手で受け止められる。驚くべきは季の斬撃を受け止めようという気概、斬撃を受けて傷ひとつ無い外皮、そして何より────
(──まさか、私が攻撃力の押し合いに負けてる……!?)
あの季をも上回る馬鹿力だった。
「ぬぅん!!」
鈍重な斧の一撃を回避して一歩、二歩。まるで凶暴な猛獣を相手取るように、京宮から目を離さずに後ろに跳ぶ。
「……やばい、ちょっとワクワクしてきた。」
思わぬ強敵の登場に闘争本能が刺激されたのか、季の口の端に意図しない笑みが現れる。
「………………力の強い、女性だな。」
「プクククククク…………!ゴリラ女……!」
一方、こっちは普通にウケて笑っていた。
流石にその程度の事でキレる季ではないが、
「…………うーん、褒め言葉として受け取っておくね?」
それはそうと、ちょっとだけイラッとはしたので、ここで軽く憂さ晴らしをする事にした。
「────ッ!!!」
『加速』により、数倍へと上昇したスピードで何度も斬撃を放つが、京宮がダメージを受けている様子はない。
(力はあるけど、スピードはない……典型的なパワー特化タイプって感じかな。)
そもそも季の戦闘スタイルも基本は同じく、パワータイプ。突出したパワーを軸に、そのほかのパラメータを特殊能力で埋めてバランスタイプに仕立てているだけだ。
同じ戦闘タイプ、同等かそれ以上のパワー、つまりは"あいこ"だ。
「うん!戦いにくい!」
「………………褒め言葉として、受け取っておく。」
そう京宮がボソッと呟いた次の瞬間。視界が歪む。
「なっ!?」
自分の思考にディレイがかかり、視界が何重にもぼやけ出す。
(しまった!?幻術!!)
「『夢幻錠・錯誤』や!!」
それは、対象が認知する自分の位置を1秒前の位置に誤認させる幻術だ。
普通ならば効き目の悪いこの幻術も、加速している季にとっては致命的。しかし、
「────『停滞』!」
当然のように時間を止め、感覚と肉体を同期。
どうやら肉体が計1秒間動かずにいれば自動的に解除されるらしい。
(なら、次の攻撃を!!)
至って正常に戻った身体で、『停滞』の解除と同時に斬撃を放つ。
だがしかし、
「──『夢幻錠・玃操』。」
有り得ないスピードと反応速度で京宮が動く。
「く……ッ!?」
剣を拳で押し返され、その勢いのままに壁へ激突。呻き声が軽く洩れる。
「悪いなァ、ウチは後方支援の方が得意なんや。」
『夢幻錠・玃操』。対象の肉体を任意に動かすことができる幻術。そもそも幻術の枠組みからは大きく外れた技であるため、簡単に抵抗され、解除されやすいが、
「…………やはり、お前がいると戦いやすい……な。」
京宮はその幻術をそもそも解除するつもりがない。音子の判断に逆らうことなく全てを委ねているのだ。
「やめろやッ!照れるやんけ!!」
服に落ちた瓦礫を軽く払い、今度は等速のまま、分身体も京宮に攻撃を加えるが、
(疾走くはないけど、私の攻撃に対しての反応が早い!)
先程まで有効だった攻撃も、全て防御され、逆に攻撃の糸口にされ、またもや季は大きく吹き飛ばされた。
瓦礫の中で、季は軽く目を閉じ、
「…………ふぅ。」
溜息を吐いた。それに連動し、分身体の4人も攻撃を辞め、京宮から距離を取る。
「なんや?もう打つ手なしか?」
予想外の自体に音子は首を傾げ、季を煽ってみせるが、それに対する季の答えは、
「ううん。こんなに早く力を取り戻すことになるなんて思ってなかったから、ちょっとびっくりして。」
あの神咲季を知っている者からすれば、恐怖でガタガタ震え出すような答えだった。
「なんや……なにを────!??」
「『並行現界・Ⅴ』。」
瞬間、5人の季の姿が重なる。同じ能力の5人の人間が1つに、つまりは今までの能力の5倍の能力だ。
……それでも全力の2割程度の力だが────
「──君たち相手なら問題ない。」
『加速』を使っていた時よりも疾走く、重く、強く、斬撃を放つ。
「……ぐッ!?」
さっきまで微動だにしていなかった京宮の身体が宙を舞い、天井へと打ち上げられる。
「ちぃッ!『錯誤』!!」
またもや起きる1秒のズレ、だがしかし、
「認識がズレるなら、その誤差を含めて全部攻撃すればいい。」
逆に季は1歩も動かない。
行ったのは届くハズもない斬り払い。
「ンなッ!?」
しかし、魔力も何も込められていないその斬撃は、半径30mをまるで嵐でも通ったかのように抉る。剣圧が巻き起こした風がそれを起こしたのだ。
(けど、この攻撃なら致命傷にはならへん!勝機はまだ!!)
「『夢幻錠』ォ!!」
ガチッ!吹き飛ばされつつも音子は姿勢を整え、両の手を合わせて言の葉を紡────
「『停滞』。」
──言の葉を紡ぐことは叶わなかった。
瞬間、左腕に走る激痛。
自分が受けた攻撃の正体が、『手の平で押す』だったことには遂に気付かず、激痛に蹲る。
「かはッ…………!!」
「その幻術、手で作った印を相手に見せることで発動するんでしょ?」
ジンジンと痛みを伝える、ぶらぁんと垂れ下がった左腕。この腕ではもう幻術は使えないだろう。
「…………なるほど、全部見抜かれとったちゅうことか。」
しかし、季の行動が唐突に妨げられる。
「ッ!?」
「……すまない。遅れた。」
京宮が季を羽交い締めにし、その行動を封じたのだ。
「はは!!!アホウ!タイミングバッチリや!!!」
動く右手で、左手の印を形取り、そのまま引っ張り上げる。
(はっ、ホンマにウチらしくないわ。こんなん。)
ジンジンとした痛みは、迸る電撃のよう。まるで腕の中で猛獣が暴れているかのような痛み。
「こ……ん…………じょおおおおぉぉぉぉぉぉッッッッッッ!!!!!!!」
「…………まさか、ここまで追い詰められるなんてね。」
「ほざけェ!!!『夢幻────」
だがしかし、だ。季は、神咲季は2人に絶望のカードを叩きつける。
「『並行現界・XXIV』」
顕現の余波、それだけで音子は吹き飛ばされ、京宮の腕はシートベルトを外すくらい簡単に退けられる。
「…………は……?」
「これが────本当の私一人分の力だよ。」
呆気に取られている京宮の鳩尾に手の平を押し込み、音子の額に人差し指をツンと押し当てる。
「ぐ…………ッ!!!??????!!!」
「…………そんなん勝てへんやん。」
それだけで2人の意識が刈り取られ、決着。
「うん。だって私、負けないから。」
京宮&音子vs神咲季────神咲季の圧勝。
「……さて、次!」
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