「元気そうでよかった」
遅れてすみません………でも、遅れた分ボリュームは多めになっているハズ………!
「…………なるほど、経験済みって訳か……。」
納得した様子の練を横目に、ポートは更に言葉を続けた。
「……そんで、一番の問題点はコイツが大量に流通してるってトコだ。さっき言ったメリットがここで厄介になってくる。」
「……メリット?厄介ってのはどういう……?」
練の疑問に、ポートは深い溜息を吐いてからゆっくりと答えた。その内容は単純明快かつ、練達の予想を遥かに超えるものだった。
「……約1500種類のスキルを無制限に使用できる。これがメリットだ。」
「せ…………!!??!」
1500。それを言い切る前に思わず絶句する。一体何人が一生涯でその領域に到達できるのだろう。
「まぁ、ほとんどバフや耐性、生産系スキルばっかりだがな。」
そう言ってポイと懐に『眼』を投げ入れる。
「バフ……そうか、あの鬼が急に強くなったのはバフの重ねがけをしたから……。」
(……あれ?じゃあそれに勝てる今の練くんって、すごく強いんじゃ……。)
ふと、季は練を見る。体つきが少々筋肉質になったくらい……といっても高校生としては普通の範疇だ。魔力も変わらない。
「むむむむ…………。」
それは、よく言えば普段通り。逆に悪く言えば────
「……?季ちゃん?俺になんか用?」
「悪く言えばつまらない……?」
……なんて間の悪いヤツなのでしょうか。
季ちゃんはブツブツと独り言を呟いていただけなのに、練は勝手に自分の事だと思い込んで三角座りで落ち込み始めた。
「はい……俺はつまらない男です……。」
まぁ、『つまらない』というのは練の事なのだが。
「わわわ……そ、そんなことないよ!?」
……なんて茶番をしていると、遂にポートが苛立ちを感じさせる口調で催促してきた。
「……なぁ、こっちも暇じゃないんだ。聞かないならこっちも相応の対応を…………」
……それは一瞬の出来事だった。
少し苛立った様子で食い気味に返答を返す練。
「ハイハイ、聞いてる聞いてる。とりあえず…………大量に流通してるってことは真実だってことがな。」
その左手は、突如現れた幼女の細い腕を掴んでいた。
「「「…………!?」」」
ワンテンポ置いて驚愕する3人。そう、事案発生である────というのは冗談。練が事案を……なんて今更驚愕するような内容ではない。
その幼女が手のひらに握りこんでいるモノが、たった今ポートに回収されたハズの『眼』だったからだ。
「びっくり。わたしを知覚できるなんて。」
白基調のゴスロリと、目立ち過ぎて他の印象を塗り潰してしまいそうな赤いヘアバンドを着けた幼女は、感情の起伏の分かりづらい声でそう言った。
対してロリコンの練は、
「……ごめんね。これは危ないものだから渡せないんだ。あと、どこでその眼を手に入れたか、お兄さんに教えてくれるかな?」
丁寧に、ゾッとするほど紳士的な言葉遣いと声色でそう言った。
しかし、
「それはムリ。」
否定はそんな一言。次の瞬間、手のひらの感触に違和を感じた練がそこに目をやると、
「『ボロっ?』…………ぼろぉぉぉぉォォォォォォォォ────ッッッッッッッッ!!!??!!?!!」
できるだけ優しく掴んでいたハズの腕が、冷たくなってボロボロと崩れ落ちるという信じられない光景がそこにあった。
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?????!!」
「お、お兄様ァァァッッッッ?????!!!!」
そこからの決意は早かった。
「あぁ、死んで詫びる。」
小刀を持って膝を突き、流れるような切腹の構え。潔さだけなら満点だ。
「わぁああああああああ!!!!!!早まらないで練くん!!!!!!!」
「そうですよ!!思い直して下さい!!もっと別の方法があるハズです!!」
練は空を仰ぎ、そのままの姿勢で暫く物思いに耽っていたが、やはり他に償い方を思いつかなかったのか、
「……やっぱり腹を切ろう!!」
元気よくそう言い切った。
「「ダメダメダメダメ!!!!!」」
2人が止めるがもう遅い。逆手に持った小刀を自らの鳩尾に躊躇無く突き刺す────シャコ。
「ん。」
シャコシャコシャコシャコ………………。
練の土手っ腹から血が噴き出ることは一向になく、金属が擦れる音がその場を占拠した。
「し、死ねねぇ……!?」
『『『ドッキリ大ー成ー功〜!!!!!』』』
なんと、練が切腹に使った小刀には、突き刺した瞬間に刃が引っ込む仕掛けがされていたのだ!くっだらねぇ──!!!
「何をやっているんだ貴様らは……。」
呆れ顔でそう言ったポートだったが、ふと我に返ったように周囲を見渡す。
そう、また幼女の姿が消えたのだ。
「ばかなおにいさん。」
そして、その声は背後から。
「なっ…………!」
そこには五体満足のゴスロリの幼────
「──生きててえらい!!!!!!」
……五体満足のゴスロリの幼女、それを練が視認した瞬間、反射的に、なんと地の文よりも早くそう叫んだ。
「そうだね!????」
「…………?とにかく……この子、うちの子だから。」
そしてその幼女は、少し困惑混じりのまま、怪訝そうに目を細めて言い放つ。
いつの間にか雪が降っていた事に気付くが、時すでに遅し。
「せきにん取って、死んで。」
その言葉と同時、横凪の風と共に雪が降り注ぎ────
「『ステージ・オン・ファイア』。」
──その雪を炎の壁が全て焼き尽くした。
「…………火のかべ。」
シャン、シャン、シャリン。鈴の音が鳴る。
今も轟轟と音を立てる炎の壁を、ゆっくりと突き破り少女が現れた。
「別にあのロリコンがここで死のうと、私には関係ないのじゃが。」
ふわりふわりと、足音を鈴の音に変えて歩みを進める。
「ここで死なれるとこの街の評判が下がる。」
凛と響き渡るその声は、目の前の幼女も、練達もよく知っていた。
「久しぶり、焚擁。」
──普段の和装とは打って変わって、煌びやかな赤いドレス姿の装い。どんな魔法を使ったのか、中学生程に成長しているが、間違いなくそれはタマモだった。
「訪問するなら……もっとやり方があったと思うのじゃが?裕彩ッ!!」
ぶわり、タマモの怒りに呼応するように、周囲の炎が生き物のように踊り狂う。
「……元気そうでよかった。」
いつも読んでくれてありがとうございます。
すみません!!あの、大学のレポートとか、課題とか……いっぱい大変だったんです!!信じてください!!ポケモンだってプレイしてないんです!!本当ですよ!?マジマジホント!!!




