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『──』の邂逅

めっちゃ遅れた……すみません!!本当にすみません!!

その日の夜。家の扉を叩く音がしました。


「……誰かいらっしゃいますか。」


それは若い男の人の声で、ひどく疲れている声をしていました。

お母さんは、一言、二言返事をしながら私を押し入れに隠しました。

『余所者を相手にする時は家の中で一番の年長者が出るように』というおきて?だそうです。


「はい、少しお待ち下さい。」


でも、押し入れの中はとても暗くてつまらないので、私は戸に耳を押し当てて外の音を聞きます。


「すみません。こんな寒い中お待ちさせてしまって。」


これはうそです。毛皮があったかいので、寒くありません。

お母さんは、たまに小さなうそをつきます。でもそれは私を守るためだと、私は知っています。


「問題ありません。ご心配ありがとうございます。」


「そうですか……ところで、ご要件は?」


「…………宿を借りることはできますか?」


「すみません、他の家を当たって下さい。食べ物がもう……」


「食べ物なら、ここに。」


どさどさどさ、大きな音がしました。

気になって押し入れの戸を開けると、お母さんの足元にはたくさんの食べものが置かれていました。

ごくり、私はつばを飲みました。


「どうかこれと引き換えに、ここに泊めて頂けませんか?」


お母さんは、2つ返事でその男の人を家に招き入れました。


「すみません、このような1つの荷物も無いような身なりですから、『不審者だ』って追い返されてしまって。」


男の人は私たちの家に食べものをたくさん運びながらそう言いました。


「それで我が家にいらっしゃったのですね。

……本当に何もない家ですが、せめて自分の家のようにお過ごしください。」


お母さんは嬉しそうです。ごはんがたくさん食べれるからでしょうか。


「ここには、一人で暮らしていらっしゃるんですか?」


男の人がそう言いました。


「……えぇ、一人です。」


ちらり、男の人がこちらを見ました。

私はどきっとしました。


「今、料理をお作りしますので、しばらくお待ち下さい。」


「ありがとうございます。」


お母さんはご飯をつくるために居間から出ていきました。

ここに居るのは男の人と私だけ。胸がうるさいくらいどくどく鳴っています。

私は口に手を当てて必死に声をださないようにしていました。


「…………。」


すると、男の人はまたこっちを見ました。殺されると思いました。

男の人はずんずんとこちらに近づいてきて、ついには扉を開けてしまいました。


「…………。」「…………。」


じっ、男の人が私をじっくり見ました。怖くて声が出ません。

次に男の人はこちらに手を差し出して言いました。


「……お邪魔してごめんね。お詫びとしてこれを受け取ってくれないかな?」


にこり、男の人は優しく笑いました。

手のひらをよく見ると、そこには何か美味しそうな匂いがする、『なにか』がありました。


「……ありがとう、ございます。」


それは、雲みたいにふわふわで、花の蜜のよりも甘い匂いがしました。


「それはケーキっていうんだ。試しに簡単な材料で作ったものだけど、気に入ってくれると嬉しいな。」


「…………けぇき。」


試しに舌で少し掬って舐めてみました。

びっくりしました。


「ケーキ、おいしい!」


今まで食べてきたもので1番甘くて、甘さの王様だと思いました。


「……良かった。」


そんな私を見て、男の人は少し笑いました。


「お待たせ致しました。」


母の声が聞こえると、男の人は足早に元の位置に戻っていきました。


「じゃあ、またね。」


私も手を振って、扉をまた少し外が見えるくらいまで閉めました。

そのすぐ後、お母さんが土鍋をもって居間に入ってきました。


「すみません、急なもので、鍋くらいしか用意できなかったのですが……。」


そう言ってお母さんは2人分の取り皿のうち、片方をお兄さんに手渡しました。

こういう時、私は後で食べることになっています。


「いえ、用意して頂けるだけで充分に有難いです。それに、鍋は好物です。」


男の人は笑顔でそう言って取り皿を受け取りました。


「それは良かったです。では早速いた――――」


取り皿に具材をよそって「いただきます」と言いかけたお母さんの言葉を遮って、男の人は皿を置き、立ち上がりました。


「いえ、折角なら……」


そして、私のいる押し入れの戸を開いて言いました。


()()()で一緒に頂きましょう。」


「……!『──』!」


お母さんが私の名前を呼びます。

そうでした。人間は悪い存在なのでした。昔、人間が私たち狐の里の狐をたくさん捕まえて、売ってしまったことがあるそうです。

でも、この人も悪い存在なのでしょうか。

私は分からなくなりました。


「……大切なお子さんなんですよね。分かります。」


「その私の子どもに何をする気なんですか!?」


ぼぉっ。手のひらから炎を出して、完全に怒っています。

しかし、男の人の一言でお母さんの手のひらの炎は簡単に消えました。


「今すぐ、そしてこれからもご飯を食べてもらいます。勿論貴女にも。」


「…………は……?」


お母さんはぽかんとした表情をしました。


「栄養失調気味ではありますが、軽微なものです……あなたと比べれば。」


「……そうなの?お母さん……ご飯食べて、なかったの?」


私にはそうは見えませんでした。ずっとお母さんと一緒にご飯を食べてきましたし、お母さんはお腹が空いてるようには見えません。


「わ、私は……。」


すると、男の人はお母さんのお皿の中身を地面にひっくり返しました。


「あっ。」


けれど、その中身は地面に落ちるとすぐに消えてしまいました。


「……高度な幻術だ。お子さんを心配させまいとここまで……。」


男の人もお母さんもつらい顔をしていて、私も悲しくなりました。


「他の病気も併発しています。いつ寝たきり状態になってもおかしくありませんでした。」


「仕方……ないじゃないですか!私一人……しかもこんな身体で!!」


お母さんは、たくさん、たくさん思っていた事を言いました。

男の人はそれを静かに聞いていました。


「私は……せめてこの子だけでも救おうと……!!」


そう泣き崩れるお母さんの手を取って、男の人は言いました。


「なら、僕を利用して下さい。僕は医者です。生命を救うのが医者です。そして、命に上下はない。」


「そ、そんな綺麗事……。」


「じゃあ、僕をどうか化かして下さい。貴女が良くなるまで、お子さんが良くなるまで。」


そう言って男の人は笑いました。


「……信じて、いいんですか?私も一緒に幸せになってもいいんですか?」


「はい。この世に、幸せになっちゃいけない人なんていないんです。」


『──これが、私のご主人様。田中白空(たなかあきら)との出会いだった。』


『そしてこの物語は、私が名前を棄てて、ご主人様と一生の誓いを結ぶまでの序章に過ぎない。』


『私が選んだのは……主人が死して尚、外れぬ誓いを己の身体に刻み込む。そういう物語だ。』

いつも読んでくれてありがとうございます。

テストがツラい……単位も怖いよぉ……

今回投稿が遅れたのはまーじで単位がカツカツなせいです。そういうシーズンでした。そろそろテストが終わるから、タマモ過去編の最終章、乞うご期待!!

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