目眩く時空の消失=ロスト・クロノス #17
ちょっと遅れました……。
地を転がり、身を捩りながら反芻した言葉を遂に吐き出す。
「く…………ど、どうして私の魔法が…………!!」
そして案外、その答えが出るのは一瞬だった。
『あなたは炎神に嫌われました』
先刻、季が魔王になった事を示したシステム音声、それがあまりにもシステムらしからぬ台詞を、莫迦みたいに抽象的な言葉を使うので、季は開いた口が塞がらなかった。
「…………………………は………………?」
だが、魔法が使えない原因はこれだ。そう直感的に理解する。
そして、クールが流し目で神々を見て溜息を吐く。
「手出しは無用と言った筈だ。炎を司る神よ。」
カッカッカ。そんな快活そうな笑い声が響く。
その笑い声の正体は燃えるような紅い瞳を持つ着物を着た翁だった。
「我は支援を絶っただけ。手出しは一切しておらん!!」
その翁は、そう言ってまたカッカッカと笑うのだった。
「ふん、余計な事を。」
そう毒づき再度戦闘態勢を取るが、周囲の空気が変わった事に気付く。
「だ、だったら俺も!あんな奴に力を貸してやる理由なんてねぇ!!」
「私も!!私の力が世界を滅ぼすために使われるなんてごめんだわ!!」
これは、マズい。そう思い口にする前にそれは起こった。
「俺だって!!」「あたしも!!」「儂も同意じゃ!!」「フン…………」「ふざけるなよ神咲季──ッ!!」「お前に貸す力なんてねぇ〜っ!!」「さっさと負けちまえ〜!!」「頑張れ筋肉男──っ!!」「あの魔王を倒してくれ──っ!!」「相棒の敵を!!」
思い思いに神々が叫び、当たり散らし、少女を罵倒した。
「──────ッ。」
季が言い返すよりも、クールが止めるよりも先に、システム音が季の世界を支配する。
『あなたは地神に嫌われました』『あなたは色の神に嫌われました』『あなたは魔術の神に嫌われました』『あなたは暗黒神に嫌われました』『あなたは神速神に嫌われました』『あなたは勝負の神に嫌われました』『あなたは水神に嫌われました』『あなたは光神に嫌われました』『あなたは風神に嫌われました』『あなたは医療の神に嫌われました』『あなたは鉄の神に嫌われました』『あなたは金の神に嫌われました』『あなたは紙の神に嫌われました』『あなたは服の神に嫌われました』『あなたは健康の神に嫌われました』『あなたは人形神に嫌われました』『あなたは鏡神に嫌われました』『あなたは虫神に嫌われました』『あなたは道祖神に嫌われました』『あなたは武器の神に嫌われました』『あなたは家神に嫌われました』『あなたは料理神に嫌われました』『あなたは芸術の神に嫌われました』『あなたは空神に嫌われました』『あなたは命の神に嫌われました』『あなたは恋の神に嫌われました』『あなたは元気の神に嫌われました』『あなたは本の神に嫌われました』『あなたは────
夥しい数のシステム音声が抽象的な罵倒を読み上げる。寄って集って少女を苛め抜く。
ペタリ、呆然と力無く少女が座り込むが、それでも罵倒は止まない。
「ふ………………る………………。」
涙が地面を濡らすも、それに気付く神々は居ない。
そして、それに気付いたところで罵声は止まないだろう。
「ふ……………………な………………っ!」
そして、少女の怒りが、哀しみが、臨界点に達した時。
遂に神々は口撃を止めた。
「ふざけるなよお前達ッ!!」
それは、気迫に負けたからでも、心を痛めたからでも何でもない。
「私が、私が一体何をしたっていうんですかっ!!」
あまりにも自己中心的な怒り。
神々は呆然として己の耳を疑った。
「私は……私は…………ただお兄様と一緒に居たかっただけなのに!!!こんな…………こんな事しなくたって!!!」
そして神々の思考は一色に染まる。
「なんでこいつが被害者面してるんだ?」
神々が一気に混乱に陥っている中、クール波戦闘態勢を解き、ゆっくりと季に近付いた。
「…………なら、こんなことはやめにしよう。」
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