カムバック
やべー!遅刻遅刻っ!
「大丈夫?」
きりもみ状態で吹き飛ばされていたシルフィアを片手で受け止めながら、季はそう言った。
「えぇ、なんとか。自信の方はぶっ壊されそうですけど!」
そう言ってシルフィアは悔しそうに目を細めた。
「……あれ、『限界突破』以上の『なにか』を使ってる。倍率は大体…………3000倍。」
その季の言葉を聞いたシルフィアが目を丸くする。
「さんぜ…………!??というかいろいろ変ですよ!?伝説では『鬼』はそもそも魔法が使えないはず……なのにあの迸る魔力!」
「何か、からくりがあるのかもね。例えばあの眼とか。」
思い出すのは、あの気味の悪い威圧感を放つ眼。敵が何をして来ても、あの眼の前では全てに納得してしまうだろう。それほどまでにその眼は季の理解の外にあり、異質だったのだ。
「それは間違いないと思いますが…………眼……。」
「そんなことより……来るよ。さぁ、持久戦をしようか!」
高速で飛来する鬼の軌道を剣で逸らしつつ、そう言う。
そして、シルフィアはその言葉の意味を一瞬で理解し、ありったけの強化魔法を季へ放つ。
「……なるほど!強化値が大きいほど、跳ねっ返りも大きい。それを待つってことですね!」
「そういうことっ!!」
強化値はおよそ15倍。3000倍に比べれば見劣りはするものの、それで充分だった。
「ウググ……!来るかッ!強き者よォッ!!」
「『時の支配──加速』っ!!」
その瞬間、距離を詰めていた季の姿が一瞬で加速する。
先程の鬼の速度と謙遜ない速度。しかし、鬼にとってはその程度、見切るなど訳ない速度だ。
変速による奇襲を見破られ、今度は鬼の猛攻が始まる。
「どうした?防戦一方ではないか!!」
確かに、季はほとんど全ての攻撃をいなしきってはいるが、圧倒的超重量の攻撃は、季の身体にダメージと疲労を蓄積させていく。このままでは時間の問題────しかし、
「それはどうかな?」
ニヤリ、季が笑う。
「ウヌッ!?」
瞬間、優勢だったハズの鬼が膝を突く。驚いたような表情で荒く、肩で呼吸する。
「限界点が思ったよりも早くてびっくりした?」
痛そうに手を振りながら、意地が悪そうに笑う。
「グ…………!!何をした……?」
「『時の支配-加速』。私の近くの空間に限り、時は加速する!」
その言葉でようやく理解できた。時間を加速させられたことにより、身体強化系スキル群の使用限界が想定よりも早く来たのだ。
そして、その時の加速に気付けなかったのも、3000倍の世界に慣れていなかったが故の出来事。
(未熟…………!)
無念に悔しそうに顔を歪めるが、起こってしまった事実は変わらない。
「じゃあね。練くんを見つけるまでは負けられないから!!」
そう言い放ち、首に向けて剣を振るう────しかし、
「なっ!?」
剣が、盛り上がる外皮に弾かれる。
「…………そんな、効果時間は確実に終わ────」
「ウウォアアアアアアアッッッッッ──────!!!」
そんな事実を掻き消す咆哮。全身から血が噴き出るも気に留めず、より化け物らしく肉体を変貌させ、殴打。殴────
「くっ────『時の支配──停滞』ッ!!!」
1発目の殴打を受け止め、2発目は時を止めることで回避しようとしたが、
「ぐ……うわぁぁッッッ!??!!」
馬鹿な、というような表情で目を見開く。
「はぁ……はぁ…………ッ!?…………嘘……でしょ?時間に抗うなんて…………!!!」
十八番が効かない。時間制限もない。死を覚悟したその時───黒色一閃。
「グオアアアアァァァッッッ!!??!!?!」
同じく止まった世界で動く、その姿は────
「まさか…………!れん…………くん……?」
──白黒2色の甲冑に身を包む西洋風の……
(いや誰この人──────ッッッ!!!??!)
いつも読んでくれてありがとうございます!
これで返済はおわり!ペース戻して行きやす!




