事情があるんだよ色々と
すみません……めっちゃ時間がかかってしまいました……
巨大な鬼が倒れ伏したその奥に、白色に煌々と輝く剣を持った青年は佇んでいた。
「…………やっぱり……。」
「えぇ!間違いないです!」
そう、2人は彼を知っている。一切変わりないその佇まいが、声と完璧に重なる。
そして、その名を呼ぼうとしたその時。
「練く………………。」
衝撃の否、寸劇の光景がそこに展開されていた。
「……?どうしまし…………。」
2人が絶句したその1部始終をご覧頂こう────
『…………決まった……。』
ぐっ、拳を握り込み、小さくガッツポーズを繰り返す。それは回を追う事に大きくなっていき…………ついに臨界点に達した。
『……決まったァァァ────ッッッッッ!!!!!!!ほらほら見てましたご主兄様〜?千ッ光ッ──!!!最高の技名ですよね?!』
ぶんぶんと右腕を振りながら暴れる練。
そしてそれを左腕が諌めた。
「はいはい、今後もよろしくな。あと身体の制御を奪うのをやめなさい。」
ピタリと右腕が止まったかと思えば、今度は夢かわなポーズで跳ね始めた。
『……決まりましたよご主人様!!!千ッ光ッ!!完ッ璧な攻撃でした!!!』
「はいはい、完璧完璧。次もよろしくな。あと身体の制御を奪うのをやめなさい。」
ピタリと跳ねるのを辞めたと思いきや、今度は地面に、まるで砕けるように膝から崩れ落ちた。
『……終わりだよお兄ちゃん。私いらない子なのかな……。』
「はいはい、終わり終わり。次もよろしくな。あと身体の制御を奪うのをやめなさい。」
……と、突然自分の頭を殴り始める練。
『…………!!』
「痛っ!痛い!!痛いって!!その無言で叩くのやめて?!やめ……やめなさいッッ!!!パパ怒るよ!??」
それはそれは絶句必死の奇妙な寸劇。
それらを間近でみた2人の感想は、
「「うわっ気持ち悪…………。」」
だった。
「こっちにも事情があるんだよいろいろと!痛い痛い!ごめん!!ごめんて!!ごめんなさい!!」
必死に弁解しようと手を伸ばすも、もう片方の手に殴られるわ、更に2人に距離を取られるわで散々な結果だった。
すると、突如呻き声のような呟きが耳を突いた。
「ゆ、ゆうさ……様……申し、訳………………ご主人に会わせる顔が────」
見れば、そこには倒れた鬼がいたはずの場所。
あれだけの巨体が見当たらない。
「一体どこに……!?」
それを見た練は絶句した。灯台もと暗し、その姿はまるでカーペットのように薄っぺらく地面を這っていたのだ。
「……!?お、オイッ!!」
そして次の瞬間、まるで空気の抜けた風船のようになった身体を、眼がどんどん吸い込んでいき…………
「…………マジ……かよ。」
「消えちゃった…………?」
ついに、鬼がここに居た証拠なんてものは、そこに落ちている眼以外なにも無くなってしまった。
「魔力の残穢もありません……完全に消滅してます。」
「……これは一体…………?」
気味の悪さ、しかしそれ以上に抗い難い魅力がその眼にはあり、練は────
「ソレに触るな!!!」
それに触るほんの数瞬前に手を止めた。
「……なんだよ、俺がこれを触ることでお前に何か不都合でもあるのか?」
不機嫌そうに練が振り返るとそこには、左眼に眼帯をした男が立っていた。
「大アリだ。お前みたいなヤツでも今は重要な調査員の1人。失うのは痛手なんだよ。」
練は少しの間、その物言いを不思議に思っていたが、
「調査員……?なんじゃ………ぁぁぁあああああ!!」
ようやく思い出したのか、指をさしながら大声を上げる。そう、彼の名は…………
「……誰だっけ。」
ガクッ、男がバランスを崩してズッコケた。昭和のギャグ漫画か。
そしてその隙にシルフィアが練に耳打ちをする。
「お兄様……ギルドエンペラーですよ……!」
「ギルドで1番偉いヤツ!!!」
ずびしっ!練が指を指し直す。
「ポートだ!!自分が所属してる団体のトップの名前くらい把握しとけ!!!」
ポートは「まったく……」と呟き、腕を組み直す。その言葉の節々から苛立ちを読み取るのは容易いことだった。
「……で?トップさんがここに何の用だよ。」
「そりゃあ……コイツに用があってな。」
ひょいっと地面に落ちた眼を拾い上げる。
義眼と言うには、あまりに生物由来らしいそれを指して練が聞く。
「……眼だよな、それ。
……もしかして集めてるの?趣味悪っ。」
「趣味じゃねぇ仕事だ!!こっちにも事情があるんだよ……色々とな。」
どうやら練は情報を聞き出すのには向いていない、という事を理解したシルフィアが改めて聞く。
「それで、どうしてこれを集めているんですか?」
「……コイツが厄介な代物でな。一瞬でも素手で触れたら左眼に強制的に『装備』させられるんだと。ただし、メリットもあるんだが……。」
そこまで話してポートは俯いて口を噤んだ。
「呪い…………じゃあなんでお前は無事なんだ?」
そう練が聞くと、溜息混じりにポートが言った。
「そりゃあ、その枠がもう埋まっちまってるからな。」
そう言って顔の左側を覆っていたスカーフを外す。
そしてその眼窩に収まっていたのは、手に持っている眼と全く同じような眼だった。
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