目眩く時空の消失=ロスト・クロノス #21
遅れました……ごめんなさい。
何度も何度も。二人は剣を交えながら世界を駆け巡る。
そして、季は練と戦う内に一つの結論に辿り着いた。
(防御されようと構わない。)
より強く。
(より強く……より魔王らしく!)
より強く!
(力でねじ伏せればいいだけの話です!!)
超加速的に速くなるスピードに比例して、より激しくなる剣圧を殺しきれなくなる。
「くっ!」
そして真髄を現す『反逆・超越・到達』のもう一つの能力。
「『無制限の自己進化』。」
時間経過により無限に、無制限に全ステータスを上昇させる能力だ。
そして、上昇したステータスが減ることは未来永劫ない。無制限に強く、無限に孤独になっていく、唯一最強となるための能力だ。
「くっ……!!ぐはッ!?」
瞬間、練の身体が宙を舞う。
(また、剣圧…………?いや違う……これは!!)
だだの移動の風圧に吹き飛ばされたのだ。
(急に捉えられなくなった……!!?)
練が現在身体に取り込んでいる錬金術は、4つに分割した内の3つのみ。華蓮の持つ『自身に作用する錬金術』が欠損しているのだ。
よって自身以外には破壊神の能力を、自身には錬金術の能力までしか適用できない。
しかし、ただの錬金術だけでも能力としては充分に強力。
「視力強化薬『精製』!『服用』ッ!」
一瞬にして薬品を完成させ、隙を潰す為に錬金術で飲む。
そしてその影響はすぐに現れる。
(見える……ッ!)
加速し過ぎた圧倒的速度を、目で捉えられる。
「『掴む』『全影響破壊』!!」
触れた物が起こす全影響、動きも落下も加速も、燃焼も吸熱も摩擦も発光も何もかも、それらすべてが破壊対象だ。
故に、剣はもう一切動かない。
「…………っ!!まだ、もっと強くならなきゃ……っ!!もっと!!!」
その時だった。ポツリ、自然に、まるで流れる川が自然と海へと辿り着くように、落とした物が落下するように季が呟く。
「『時の支配者』。」
瞬間、完全に停止していた剣が動きを取り戻す。
「越えた……っ!!!」
「な…………ッ!?」
練は驚愕したがしかし、そのままやられることはなく、反射的に言の葉を紡ぐ。
「『防御』──」
しかし、そんな咄嗟の防御も『完全独立論理世界』の前には無力、『全影響破壊』という『攻撃的な防御』を貫通された時点で既に、練に攻撃を防ぐ手段はなくなったのだ。
「────────ぁぁぁあああッッッ!?!??」
ただ、加速し切っていない剣だったのが幸いしてか、防御の姿勢のお陰か、練は辛うじて原型を保っていた。
「はぁ……はぁ…………くそ…………!!」
『時の支配者』。それは正に時空を統べる者に相応しい能力。
汎ゆる事象を未来へと飛ばす能力だ。
それにより練の『全影響破壊』が未来へと飛ばされ、攻撃が再開したのだ。
「………………これは、無理だろ。」
この瞬間、練はどうやっても勝てないと、そう悟った。
(だって、そうだろう?こんなの、チートとかそんな次元じゃない。竜巻や地震や津波に独りで挑むようなもんだろ。絶対勝てっこない。)
「さぁ、これで逆転ですね。大人しく殺されて下さいッ!『独自領域』!!」
季を中心に灰色の世界が展開される。
『時の支配者』も、これも、世界神の権能がなじんできた故の産物だ。
「……どうしました?もしかして諦めたんですか?じゃあ、楽に逝かせてあげますよ。」
(無限に強くなるなんてずるだ。防御を貫通するなんて意味がわからない。
それでいて可愛いなんて、世界のバランスが壊れるだろ。)
自衛のため、季を殺すくらいなら自分が死んだほうが『マシ』。それが練の根幹だ。
故に、棒立ち。自暴自棄になってぼうっとして、完全に身を任せた脱力の体勢。
(あぁ、そんな人と一緒に旅をして、好き同士になって、一時でも付き合えて、子供ができて…………好きな人に殺される。幸せだ。よかった。生きててよかった…………ごめん、生きられなくて。)
そして、涙とともに流れる走馬灯の数々。
今までの旅と、みんなの笑顔。
そして、
「…………ぁ……。」
気付く。思い出す。
(…………俺は、一度戦って倒した事がある。魔王と、魔王と化した俺と……!!)
じゃあ、眼の前の少女も、同じなんじゃないか?
いつも読んでくれてありがとうございます!!
次回、魔王攻略!?




