混沌の本音
「全ての祖にして終着点ーー」
「有の多重相反ーー」
「剣と言いつつ、剣だけに非ずーー」
「ーーー混沌の権化カオス!ここに顕現…!!」
それは、丁度剣が水を吐き出した頃。
元神の顔に水鉄砲が炸裂した頃だ。
「ばっ!!そんな…!?えぇでも……あぁーーー!!!!確かに彼女とか言ってたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
あぁ、お風呂会で言ってましたね。
「ちょっと!?カオスちゃん!カオスにしないで!?」
「こっちのセリフですっ!!ご主兄様……!!私が修行してる間になんちゅうことを…!!!」
握り拳がワナワナと震える。
ステータスお化けがそれを止める為に言葉を紡いだ。
「ちっ違うの!私達が練くんに!!」
「……それは、ずるいですよ。」
「えっ?」
「じゃあ私は誰に怒ればいいんですか!?
ルミナちゃんですか?シルフィアちゃんですか?……ときちゃんに……怒ればいいんですか?」
吐き出した感情が自分で嫌になる。
こんなセリフが妙に人間臭くて自嘲した。
「……そ、それは……。」
少女の形が揺らぐ。
「私は、ご主兄様の剣だけど、」
「お兄ちゃんの剣で、」
「ご主人様の剣です。」
まるで風に棚引く雲の様に白と黒が入り混じる。
「……ダークちゃん、ライトちゃん。」
「「だから。」」
「お兄ちゃんを守るだけが私の存在意義だと思ってた。」
「ご主人様に使われるだけが私の存在意義でした。」
「でも、もっと好きになって欲しくなっちゃったんですよ。
私は……いえ、私達はずっとご主兄様の隣。視界の外にいました。
私達を見てくれるのは、戦う時だけ。それだけで良かったのに、寂しくなっちゃいました。
羨ましかったです。ルミナちゃんも、シルフィアちゃんも、季ちゃんも。」
もう、混沌を保ってなどいられない。
初めから不可能だったのだ。
あの人が好きだという気持ちを、消し去り続けるのは。
「…………。」
剣という立ち位置が恨めしい。
そう思ったのは何度目か忘れた。
「私は剣として失格です。季ちゃん。」
「ぁ……っ。」
黒い禁断の恋心と、白い清楚な自制心。
それが鬩ぎ合っていたから『混沌』を保っていられた。
『調和せし混沌』でいられた。
「……ご主兄様とお話ししてきます。」
「カオス……ちゃん。」
もう限界だった。決める時が来たのだ。
少女の甘酸っぱい恋心と剣としての使命。
それを白黒つける。その結果ーーー
「その結果、私のこの感情が消えても、それがご主兄様の選択なら……大丈夫だから。」
しかし結末は残酷だった。
自分のエゴにより、愛すべき人は血に塗れる。
胸が締め付けられる。壊れそうな程。
「……パパ……?」
パキン、心がひび割れた。
調和が壊れ、混沌が死んで行く。
伸ばした手が解けていく。
『無茶……ですよ。』
だが、そこで終わらせない。
『そんな傷で……速く治療を!!』
終わりは、こんな所じゃない。
「今は……いい。届くのは……今だけだろうから。」
ヨタヨタとした足取りで歩みを進める。
そして。
「ご主兄ッ!?」
その身体を混沌に預けた。
「……血が付いたらごめんな。言葉で伝えたら、嘘になる気がしたから。」
今までずっと嘘をついて来た。
いや、言葉を嘘にして来た。
だから、もう嘘はつかない。
「……なんで……?」
「俺にはどっちか選べない……だから全部選ぶ。
きっと、この力はその為に与えられた力だと……そう思うんだ。」
錬金術、嘘を本当に、虚偽をも過去に還す能力。
アビスという虚構の塊を倒すには打って付けの能力……だった。
「でも……私は……ご主兄様にこんな事を……!!」
「関係ない。きっとここでカオスを切り捨てたら、俺は絶対後悔する。
だから……俺はッ!!『お前をこんな所で終わらせない』!!」
使う、使われる。そんな一方的な関係ではない。
側に立ち、見守る者。
結果的に彼女達の立ち位置は変わらなかったが、でも大丈夫。今度はちゃんと手を繋いだ。
もう置いていかない。
「ーーーー!!!!』
混沌の最期は満開の笑顔だった。
「……消え……たの?」
二人の間にモノクロの風が吹いた。
「……そっか、私だったんだ。」
「……思い出しました。彼女……カオスは……」
「……パパ!!」
「ライト、いくよ。」
「……はい。」
風が二人の涙を拭った。
「……パパを……助けてくれるの?」
「当然!私達のせいでこうなったんだから!」
「責任は私達が果たします。ルミナちゃん、みんなを呼んできて下さい。」
「……うん……わかったの!!」
掌を当て、剣の身より冷たい身体に触れる。
「……心臓が動いてないし、血液も足りない…!!ライト……どうすれば……!!」
「大丈夫です。ステータスで死んでいなければ、ただの仮死状態。私達の足掻きの見せ所です。」
「………そうか私達がお兄ちゃんのペースメーカーに。
ううん、サイボーグの機械部分になれば……!」
「論理的には可能ですが…………いえ、それしかありません。私が血になって、内側から回復魔法を掛けます。』
「じゃあ私が外傷を塞ぐ、ライト…行くよ!』
光が闇に押し出され、全身を駆け巡った。
右胸に突き刺さる2対の剣が、呼応し合う様に脈動する。
いつも読んでくれてありがとうございます。
少しだけ文章を変更しました。




