バットエンドは嫌いだけど
久しぶり!
赤黒い人工の心臓が鼓動し、白銀の血が送り込まれる。
「シルフィアちゃんを呼んできたの!」
話しながら魔導記憶を展開し、容態を全身に薄く魔力を流す事で把握する。
「お兄……様……!?これは酷い……大きな外傷と錬金術による魂へのダメージ……ですが、安定しています。」
「どういう事なの?」
魔導記憶が畳んだシルフィアが、2対の剣に微笑んだ。
「2人のお陰ですよ。
……魔法を使わずに自己再生能力に委ねた方が良いかも知れません。」
「それって……入院するってことなの?」
心配そうな瞳に覗かれ、思わず目を伏せてしまう。
「……はい。この傷で、錬金術も使ったのなら……魔法を使って無理矢理回復させるよりも入院して然るべき処置を受けた方が。
……2人に、お兄様を任せた方が『確実』です。」
『確実』、そんな言葉が魔法の力を使わせることに迷いを生む。
折角2人が容態を安定させているのに、勝手にお兄様の身体を弄っていいのだろうか。
「そんな………パパ……パパ…!!」
もし、ここにいるのが師匠やツクヨミさんなら……。
「……ライトさん、ダークさん……後は任せます……!!」
そう祈る事しかできなかった。
……いや、しなかった。
「ちょいちょい〜。」
「「ちょいちょい」」
ふと、背中から声が響いた。
「なんですか!?こんなと……きッ!?」
「よっ。まさか忘れてないよね?」
それは、そこの男と同じように白と黒の剣を従える人間で、どこか似たようで、似ていない存在。
「……ママ……。」
「まさか……あの時のお兄様の分身?」
「ただの偽者だよーご本人様公認のね?」
「……益々意味不明になりました……。
しかし、こんな時に態々御足労願えるとは……一体何の用ですか?」
魔導記憶を展開して身構える。
攻撃的な術式が半分まで唱えられていた。
「約束を果しに来たんだけど……どうやらそれもできなさそうだよねぇ……。」
しかしその少女は、いとも簡単に不可侵領域に足を突っ込んだ。
「……約束?」
「あっ、ごめんごめん!こっちの話。ねー?」
「「ねー。」」
そして感情の薄い声で2人が同調した。
……彼もそうだったと、思い出した。
ずかずかと不可侵領域まで入り込んでは、一瞬にしてそれを解決してしまう。
「………。」
それでも疑わずにはいられなかった。
打算と余裕に満ちた目、それだけが似ていなかったから。
「あーあ。疑われちゃった。ま、いいか。」
「何をするつもりですか?返答によれば……」
「助けるつもりだよ?」
あっさりとそう言い切った。
「何ですって?偽者である貴女が何故……!?」
「同じ錬金術を持つ者同士の誼みだよ。
……それに、数十年なんて待ってられないしね。」
言動の全てが常識外れ、それを笑って覆い隠す。
どこからどこまで規格外だった。
「数十年!?……シルフィアちゃん、本当なの?」
「……本当です。それでも私がっ!!」
「3年後の時空神選出の儀の時に、自分が時空神になれば良い。」
だが、彼女は何故か知っていた。
「ッ!?……何故、それを?」
当てずっぽうではない。
『龍の因子』を持つ者は『龍神』を除き、神にはなれない。
それを知っている。
「……一度考えたプランだったから。
ま、よっぽど良い案をそこの本物が出してくれたんだけどね。」
「……それで、それがどうしたっていうんですか!!貴女が何を言おうと……お兄様は!!」
「あのねぇ。私を誰だと思ってるの?」
呆れたように偽者が苦笑いを浮かべた。
「……そうなの、ママは……パパ。」
「偽者だけどね。」
「それでも……貴女も錬金術を使えば……!」
「助けるって言ったでしょ?……死ぬわけじゃないし、いいんだよ。」
トントンと、両肩が叩かれる。
「「おねーちゃん。」」
「ありがとうね。2人とも。ちょっと寝るから。
……後は、よろしく。」
「「……わかった。」」
2人がゆっくりと頷いた。
笑顔で頭をゆっくり撫でる。
「偉い子。」
「……華蓮さん。」
名前で呼ばれると、彼女は少しだけ笑った。
「そろそろいいかな?感動シーンがだるだるになっちゃうもんねー。」
「待っ……」
「じゃあね。……治癒時間………『省略』。」
止める暇も無く、彼女は眠りについた。
いつも読んでくれてありがとうございます!!
また誤字が……気をつけますね。




