マジで望まれない親子喧嘩
「くっ…ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
キリキリと頭痛がする。
起動した魔導記憶が、普段以上の精度で発動している上、あくまで向こうの作戦とはいえ、リンシャルは深淵の侵食に対抗し、無理矢理喋っているのだ。
「くっ…くそっ!!!」
リカートは、一度も父に勝利した事は無い。
リカートが無と負を極めているとすれば、父は無限に片脚を突っ込んでいる。
次の瞬間、轟音の暴力がリカートを襲った。
最大限の回避行動を無に帰すレベルの爆発。
実際には、1秒に数百回の連続爆発という物量攻撃な影響もあり、膨張しすぎて冷えた空気が肌を刺す。
更には真空状態にも近い爆心地が拡散した空気を吸い込む。
ーーー圧倒的な正の暴力。言い換えればゴリ押し。
だが、彼は風圧を物ともせず、逆にリンシャルへと接近する。
「SPDを負の領域に突入させたッ!!!」
つまり、空間が空気を吸い込むスピードと全く同じ速さでの接近。
しかし、
「リカート!いくら操られていようと、僕は僕だ!初見殺しは通用しないぞッ!!!」
軽く横に移動する。
初見殺しの対策はそれだけだった。
これほど無く明快だが、それ故に単純。
爆発は開けた場所において、その爆風が途中で直角に曲がったりする事は無い、空気の吸い込まれ方も同様だ。
故に、その推進力は絶対に直線。
「あぁ、だから新しい初見殺しを考えた。」
リカートの身体が回転する。
足首を中心に急回転し、父の首根っこを荒く掴む。
「うぉわっ!?」
思わず驚きと喜びの混じった様な声を上げる。
息子の成長が嬉しいのだ。
それでも、そのまま回転をかけられて、床に叩きつけられた時には、流石に苦しげな声を上げたが。
「ちょっと子供っぽいが…『ローラースケーター』だ。」
叩きつけられた格好そのままに靴を見れば、確かに底が異常な程高くなっていた。
靴底が浮いていないのは、単純に走る時は勝手に格納されるのか、それとも必要が無いからか。
「…親父ーーーッ!?」
叩き付けられたまま起きない父に、思わず声を掛ける。
彼は自らの父が、既にこの世のものではないと確信を得ていた。
しかし、論理や理屈を無視した、その心では、まだ父が『父』であると信じていたのだ。
その心が今裏切られた。
「リカート…どうやら僕は殺さないと死なないのに殺せないらしい……
……滅ぼされないと……死なないらしい…。」
息が、止まった。
いつも読んでくれてありがとうございます!!
実は昨日、山登りに行ったんですが…自販機を探す羽目になり、3キロを往復する羽目になりました。
それで初めて気付いたんですが、人間って、『そういう状況』に陥るとムダ知識が湧いてくるんですね。
「聞いたことがある…ニンゲンは『長距離を移動する』事においては、他のどんな動物よりも優れていると…ッ!!!」
って、誰もいない林道で呟きましたよ。こわっ。




