カオスの終焉
やっべ!ギリ!
それは、季との戦いを終えた後。
「よし、季ちゃんの『世界神』を『農耕神』と『時空神』の2つに分割できた。
これでお兄さんと季ちゃんはそれぞれ神として、別の存在として生きられるようになったって訳だ。」
破壊神の能力でスキルを2つに分けるのは初めての経験だったが、完成形のスキルを知っているおかげか、上手くいったようだ。
そして、その分けたスキルの一方を兄に押し込むと、兄はゆっくりと呼吸を再開した。
「……あの、ありがとうございます。私だけじゃなくてお兄様まで救ってくれて。」
今までの言動は魔王になったが故だったのか、魔王化が完全に解けた季の言動は、練がよく知る口調に近いものになっていた。
「あぁ……でもここでさよならだ。」
しかし、今の練はそんな些細な事に気付かない。
「えっ…………。」
バタリ、バタリ、バタリ。周囲の人間が、神々が意識を失い、地面に倒れ込む。
今までの戦いの記憶を『破壊』したのだ。
「…………これで、歴史通りだ。
魔王を倒した神の名は誰も知らない。」
錬金術や破壊神の力を使い過ぎた代償か、血が食道を登り、血涙が顔に模様を描く。
「…………保ってくれよ?俺の魂…………!まだ……まだ仕事が残ってるんだ!!」
呼吸は荒く、今にも倒れ伏しそうな足取りで、朦朧とする意識に鞭を入れ、無理矢理に立ち続ける。
(また、季ちゃん同士が引き合うなんて事がないように……魔王を倒した存在が常に歴史に存在するようにしなきゃいけない。)
「ここで俺が正しい歴史に帰れなければ、魔王を倒した存在として世界に刻まれ、二度と悲劇は起きない。悲劇が起きた世界はパラレルワールドとなり、完全に分岐する。」
それが、『ちょっとした裏技』。
「方法は簡単だ。俺を帰そうとする『歴史の修正力』を破壊すればいい。」
『破壊神』となった自分をパラレルワールドに完全に隔離し、他の全員を正しい歴史に記憶を消した上で送り込む。
そうすれば、後は正しい歴史の金子練がなんとかやってくれるだろうと、そういう目論見だった。
しかし、
「…………何、言ってるの。お兄ちゃん。」
それを全て聞かれてしまった。
「……ッ!?ダーク……!ライト……!」
ダークとライトは破壊神となる際に『不純物』として外に排出されていたのだ。
「一緒に帰るんじゃなかったんですか!?ずっと……ずっと一緒だって。」
「そうだ。」
「…………違います。こんなの一緒じゃありません!!違いますよ!!」
「違わない。」
悲痛な二人の叫び声を、ただ淡々と、顔すら見ずにただ淡々と、飛んでくる言葉のボールを機械的に打ち返す。
「お兄ちゃん、他に……他に方法はなかったの!?これが、お兄ちゃんの言う『ちょっとした裏技』…………?」
そう言うと、初めて練が二人の方に振り向いた。
「………………大丈夫、ちょっと忘れるだけだ。
ほら、錬金術だけに等価交換ってやつさ。」
なんて、なんて痛々しい笑みだ。ここでどれだけ頑張っても頑張っても、幸福を享受するのは何も知らない正しい歴史の自分でしかないのだ。
本当に虚しい笑みだった。
「ちょっとじゃ、ないです。」
そんなの見てられない。
「ご主人様の命は!!!『ちょっと』なんかじゃない!!!!」
そんな切り裂くような怒号も練には届かず、
「…………そうか。」
練に更なる『破壊』の使用を決断させる。
「なら忘れてもらう。本当に守るべきもの────みんなとの日常の為に、俺は俺を殺す。」
それは、使命にも似た自殺願望だった。
しかし、
「だー!!(させるかよッ!!)」
時間操作による不意打ち、レクスが練の懐から何かを奪い去る。
「なっ!?れ、レクスぅ…………?!いつの間に…………!!しかもスキル宝玉を…………!!」
明らかに自分が弱体化し始めたのが体感で分かる。ただでさえ未完成な破壊神の存在が、更にあやふやになる。
(だが、まだ完全にスキルが使えなくなった訳じゃない…………あと30秒以内に『修正力』が来れば!!)
しかし、そんな希望は一瞬にして潰える。
「…………ご主兄様の、バカ。」
一瞬にして懐に潜り込んだカオスが放った拳は寸分狂わず鳩尾を穿つ。
「かは…………っ!?」
疲労によりボロボロの体が、意識を失うのは一瞬だった。練が前のめりに倒れるが、カオスの体は練を素通りする。
「………………だいっきらい。」
涙とそんな台詞を溢して、自らを否定したカオスは粒子となり消滅するのだ。
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