『パスティ』
「では、私をパスティとお呼びください。
私の個体名は、非常に非効率的です。」
刀身にローマ字でパスティと刻まれた。
これから、彼女は成長するだろう。
沢山の人に使われ、運命の出逢いを果たす。
もしかしたら、滅びる運命なのかも知れない。
「よし、飲み込みの早い生徒は大好きだ。」
だが、それでも彼は彼女に知識を与える。
自分の持っている全力を尽くし、彼女の生活を良い物とする為に。
「リカート先生、真後ろです」
振り向き、一瞬で対応する。
後ろ回し蹴りが鳩尾に一発。
人形が床に崩れ落ちた。
「神喰ノ魔導偽剣って言うからには、そういう機能があるんだろう?何ができるのか、教えてくれ。」
少し機械の唸りを上げてから、鈴が鳴る様な透き通る声で告げた。
「神を喰らい、記録できます。」
「いや、言い方が悪かった、すまんな。」
その剣は、先程より少し大きく、機械音をかき鳴らした。
理解が追い付かなくて頭を捻るような姿を想像させるそれは、少し微笑ましい所があった。
金子練の気持ちが、わかった気がした。
「パスティ、君は何がしたい?」
機械音が止まった。
間違い探しではなく、正しさを考える。
「彼女、苦しそうです。」
彼女、というのは人形のようになってしまった母を指しているらしい。
そもそも、彼女と表現すべき者はパスティと母、それ位しかいない。
「助けたいです。先生。手伝って下さい。」
悪く言えば、抑揚の一切無い機械音声。
良く言うならば、透き通るような声でそう言った。
「俺も、彼女を助けたいと思っていた。
どうすれば良い?」
勿論、そんな愚行をアビスが許すかと言えば答えは否だ。
人形が三体同時に連携攻撃を仕掛けてきた。
「肉体に私を突き刺して下さい。」
迷わなかった。
血に染められる事すら無く、白の刀身が牙を剥いた。
……勿論、比喩的表現だ。
しばらくして、その人形はその場から消失した。
「……なんか…味気ないな。もっとカッコよくできるか?」
機械音が唸った。
次は蹴りで的を重ねてから剣で突き刺した。
今度は比喩では無く本当に手前の刀身が牙を剥いた。
中心にある刀身が舌で、白い上下の牙。
純白の龍だった。
「ふっ…カッコいいな。」
龍が獲物を食らった。
ちょっと派手だが、さっきみたいに急に消えるよりは格段に良くなっている。
最初に蹴りを加えた人形にもぶっ刺し、食らわせる。
「……カッコ…イイ………分かりました。」
散々唸ってから、淡々とそう告げるので、「知ってましたよ〜?」という強がりじみた台詞の様に聞こえ、微笑ましさが加速した。
いつも読んでくれてありがとうございます!!
特筆すべき事は無いですね。




