目眩く時空の消失=ロスト・クロノス #18
めっちゃ遅れました……ごめんなさい!
その言葉に、泣き腫らし俯いた顔が上げられる。
「…………なら、こんなことはやめにしよう。」
さらにざわざわと神々がどよめく。
「私は、君の兄を治せる人物を知っている。」
終わりのないように思えたこの戦いは、こんな簡単な提案だった。
「………………ホントですか…………?」
ポツリと呟くような、雑踏に簡単に蹂躙されてしまうような霞む声で、鳴き声雑じりに、縋るようにそう問う。
「あぁ、彼なら喜んで協力してくれるハズだ。だから────」
「もうこんな戦いはやめにしよう。」そう続けるはずだった。
──しかし、ただ一陣の風が吹いた。
「よかった〜!これで気兼ねなく復讐できますっ!!」
続く言葉が喉奥へと引っ込む。
眼の前の現実を直視できない。何も考えられない。何も思えない。
「………………は……?」
気付けば胸に横一文字。斬られた事を理解した身体が今更血を吐き出した。
「あぁ、全く…………」
人の痛みを人一倍知らず、その上自分の痛みを人一倍知っている。
よりによってこんな奴が魔王になるだなんて。
「…………最悪だ。」
理解した。眼の前の少女にとって、兄を救うことは理性だった。
復讐こそが一番大切で、我慢することは耐え難い苦痛だったのだ。
その復讐は義務感へと変異した兄を救いたいという思いによって、『痛め付ける』という手段に落ち着いていたが…………。
(私が、その責務から開放してしまったのか。)
いつの間にか血が止まっている事に気付く。
時間を止められたのだと理解をするのにそう時間はかからなかった。
「ほら、死なないで。お兄様を治せる人の所に私を案内してください。その為に今まで手加減してたんですからっ!!」
……なんて無邪気な笑顔。泣き腫らした痕がまるで嘘のよう。
内面の狂気と相反するような笑顔は歪な輝きを放っていて、一気にクールの戦意を奪い去った。
「……神々を痛めつけたのもか…………?」
「はいっ!そうしたら治すのが得意な人が出てくると思って!!」
「治すのが得意……か。」
そうポツリと呟き、クールにしては珍しくクツクツと笑う。
「…………?どうして笑っているんですか?」
それは、純粋で素朴な疑問だった。
苛立ちを殺意に変えた威圧を放つも尚、クールは笑い続ける。
「ハッハッハッハ!!!何故笑っているか?そりゃあ今から来る奴が『治す』なんて全く縁のない奴だからだよッ!!」
「…………騙したんですね?」
殺意に憎悪が加わる。問い詰めるような、追い詰めるような。
詰問は形だけだ。今すぐに殺してやりたいという思いがひしひしと伝わってくる。
「いいや?少なくとも奴は────金子練は君を救うつもりさ。あぁ、全く……惚れた女のためとはいえ、魔王を救おうだなんて酔狂な奴だ!!ハッハッハッハ!!!!」
それでも尚、笑う。
「命乞いのつもりですか?そんなこと私に話してもなんにもなりませんよ。
……そもそもその金子練って人と私に何の関係が?」
ピタリ、その言葉を聞いた途端、笑い声が止まる。
「…………?」
季は困惑した。その慈愛に満ちた表情。朗らかな微笑。それはなんてことない休日の午後のように穏やで、
(これは…………一種の諦め?)
「直ぐに、いや…………いつかわかる。」
理解できない。死ぬことを悟ったのか、それとも。
「じゃあ遺言は終わりでいいですよね?死────」
瞬間、放たれた横薙ぎの斬撃。
一瞬にしてクールは絶命する、ハズだった。
「だめだ、季ちゃん。」
それを阻んだのは、世界を救った英雄だった。
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