純粋
洞窟の外壁に2〜3メートル突っ込んだ所で、彼は漸く停止した。
「はは………ははは……凄いぞ…リカート……最高だ………父親として……鼻が高いよ……。」
そのまま、彼は朽ちた。
あまりにあっさりと、再生も自爆もせずに、そのまま崩れ去った。
代わりに。
「…………冗……談……だろ……!?」
洞窟から次々に人型が現れる。
まるで量産されたロボットのように一定のペースで人影が流れる。
そして、それが全部見知った顔だと理解した時、彼は地面に胃液を撒き散らした。
「なんなんだ………なんなんだよ…ッ!!!」
全てが母親の顔をしていた。
母は元から無表情を貫いていたが、ここまで無機質ではなかった。
こんな、工場で量産された人形のような無表情ではなかった。
人形のような母達が呻くように彼の名前を呼ぶ。
何もないというより、寧ろ無機質さが込められた声色が、まるでオーケストラのように乱反射する。
思わず、後退りをした。
「こん……な………理不尽な事って………」
無意識に膝をつく。
その母に似過ぎている人形達の持っているメスが等しく光る。
きっとこれから、リカート・ヴィルドはあのメスで、解剖の実験に使われる生物のように刻まれるのだ。
そして、解析され、量産される。
世界に、一陣の風が強く吹いた。
人形達を突き飛ばし、風の道ができた。
「先生!!!」
そこには、教え子が居た。
春に咲く野花のように純粋無垢な白色の刀身を持つ剣が投擲され、目の前に突き刺さる。
「…そうか、アイツ……完成させてたのか…!!」
脳裏に浮かぶのは、同僚にして友人の高速教師だ。
持ち手には『神喰ノ魔導偽剣』と刻印されている。
その持ち手へと手を伸ばす。
「その子は!まだ何も知らないです!!」
その手が止まった。
圧縮した風の掌底で纏めて5人を吹き飛ばし、アストルは更に続ける。
「エイジさんは言っていました。
『俺よりリカートの方が教えるのが上手いから、どうするかは任せる』って!」
この剣については、まだ何も知らない。
(……だが、今までもそうだっただろう?)
名前も知らなかった生徒達の表情が浮かんだ。
(……だが、俺はこいつの名を知っている。)
「ーー神喰ノ魔導偽剣……ゴットイーター・バルムンク=パスティーシュ………だったけか?愛着が湧くのは分かるが、長過ぎる。パスティ位が丁度いいか?」
持ち手を完全に握りしめる。
そして剣を地中から引き抜いた。
『初めまして。
私の名前はパスティーシュ=レコード。
神を喰らい、記録する者です。
ーーー登録者情報が一致しました。
リカート・ヴィルド様で間違いありませんか。』
周囲の人形に全く見劣りしない無機質な声で、剣がそう告げた。
母には悪いが、向こうがエンジンの駆動音ならば、此方は風鈴だ。
与えんとしている印象の方向性が真逆だ。
「そう、俺が担任のリカートだ。
様は要らん。リカート先生と呼んでくれ。」
もし此処にエイジが居たのなら、「それでこそリカートだ!」などと口走っただろう。
ただ、彼はこの場で最も。
「リカート…先生。了解しました。」
「ふふっちょっと早く後輩ができたね。」
先生をしていた。
いつも読んでくれてありがとうございます!!
パスティちゃん。
元気系、真面目系天然、勇者系、機械系
魔剣だけでこんなに個性が出たぜ。
文章中に誤植がありました…
誤 母には笑いが
正 母には悪いが
です。申し訳ありません。




